舞台女優ラビィ〈ラビィ視点〉

私は平民ながら学力に優れた者として貴族の令息や令嬢が多く通うこの学園に入園した。


この学園は貴族として生活をしていくためのマナーや知識、学問、人脈作りなど学ぶ場となっている。私は劇団を両親が経営していたから、貴族がたくさん観劇に訪れれば劇団の拍が付くし、お金も潤うと考えて必死に勉強をして入園したのだ。


学園に通う生徒を観察していると、3年生に皆から慕われているフェスタという子爵家の令息がいることを知った。


彼は、筋肉がしっかりとついている体格の良い男子で剣のスキルが評判だった。普段から皆に気さくに声をかけて、学園で起きたモメ事も難なく解決したりしていた。顔もそこそこ整っていて私の好みだった。


彼には婚約者の男爵令嬢がいてとても大事にしているようだったけど、そんなことは私にとって些末なことだったので狙いを定めた。というのも、私は女優としてすでに舞台で活躍していたから、恋の駆け引きなども演じるうちに自然と身についていたのだ。


両親も芸の肥やしとして恋することに文句を言わなかったから、入園前には恋人も何人かいた。だが、入園するにあたり身元調査などがあったせいで男達との関係はキレイさっぱり清算してしまっていた。


だから、入園してから頼りにできるスポンサーを見つけようと思って探していると、学園で影響力を持つ丁度いいカモ=フェスタがいることを知って誘惑することにしたのだ。


彼の行動パターンを見ていると、体育の授業があった時は部屋に戻って男爵令嬢と別にラチをとることが多いことが分かった。だから、体育の授業がある今日を狙ってフェスタの部屋を訪れた。


従者は、食堂のランチを部屋に運び、食事が済めば食器を下げに部屋から出て来る。その隙を狙えば追い返されることもない。


フェスタの部屋を訪れると、初対面の私が訪ねて来たのに驚いていたようだけど“相談したいことがある”と言うと、迷ってはいたが彼は部屋に私を招き入れてくれた。きっと従者がすぐに戻ると思ったのだろう。


でも、従者がすぐに戻って来ないのを私は知っていた。従者はほかの令嬢の侍女に気があってよく話し込んでいる姿を昼休みに見かけていたからだ。


私は傾きかけている劇団の状況をフェスタに話して弱々しい令嬢を演じた。途中、なかなか戻って来ない従者を気にしたのか、私をイスに座らせて奥の部屋に行ってしまったのは予想外だったが。


私は、奥の部屋の扉を躊躇なく開いた。すると、フェスタは着替え中だった。汗をかいていたから着替えをしても不思議じゃなかったけど、私と話している途中に着替えるなんてちょっとバカにしていると思った。


だから私は、これを利用しようと思って、涙をハラハラと流して震えながらフェスタを見上げた。手は前がはだけて素肌が見えていたところにワザと触れるようにして触れる。彼はビクリとすると、いとも簡単に私にキスをした。


そんな時だ。婚約者の男爵令嬢がこの状況を目撃したのは。


男爵令嬢は、私達を見て驚いた顔をしていた。反応が最も早かったのはフェスタだ。出て行った彼女を追うべく私を引きはがそうとした。


だけど、私にキスをしておいて簡単に行かせるわけにはいかない。キスした分、しっかりと取り立ててやるつもりでいたから、はかない女性を演じて引き止めた。フェスタは私を説得しようとして困っていたが、従者が戻って来たのでそちらに意識を向けた。


フェスタが従者を問い詰めると、従者はシレッと婚約者と2人きりで過ごせるように気を使ったなどと言っていた。男爵令嬢が辞書を投げ捨てて行ったところを見ると、彼女の来訪を知って本当に気を利かせたつもりなのかもしれないが。


とりあえず、私は従者に追い出されてしまったので、部屋を出て学園を歩いた。今頃、あの男爵令嬢はどこかで泣いているのだろうか。


私のせいではあるけれど、痛い思いをすれば男を見る目も養われる。勉強になって良かっただろうと思った。結婚してから浮気されて傷つくよりマシなはずだ。


そんなことを思いながらノドの乾きを感じて食堂に向かうと、同じ1年生の男子生徒から話しかけられた。丁度いい。飲み物でもごちそうしてもらおうと思って笑顔で応じる。


男子生徒は何が飲みたい?と私の望むものを聞いてすぐにオーダーしに行ってくれた。彼は伯爵家の次男で家は継げないけれど、演劇が好きでうちの劇団の劇をよく観に来てくれている人だ。


彼が長男であれば彼に狙いを定めても良かったのだが、今のところフェスタを使って多くの貴族に私をアピールしてもらうことの方がオイシイと思えた。


さて、今後はフェスタとどう距離を縮めていこうかなと、伯爵家の次男と話しながら頭の中で考えていたのだった。

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