秋田

 一週間余り地元で過ごした。秋田の空気は長崎や東京よりずっと涼しく清らかで、それが優しく素朴に街を包んでいるように感じられた。4ヶ月ぶりに実家に帰った。使い慣れた空間は今や妹の根城となっていて、一階のリビングや妹に乗っ取られてしまった元僕の部屋も好き放題ものが散らかっていた。たった4ヶ月なのに家は変わっていて少し悲しくもあった。

 僕はやはり不変なものを見出したいのだと思う。実家には以前の僕が暮らしていた頃と変わらぬ安心感や快適さを残していて欲しかった。もし、秋田が逆境を堪えて寧ろ発展してしまったらノスタルジーを感じさせる田園風景が減ってしまうような気がする。そうなれば僕は帰る場所を失ってしまう。安寧をもたらしてくれる故郷が壊れてしまっては、僕の第一の居場所が亡くなってしまっては悲しみが止まらなくなってしまう。

 僕の秋田が好きという気持ちは僕が秋田で経験してきた過去の記憶により起きた感情である故、やはり昔ながらの姿を留めて欲しいと思ってしまう。こう考えると今の気持ちを見つめてみたって、それは常にそれ以前の事柄を材料に思うことなのだから現実を直視できていないんじゃないかと思われる。

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