キャプスという人

(ボス......相変わらずクールな人ね)


彼は、基本的にいつも一線を引いて人と接しているように感じる。私みたいな部下の娘と話す時も敬語だし。人に気を許さない、とエリールは思う。


ただ、腹心であるフェスタと話す時は、たまに気安く話しかけているのを見かける時がある。フェスタはエリールより1歳上の3年生だが、フェスタは年下であるキャプスを見下すこともなく、絶対的な上司であると認識していた。キャプスも部下を守る存在として接しているようで強い信頼関係があるのは知っている。


キャプスの家はエリールの実家であるグリール家やフェスタの実家であるゼジット家などを含め数多くの部下を取り仕切る立場で、裏で王家の汚れ仕事なども請け負いながら警備隊隊長として街の治安維持を任されていた。ちなみに、キャプスはまだ学生なのでフェスタの父が隊長を代理で務めている。


そんなこともあり、気の良いフェスタなんかは街でモメ事などを相談されることも多かった。彼等の話を拾い上げてきてキャプスにも報告をしていたようだ。


ちなみに、キャプスの家であるタップ伯爵家は表向きの仕事として産業を支える企業としての顔もあったからかなりの資産家でもある。もともとは彼の父が企業のトップ兼裏組織のボスを務めていたが、任務中に命を落としてしまったため、若くしてキャプスがボスを継いでいた。


彼の母は組織の仕事を知らされていないらしい。エリールが兄達から聞いた話では、夫は戦地に派遣されて死んだと思っており、1人残された彼女は夜な夜な舞踏会に出かけて遊び歩いているらしい。


エリールも舞踏会で彼女がチヤホヤされて気分良くおしゃべりしているのを見かけたことがある。政略結婚だったから夫にそれほど未練は無いようだ。夫や子供よりも自分の遊びの方が大切な人らしい。


だからか、キャプスは学園で寄って来る女子生徒にとても冷たかった。美しい見た目を持つ彼は、裕福なのもあって学園でとても女子生徒から人気がある。でも、興味が無い彼は囲んでいる令嬢達を冷たくあしらっていた。


「僕に構わないでくれ。本が読めない」


そんな冷たい言葉を言っても、“クールでステキ!”だのと言われて、女子生徒達が勝手に盛り上がっていた。彼は普段、気の合う男子生徒といることが多かった。


エリールは裏の顔を知る彼には学園でも関わらないようにしていたし、彼もエリールに声をかけるどころか視界にも入れようとしていなかったので、接点はほとんど無かった。


たまに、フェスタがキャプスが話している姿を見かける時に、“ああボスなんだ”と思ったくらいである。彼は表には目立って出てこない人だった。


「お嬢様、変わらずボスはボスですね」

「どういう意味?」

「冷静沈着で人を寄せ付けないということです」

「まあ、組織のボスなのだから必要なことよね」

「もう少し肩の力を抜いてもらえたら良いのですが」


以前、彼の父の命が絶たれた時、組織内は揺れに揺れた。だが、彼の持つ特殊“スキル”が皆を認めさせ騒動を鎮定させたとのことだった。


この世界には“スキル”というものがある。スキルは簡単に言うと、それぞれの持つ特殊能力を指している。持つ者と持たない者がいるが、この裏組織に属する者の多くはスキルを活かして活動をしていた。エリールの家も特殊スキルのおかげで代々、重用されてきている。


キャプスはどうやら精神に作用するスキルを持っているらしく、エリールの兄達が言うには反旗を翻した者を再起不能にしたらしい。だから、裏組織の者は皆、彼のスキルを恐れて忠誠を誓ったのことだ。


再起不能にするなんてすごくコワイのだが目の前で見たことがないので、イマイチ彼をコワイとはエリールは感じていない。エリールは、キャプスどころかフェスタや兄達が戦っているところを見たことが無かった。


「私にもスキルがあることをボスが知ったらどう思うかしら?」

「お嬢様がスキルを持ちだということは長らく秘密にしてきたのですから、これからも伏せておいた方が」

「……そうよね、軽々しく話すものじゃないわよね」


エリールもスキルを持っている。だが、お父様やお母様、兄達はエリールのスキルを隠してきた。もし、知られたらイヤでも組織で役立てなければならなくなるだろうと言って。


エリールのスキルは自分を守ることができない無力なものだ。そのため、組織に関わらせたくないお父様達の方針で今まで組織には積極的に関わってこなかった。


そんなわけで、フェスタがエリールに一目惚れしてエリールを熱心に口説き、交際することになった時はかなーり反対された。反対を押し切って交際をすることにしたのはエリールだ。だから、寮を出たことをすぐには言えなかった。


(早く、新居見つかるといいな......)


エリールは明日の学園での生活を思うと気が重くなったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る