婚約者フェスタ〈フェスタ視点〉
(なんでエリールが!)
オレは焦った。とても焦った。だって、オレの部屋にエリールが来るなんて全く思っていなかったから。
目の前の女、ラビィはオレの胸の服にしがみついてオレがエリールを追うのを阻止している。
「私にはフェスタ様の助けが必要なのです。置いて行かないでください!」
「離してくれ!エリールが!」
(従者はどこに行った?)
昼メシの片付けをしてくると言ったきり部屋に戻って来ない。午前の授業が終わり、着替えと昼メシを食べに部屋に戻るとラビィという女がいきなりこの部屋に訪れて来た。
オレに何やら相談があるという。オレは学園の中で起きるモメ事などよく解決してやっていたからこうして相談されることも珍しくない。
従者もすぐに戻ってくると思って、オレは部屋にラビィを招き入れた。だが、従者はいつまでも戻って来る気配はないし、この女は話の途中から泣き始めた。
よくよくラビィの話を聞いてみれば、所属している劇団の運営が傾きつつあり学園の生徒も観に来てもらえるようにオレからみんなに呼びかけてもらえないかといった内容だった。
オレは誰にでも気さくに声をかけるから友達も多い。困っているヤツがいればこちらから積極的に手を貸してやっていた。見返りなんてものは考えていない。そんなオレを見込んで相談にやってきたのだろう。
ラビィのいる劇団は両親が運営しているので生まれた時から育った大切な場所だと言う。親や仲間を思う気持ちを聞けば、オレも同情した。
とりあえず、どうしたものかと思いながらも、体育の授業で汗をかいた服を着替えるために、彼女をイスに座らせて奥の部屋で着替えをすることにした。授業後にエリールに会う約束をしていたから汗クサイと思われたくなかった。
奥の部屋の扉を閉めてオレが汗をかいたシャツを脱ぎ捨て着替えていると、人の気配がした。
振り返ると、しっかりと閉めたはずの扉が開いており、涙をハラハラ流すラビィが立っていた。オレは急いでシャツを羽織ると、彼女を部屋から出そうとした。だが、彼女は動かない。
しかも、自分を捧げてでもオレに劇団を救うための協力をしてほしいなんて言い出した。オレは身を捧げてもらうのはともかく、あまりに必死に懇願してくる彼女が少し可哀そうになって涙をぬぐってやった。
涙に濡れた目でラビィがオレを見上げてくる。彼女の手はオレの素肌に触れていて.......。心なしか震えているようだ。震える身体を止めてやろうとしてラビィの肩に手を置いた。
なのに……気付いたらなぜかキスしていた。決して下心なんて無かった。ただ、慰めたくて触れてしまっただけで。
が、そんな瞬間をエリールに目撃されたのだ。
オレは焦り、すぐに追いかけたい一心でラビィから離れようとした。
「私にはフェスタ様の助けが必要なのです。置いて行かないでください!」
「離してくれ!エリールが!」
すぐにでもエリールを追いかけたいオレはすがりつくラビィを説得してどうにか部屋から出そうとするが、彼女は納得してくれない。無理やり払いのけようかと迷った時、ようやく従者が部屋に戻って来た。
「フェスタ様?奥のお部屋にいらっしゃるのですか?」
奥の部屋まで従者が来ると、シャツをザッと羽織った状態のオレにラビィがしがみついていたから唖然としていた。
「なぜ、お前はすぐに戻らなかったんだ!」
「エリール様が辞書を返しにいらっしゃるとのことでしたので、気を利かせてお2人だけにしたつもりでした。何故、そちらの令嬢とそのようなことに?」
「色々とあったんだ!だが、そういう関係じゃない!この令嬢にお引き取り願え」
やっとの思いでラビィを部屋から追い返すとオレは着替えを済ませて、駆けて行ったエリールを探して学園内を巡った。どこかですれ違っているのか、もしくは寮の部屋に戻ったのかエリールに会えない。部屋に戻ったかもしれないと思い、オレはエリールの部屋に向かった。
エリールは部屋にいた。
だが、侍女が立ちはだかりオレに去るように言う。
「お嬢様はあなたの顔を今は見たくないのです」
「誤解なんだ!オレはエリールだけだ!」
「お嬢様一筋ならば、なぜあのようなことになるのです?お嬢様は深く傷ついていらっしゃいます。今、あなたが無理やり話をしたところで、取り乱してらっしゃるお嬢様には理解してもらえないでしょう。今日のところはお引き取り下さい」
「そういうわけにはいくか!何としても今すぐ話したいんだ!」
「あなたのそういうトコロですよ。軽率な判断がお嬢様を傷つけているのです。まずはご自分の行動を改めて下さいませ」
オレは物事を深く考えるのがニガテだ。正直言って成績も真ん中より下で良くない。考えたことはすぐに行動に移してしまいがちだ。だがその分、行動力があるので、人から慕われているが。
オレは侍女の言うことも最もかもしれないと思い、明日、エリールが落ち着いた頃に順を追って説明することにした。
その時のオレは、まさか彼女が学園の寮から出て行くとは思っていなかったのだった。
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