フェスタへの想い

窓からマルタが外の様子を伺っていた。


「お嬢様、フェスタ様がお帰りになりましたよ」

「そう......。ここに来ると思ったけど、案外早かったわね」

「それはそうでしょう。お嬢様との仲を認めたのはボスですし」

「あの人、何でここに来たのかしら?学園では私に説明したいなんてこと言ってたけど」

「まあ、言い訳でしょうね」


その時、部屋の扉がノックされた。マルタが扉を開けに行くと、キャプスが立っていた。


「フェスタが来ていました」

「ええ、そのようですね」

「そのことで少し話しても?」

「はい。マルタ、お茶の用意をしてくれる?」

「いや茶は結構。少し説明しておこうと思っただけなので」

「では、ソファにせめて座ってください」


エリールがソファに座るようにすすめるとキャプスはソファに腰かけた。


「フェスタは、君とやり直したいようです。君はどう思っていますか?」

「私は、彼を許す気にはなりません。たとえ、彼が浮気しようと思ったわけじゃなかったとしても」

「なぜ?」

「“裏切り”と思われるような軽率なことをする人を信じられないからです」


エリールがハッキリ言うと、キャプスはうなずいた。


「そう言うだろうと思って、フェスタには今後は君に近づかないように言っておきました」

「近づかないようにだなんて、随分と厳しく伝えてくれたのですね」

「言い訳を聞いてあげるつもりでしたか?」

「いえ。彼は多分、誘惑されただけなのでしょう。気のいい単純な人だから」

「分かっているんですね、フェスタのこと」

「彼は考えが足りないんです。その後のことを考えるのがニガテで。私も彼の情熱的な言葉や行動で忘れていましたが、彼はもともとそういう人でした」

「未練はありませんか?」

「ええ」


エリールがニッコリ微笑んで見せると、キャプスはもう一度うなずいた。


「明日には組織が所有している建物に君が移れるようにしておきます」


そう言うと、キャプスは部屋を出て行った。


彼はフェスタの味方をするでもなく非難するでもなく、淡々と今後のことについて手を打ってくれた。フェスタは親友である割にアッサリだ。


でも、それで良いと思った。変に親友を思う気持ちから説得されたら面倒だったから。


今後も学園には卒業まで通わなければならない。フェスタは3年生だからまだ1年半は一緒に学園で過ごすことになる。


ただでさえ、組織という絆でつながっているから、彼と完全に関係を断ち切ることはできない。


キャプスにとっては、同じ組織内でのゴタゴタで人の配置などが面倒になってしまったかもしれない。そういう意味では自分に非はないものの、迷惑をかけたとエリールは思う。


ボスだと言ってもキャプスはエリールと同い年なのだ。ボスと学生の二重生活をしているのだから申し訳ない気がした。


「それにしても、浮気相手のラビィって子、1年生なのになぜ3年のフェスタに目をつけたのかしら?学園で美味しい汁を吸いたいなら、同学年でパトロンになりそうな人を探した方がいいんじゃない?」

「それはフェスタ様の影響力を狙ったのではないですか?あの方、歩けばすぐ誰かに相談事をされるではないですか」

「彼ってそういう人よね。皆に頼りにされて……理由くらいきちんと聞いてあげるべきだったかしら?」

「理由を聞いてもお嬢様が許してしまわれなければ、良いのではないですか?」

「もし、巻き込まれ事故ならば理由を聞いてあげるべきかもしれないわね......」

「お嬢様?ほだされないでくださいね?」

「大丈夫よ」


彼を許すつもりはないが、理由も聞かずに一方的に拒絶するのは何だか違うような気がしてきていた。それは、今まで彼と1年ほど付き合ってみて彼の自分への本気度も感じていたからだ。


エリールが彼と付き合っている間にしてくれたことを思い出してみると、いつでも彼はエリールに誠実だったと思う。


エリールが高等部から学園に編入すると、まわりは中等部から上がってきた生徒が多く、なかなか馴染めない頃があった。


そんな時、フェスタは下級生のエリールのクラスまで様子を見に来て1人でいる様子を見ると、ランチに誘ってくれたのだ。


誘ったのはエリールだけでなく、まわりを見渡して何人か女子も誘った。なぜそんなことをするのかエリールはその時は分からなかったが、後で聞いたらエリールに合いそうな女子生徒を選んでランチにまとめて誘ったらしい。彼の直感は当たり、その時に一緒にランチした子はエリールと今でも仲良しだ。


こんなこともあった。


ダンスの授業があったのだが、エリールは辺境に住んでいたのもあって自宅学習が常だったからまともにダンスの練習をしたことがなかった。だから、ダンスが下手でダンスの時間なんて無くなればいいのにと思っていた。


ちなみに、組織で働くエリールの兄達はダンスが得意。任務で必要になることがあるからだ。組織に関わらせたくなかったエリールの母をはじめ兄達は、エリールにまともにダンスを教えなかった。学校の授業科目にあるから基礎は教えてくれたが。


でも、学園に入ると中等部ではダンスの授業は必須だったらしく、皆ダンスが上手だった。フェスタは困るエリールを見て、図書室裏の庭で上達するまでダンスレッスンをしたのだ。


ちなみに、エリールの初めてのキスはそのダンスレッスンの時。あの裏庭は2人の思い出の場となっていた。


そんな思い出がいくつも思い出されて、エリールは胸が苦しくなったのだった。

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