どうしようもなく

菫野

どうしようもなく

本は文字の布団のやうに閉ぢられて青いくらげの栞抱きつ


少し遠い「天使立入禁止です」とふ立て札のある海へゆく


おかっぱに切り抜かれた夜の海よこがお波の音を聞きたり


胸ぬちをくぐる列車よ橙のあかり檸檬のやうに灯して


たれもたれもひとのかたちのがらんどう、だとしてヴァイオリンと同じだ


どうしようもなく永遠の夏の日のカチューシャ・指輪・笹井宏之


ひと束の冬の記憶を燃しませうたとふれば冷ゆる雪だるまなど


産まれざる卵を流し終えていま砂浜を発つ古代をとめは


睡蓮を見ずに過ぎゆく七月の円周率を唱ふるゆふべ


感情が透明でしたくるぶしでショパンを鳴らす天使のやうに


産毛 合歓の花のごとくに揺らめかせ星を産むこと産まれることを


人界へ出てゆくわれのト書きには「理解されざるあいまいな愛」


星に立ちスカートの裾持ち上げるとほくからでもひかるひかがみ


とろんとろん木琴に似て落ちる音スマートフォンゆ鳴りやまぬまま


神の手の図鑑のなかの何ページ《にんげん》といふ項目やある

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どうしようもなく 菫野 @ayagonmail

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