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 幼馴染としてずっと近くにいたからこそ、今更こいつを意識することなんかない、と思っていた。小さい頃は手を繋いで遊びに行ったりしたこともある仲だ。身体と心が少しずつ大人に近づくにつれ、直接的なスキンシップは減ったにしても、時が流れるということ自体があたしたちを分つことはなかった。


 なのに、もやもやが止まらなかった。どうしてこいつが他の女子と喋ったり、いい感じの雰囲気になることがこんなにもムカつくのかが分からない。

 ついこの間も「そういや、こないだ陽葵ひまりに告られたんだよな」とか思い出したように言いたれてくれたので、あたしは何も言わずに丈の頭をぶったたいた。矢吹丈のような強さを微塵も感じない、痛えな何すんだよ、という彼の抗議に「女の子からの告白を片手間みたいに言うな」と一喝したのを思い出す。


 しかし口はそう言いながらも、その告白をどうしたのかを訊いて「正直あまり得意なタイプじゃないから、他に好きな人いるんでごめんって言った」と丈が返してきたときは、心の中でホッと安堵している自分がいたのだった。


 その事実を自覚した途端に、分からなくなった。

 ずっと、丈はただの幼馴染だと思っていたはずなのだ。幼い頃から近くにいた存在。お気に入りのマグカップ。いつの間にか端っこが潰れてしまったパスケース。縫製がほつれてきても捨てられないぬいぐるみ。でも、もしかするとあたしにとっての丈は、必ずしもそうじゃなかったのかもしれない……と。


 だから、この貴重な夏休みを使って、ひとつの研究をしてみることにしたのだ。あたしは事あるごとに丈へ連絡して、遊びに誘ったり、時にはアポなしで家に訪れたりしてみた。さすがにいきなり今日は無理だと断られたら、ずぶ濡れになった捨て猫みたいな表情を一瞬つくって「はは、まあそりゃそうだよね。そんじゃ」と大人しく帰ってみたりもした。まあだいたいは誘いに応えてくれたけれど。



 きっと、あたしと丈の過ごした時間の密度としては、互いに思春期を迎えて以降、過去最高のものになっているだろう。

 心理実験にも、環境づくりが重要だ。



 そしてあたしの研究は、今日これから、きっと次のフェーズに移行することとなる。

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