無垢な季節

 ふと、子どもだけが愛を知っているような気がした今日この頃。

 僕は今日、大学の活動の一環で日中は子ども食堂にいた。50人を超える児童が同じ部屋に居てがやがやしている。10歳程の年齢差がある子たちにどう話しかけたら良いか迷っていたら、第一声は喉元でくぐもっていた。11時から10分経った。ある女の子たちがカードゲームで遊びがっている様子が目についたので、「トランプあるよ!」と声をかけてみた。すると、カホちゃんという子が「トランプあるって!遊びたい!」とノッてくれたので集団に混ざることが出来た。部屋の隅に陣取って、神経衰弱で遊び出す。僕の他にいた大学の先輩(ナルミさん(仮))もその子たちとは初めましてだったので、自己紹介から始まる。右からアオイ、カホ、ワカというらしい。なんとも無邪気で元気に溢れる子たちである。並べられたカードに迷いなく手を伸ばす様にすら若さを感じた。すっかりおじさん気分になって遊んでいると、カホちゃんとアオイちゃんがニヤニヤしている。「そうたお兄さん、5年生の先生に似てるぅ〜」だそうだ。その先生は笑わない人らしいが、僕は常にニコニコしている人間だから「先生が笑ってるみたい」と喜んでいた。そして付け加えられる「そうたお兄さん、カッコいい」。純粋な子たちに言われるといつもなら「そんなことないよ」と言いたくなるのだが、そんな台詞は封じられてしまった。「ありがとう」と笑って言えた。

 遊んでいるとあっという間にお昼ご飯の時間が来た。その3人はどうやら僕とその先輩とご飯を食べたいらしい。子どもより先にご飯を貰うわけには行かないので、最後尾について待っていると3人が5人テーブルを確保しているのが見える。純な気持ちで行動をしているのを見るとなんとも愛らしい。しかし、児童の通う小学校の先生が顔出しついでに昼食を食べることになり、僕はその子たちとは食卓を囲まなかった。代わりに一緒に食べることになった5人組は中々に騒がしい人たちで、中々にからかわれたが悪い気持ちはしなかった。

 ご飯をゆっくりと食べ、元いた部屋に戻ると子どもたちは遊びを再開していた。一緒に食べれなかったことを詫びると、利口にも仕方ないよと返事をして、すぐに遊びに混ぜてくれた。そして暫く『なんじゃもんじゃ』というゲームで楽しんだ。

 そして外に移動する。大学生が企画した水風船遊びが始まる。さっきまで遊んでくれていた3人が率先して外に出ると、他の子たちもわらわらと出てくる。皆んなで蛇口付近に溜まり、先輩が配る水風船に水を入れて作っていく。完成したものを見せに来てくれる子。出来た水風船をポヨポヨ言わせて遊んでいる子。色んな子を眺めて居ると、ある女の子が屋内から出てくる。この子は少し出遅れたのかなと思い、見ると目が合った。近付いてきたのでお名前を聞く。サキちゃんと言うらしい。サキちゃんも早々に蛇口前に並び風船を作ってくる。小さめだった。小さな拳で握って風船内の水を移動させて遊んでいる。「綺麗でしょ?」と見せに来る。風船のピンク色を褒めると満足気に蛇口に戻っていった。カホちゃんが「そうちゃん」と呼んだので反応すると、作りためた水風船の荷物持ちに抜擢された。決して重くないのだが、ずっと持っているのは少し面倒な重さである。サキちゃんが緑と黄色の水風船を抱えて帰ってきた。可愛らしいサイズ感の3つの水風船。サキちゃんはパステルカラーが好きなようだ。すると、さきちゃんが僕の隣にいたナツキさんに「お兄ちゃん、格好良い」と聞こえる声で言った。照れるしかない言葉である。どうして恥じらうことを恐れず言えるのか。無邪気は罪だなと改めて感じていると、袋から零れた水風船が破裂して僕のスニーカーが水没した。子どもはそれを笑っていたので良かった。

 水風船遊びが終わると室内に戻った。既に14時を回っており、沢山居た子どもも少し減って部屋にスペースが生まれていた。そこでお絵描きやら折り紙やらで遊びつつ雑談していると、突然さきちゃんからハート型の折り紙を貰った。「大好きだよ!」と書かれている。僕は8歳も下の子に心を動かされてしまった。後で、大学生の皆に似たようなものをプレゼントしているのを見て嫉妬して、僕が最初に貰ったことや他と形が違うことを意識して差別化しようとしてしまった。

 純粋な気持ちから来る言葉は心を真っ直ぐ貫いてくる。純粋な好意というのは素晴らしい。大人になると恋愛も、どこか打算的になって先の営みを想像してしまう。愛欲が邪魔するのだ。身体の繋がりになんか頼らない純な気持ちでの繋がりはどんな束縛より柔らかで、強固に繋ぎ止められるのだ。無知だからこそできた、それぞれで自分なりの方法を考えて当たってみるという行為が、いつからか受け狙いでテンプレに逃げてはいないか?本当に自分の心に沿った言葉で、気持ちからの行動で伝えられているか?

だから僕は子どもを見ると嫉妬せずには居られない。無邪気に、無垢に生きているように見える輝きを持っている。僕が失ったものを抱いて、季節を越えていって欲しいと願ってしまう。

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