裏組織ボスの顔

キャプスはボスの顔へと表情を変えるとフェスタに真実を告げた。


「彼女は確かにここに来た。彼女はしかるべき所に移らせる」

「なぜ!?」

「寮だとフェスタや浮気相手と顔を合わせるのがツライと言っているからだ」

「何があったか聞いていたんだな?さっきも言ったけど誤解なんだ。あの子とはそんなんじゃねえ」

「オレは2人から説明を公平に聞くためにお前をここに通した。そして正しい判断とやらが先ほどの結論だ」

「オレの状況をどうか理解してくれよぉ」

「フェスタ、エリールと付き合うとオレに言った時、言ったことを覚えているか?」

「忘れてねえ。忘れてねえけど......」

「彼女と付き合うならば“誠実でいろ”と言ったよな?」

「彼女の兄のゴーツとミュークは妹を組織と関わらせたくなかったからフェスタとの交際に反対したよな?それでも交際することを貫いたのはフェスタだ。つまり、彼女を傷つけたら、兄達から恨まれても仕方ないな。覚悟しておいた方がいい」

「そんなことは分かってる。オレの責任だ」

「当たり前だ。お前の心配はともかく、彼女の信頼を裏切ったことはマズイ」

「だからそれをエリールに説明したいんだ」

「彼女の父が死んだのは“裏切り”によるものだ。父が大好きだったという彼女は、裏切る者を決して許さないだろう」

「……」

「分かったなら、今後は二度とエリールには近づくな」

「そんな......!」

「自分でしたことにケジメをつけろ」


キャプスの言葉にフェスタはこれ以上、言葉を述べることはできなかった。彼は気安く話せる友人でもありながら、こうして有無を言わさぬ言葉を述べるボスの顔も持っていた。


フェスタはパイクに玄関まで促され大人しく屋敷を出た。


フェスタは屋敷の門構えを振り返り、初めてここの屋敷に来た時のことを思い出した。


キャプスとは父の仕事を知るまで直接の付き合いは無かったが、父の仕事を理解する年頃になると、この屋敷に出入りする父について来るようになって彼と知り合ったのだ。


最初は、1つ年下のキャプスはカリスマ性のある彼の父とは違って神経質なヤツだなと思った。だが、頭の回転が速く的確な答えが返って来る。すぐにデキるヤツだと認めた。


体格は自分に比べて華奢だったが筋肉はついており、身体的な能力にも問題無かった。スラリとした体型と甘い顔立ちで中等部当時から女子に人気があった。


年齢が近く、フェスタの気さくな気質もあってキャプスとは時間を置かずにすぐ打ち解け、プライベートでも遊ぶようになった。


高等部に進み、やがて辺境で仕事を任せていたグリール家のエリールが学園に入園して来ると、フェスタはエリールに一目惚れした。


エリールは濃い茶色の髪と目を持つスラリとしたクールな雰囲気を持つ美人で、フェスタの好みのど真ん中だった。


親元から1人離れて寮に入ると事前に聞いていたから、彼女は自分が絶対守ってやろうと思った。彼女の母や兄達は極力、組織と関わらせたくなかったので、エリールは最初、フェスタが自分に近づいて来ることにいい顔をしなかった。


だがある日、街でエリールがしつこく男に声をかけられ困っているのを見て、フェスタがしつこい男を追っ払ったことが2人を急速に近づけた。


しつこくしていた男はフェスタに殴りかかってきたが、父から組織のための訓練を受けていたので、簡単にこぶしを手で払いのけると、男の襟元をつかんで吊るし上げたのだ。男は恐れをなしてすぐに逃げた。


“大丈夫か”と声をかけると、エリールはフェスタをキラキラした目で見ていた。そこからはすぐに2人は恋に落ちた。


彼女は家族に言いにくかったようだがフェスタのことをきちんと伝え、フェスタも家族にエリールとの交際を伝えた。フェスタの家族は好意的だった。


それからしばらくしてからだ。キャプスの父が任務中に命を落としたのは。


フェスタはキャプスを訪ねると、彼は悲しみにくれている様子は一切見せず冷静な態度だった。今思えば、ボスの役割を引き継ぐために気を張っていたのだろう。時折、疲れた表情を見せていた。


組織内に起きたゴタゴタはキャプスと父と共に片付けた。ちなみに、血なまぐさいことをしたのはこの時が初めてだった。裏切り者だったからためらいはなかった。


キャプスがまだ若いながらも落ち着き、人生を達観しているように見えたのはこの時の出来事が大きかっただろうとフェスタは感じている。フェスタはキャプスの親友として、将来の右腕として彼を支えた。


キャプスは、“裏切り”というものを許さない。彼の父が死んだのも“裏切り”によるものだったからだ。だから、“裏切り”というワードを出されると、フェスタはもう何も言えなかった。


「どうすりゃいいんだよ......そんな簡単に言われても割り切れねえ」


フェスタは街をあてもなく歩いた。彼の姿を見ると貴族である彼にも関わらず、街の人は気軽に挨拶などしてくる。余裕のない今、彼は手を軽く上げてやり過ごした。


しばらく自分のことで精いっぱいだなと思いながら学園の寮に戻ったのだった。

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