どうしようもなく
菫野
どうしようもなく
本は文字の布団のやうに閉ぢられて青いくらげの栞抱きつ
少し遠い「天使立入禁止です」とふ立て札のある海へゆく
おかっぱに切り抜かれた夜の海よこがお波の音を聞きたり
胸ぬちをくぐる列車よ橙のあかり檸檬のやうに灯して
たれもたれもひとのかたちのがらんどう、だとしてヴァイオリンと同じだ
どうしようもなく永遠の夏の日のカチューシャ・指輪・笹井宏之
ひと束の冬の記憶を燃しませうたとふれば冷ゆる雪だるまなど
産まれざる卵を流し終えていま砂浜を発つ古代をとめは
睡蓮を見ずに過ぎゆく七月の円周率を唱ふるゆふべ
感情が透明でしたくるぶしでショパンを鳴らす天使のやうに
産毛 合歓の花のごとくに揺らめかせ星を産むこと産まれることを
人界へ出てゆくわれのト書きには「理解されざるあいまいな愛」
星に立ちスカートの裾持ち上げるとほくからでもひかるひかがみ
とろんとろん木琴に似て落ちる音スマートフォンゆ鳴りやまぬまま
神の手の図鑑のなかの何ページ《にんげん》といふ項目やある
どうしようもなく 菫野 @ayagonmail
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます