Impression
柊准(ひいらぎ じゅん)
Fast rose
自分にとって居場所ってどこのことを指すんだろう。
まるで浮世絵のような薄い青色の空を見つめて、俺は思った。
自分には居場所も、色も、マジョリティやアイデンティティすらない。
けれど夢と言えるほどのものかは判らないが、そのようなものがあったことはある。しかし夢を抱いたのは一瞬で、それはすぐに透けて水が垂らされた模造紙のように儚げに散っていった。
そんな俺にも”転機”と呼べるものがあった。
恋人の存在だ。
彼女は特段変わったことの無い、いわゆる普通の人。
しかしそんな彼女でも俺と違ってラノベ作家になりたいという夢があった。
俺は彼女の原稿を読んだことがある。
まあ、薄っぺらい物語だと思った。これが小説だと言えるのか?
頬杖を付いてこの世の全ての嘲笑と罵声を浴びせた。
すると彼女は泪を流して原稿用紙のインクをにじませた。
――なんだよそれ。
これでいいんだ。これで。
俺はそう思い込むようにして煙草に火を付けた。
そしたらむせ込むような紫煙が昇っていくと、目を奪われた。
ああ、綺麗だよ。
汚ならしい醜態のような煙に、身体に害を与えるそれに同情される。
ああ、そうだよ。毒にも薬にもならないアドバイスを俺は彼女に突きつけて、アイロニー的(風刺的)な叫びと刃を彼女の首もとに切り付けたんだ。それが結局、自分のオルガズムだってことぐらい、判っている。
似たような生き方をして、似たような呼吸をして、似たような侮蔑をしている。
それこそが人間なのか。人間は体を表したメタファーなのかは判然としない。
短編「夢との決別」
Impression 柊准(ひいらぎ じゅん) @ootaki0615
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