エリールを探し回る婚約者
「いねえ!ぜんっぜんいねえ!」
フェスタは学園での授業を終えると一目散にエリールがいる2年生の校舎に向かった。昨日の浮気と勘違いされたことを説明するために。
彼は、あくまでキスは故意的ではなく事故だと思っていた。
朝、女子寮に迎えに行くといつまでもエリールが出て来る気配が無く、授業開始の鐘が鳴ってしまったので仕方なく教室へと戻った。
休み時間に彼女の姿を確認しに行くと、教室に彼女がいるのを見てホッとした。フェスタの顔を見るとイヤな顔をしたが、放課後に時間をもらう約束をどうにかとりつけると一先ず安心して自分の教室に戻ったのだった。
エリールと話した感じは落ち着いていたので、1日待って良かったと思った。冷静になって彼女も何かの間違いだと思ってくれたかもしれないと少し期待する気持ちが出てきていた。
フェスタはいつだってエリールを大切にしてきたし、自分がそれなりに女子からも人気があるのもエリールは分かっているハズだという気持ちもあったので事態を少し軽く見ていた。
彼は能天気であった。
放課後になり、エリールと約束した場所に向かうと彼女はいなかった。学園の図書館裏の庭が穴場になっていて、よく学園で2人が会う場所となっていた。フェスタがエリールに告白したのもここの場所である。
「授業が長引いているのか?」
独り言のようにつぶやいてベンチに座ると、腕と脚を思い切り伸ばした。
(どこから説明するかなぁ......)
しばし、考え悩む。あれこれ考えていると、日が陰ってきてまわりが暗くなってきた。
(来ねえな......雨が降りそうなんで傘でも取りに戻ったか?)
とうとう雨がポツポツと降りだし、フェスタは学園内にエリールがいないか探し始めた。入れ違ったのかもしれないと思って再び約束した庭に戻ってみてもいない。
女子寮に戻っているのではと行ってみると、誰もおらず鍵がかけられていた。異変を感じて隣室の女子に聞いてみれば、昨日の朝に会ったきり会っていないと言う。エリールとはクラスが違うようだ。
「近々、寮を出ると聞いたけどいつとは聞いていませんわ」
それを聞いたフェスタはひどく驚いた。
(寮を出る?寮を出て行ったってことなのか......!?)
街の宿か?まさか、ボスの所に行っていないだろうなと、不安がよぎる。ボスにはエリールと交際するところから報告している。エリールがこの街で頼る人と言えば、ボスしかいない。
とりあえずは、街の宿から探すことにした。たまに、父親の街の巡回について行くこともあるため、フェスタが聞けばホテルに滞在しているならばすぐに教えてくれるに違いない。
こうして、フェスタは街のこれはと思う宿に聞き込みをした。だが、エリールを見つけることはできなかった。
(こうなったら、ボスの所しかねえ……)
ボスを頼ったとなると、ちょっとフェスタとしては具合が悪かった。エリールの家族に交際を反対された時にとりなしてくれたからだ。フェスタは覚悟を決めてキャプスの屋敷へと向かった。
「……で、フェスタがここに来たのは何をしに?」
「エリールがいないかなと思って…」
「なぜ、ここにエリールがいると?」
「ケンカして寮を出て行っちまって、街の宿も探したけど居ねえんだ。だとしたら、ここに来るしかないと思って来た」
キャプスとフェスタは居間で向かい合ってソファに座っていた。フェスタは制服を着崩して襟元を開けている。方々探し回って汗をかいたのだろう、腕まくりもしている。
「ケンカ?」
「......ああ。オレのほんのちょっとしたミスで彼女を勘違いさせた」
「ほんのちょっとのミス?」
「アクシデントとも言う」
「アクシデントね、何が起きた?」
「昼休みにオレの部屋に相談したいって女が来て、涙を流してあまりに必死だから可哀そうになってさ、抱きつかれたのもあってちょっと慰めたっていうか」
「慰めるって?」
「……気づいたらキスしてた」
「それをエリールに見られでもしたのか?」
「そうなんだ。オレは誓ってやましい気持ちがあったワケじゃない!身体が勝手に動いてた!」
「キスしたんだろう?それを彼女が見た。つまり浮気ととられても仕方がない」
「オレは狙われたんだよ!オレは皆の悩みもよく聞いてやっていたから」
「そうかもしれない。だが、やったことは消えない」
「そんな冷たいこと言わないでくれよぉ!」
床にひざをついて今にもキャプスの脚にすがりつきそうな様子のフェスタにキャプスは呆れた。
「とにかく、ここには彼女はいない」
キャプスの言葉を聞いたフェスタはよろよろと立ち上がるとエリールを探そうと部屋を出て行こうとする。
(......いつまでもあちこち探されたのでは仕事に影響が出るな)
「フェスタ、待て。話しておくことがある」
フェスタを引き止めると再度、ソファに座るように促した。やはり何かを知っていたかという顔をするフェスタが期待を込めた表情を向けた。
キャプスはやれやれとタメ息をつきながらも、ボスの顔へと表情を変えたのだった。
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