プロローグ2&第一話
「表を上げよう」
義母となる人の声は冷たく残酷で、私の命はこの人にかかっていると実感させられる。
加速していく鼓動とは裏腹に、私はゆっくりと顔を上げる。
「本日は私たちの婚儀にお越しいただきありがとうございます」
隣にいる"夫"となる人が言った。
その声色はどこか緊張している様子で、手に力が入っているようだ。
しかし、私が絶句したのには別の理由があった。なぜなら義母の目が一つしかないからだ。そして、頭にはツノが生えており、爪も鋭く尖っている。
さっき何体もの妖怪を見たというのに、これほど恐ろしいのに会うのは初めてだった。それは纏っている雰囲気に威厳があるからなのか、妖しさが全面にでているからなのか。多分さっき聞いた話が影響していると思うけど。
義母は西洋風の豪華な椅子に座っており、私たちを見下ろしている。その口元には微笑が浮かんでいた。
「そう緊張するな、余は可愛い息子に嫁ができて嬉しいぞ、さぁ、祝杯をあげるのじゃ」
盃を取る手が震える。
どうしよ、帰りたい、でも帰れるのだろうか?
ダラダラと汗が出てくる。
とにかく今は義母の機嫌をそこわないようにしなきゃ
だとしても、これがどんなに夢だったらよかっのだろう、とぼんやり思った。
*
1週間前
蝉の声が暑苦しい8月、大好きだった祖母が死んだ。
「恵子おばさん、今日は遠いところから来てくれてありがとう」
葬式前の待合室。そこは悲しみの空気が流れていながら、久しぶりにあう親族達と故人を悼む場でもある。
隣に立っている母が参列者のぽっちゃりしたおばさんに声をかけた。
「昭美ちゃん、この度は、本当にご愁傷様です...」
おばさんは振り向き驚きの顔を見せたが、すぐに挨拶をし瞳を潤ませる。
「うぅ、桜子姉さんも逝ってしまうとはね、この歳になると別れが多くて、ほんと寂しいくなるわ、姉さんはまだかと思ったのに」
「ほんと、別れが突然過ぎて...でも恵子おばさんがきてくれて、母も喜んでいると思うわ」
母が気弱な笑みを浮かべて答える。
「そうだと嬉しいわね...そういえば、お隣のお嬢さんはもしかして、瑞桔ちゃん?」
「あっ、そう、娘の瑞桔です、ほら瑞桔挨拶なさい」
私はこう言う時だけ母親面しないでよと思ったが
「初めまして瑞桔です。今日は祖母のために参列して頂きありがとうございます」
そう言う私は深くお辞儀をした。
「あらあら、まぁ大きくなっちゃって。実は私たち初めましてじゃ無いのよ?」
おばさんは微笑んだ。
話を聞くとどうやらおばさんは、私から見て大叔母だったらしい。昔はよく会ってて、遊んでくれたとか。
「初めてあった時はこーんな小さかったのに」
おばさんが口を窄め、親指と人差し指を5センチぐらいに広げながら言う。
いや、そんなに小さなわけあるかい。
突っ込んだほうがいいのか迷った私は、
「うふふ、、恵子さんは祖母と仲が良かったのですか?」
とりあえず愛想笑いをし、話を続ける選択をした。
「あら、瑞桔ちゃん良いことを聞いてくれたわね。実は私ね姉さんのファンの1人なのよ。姉さんには昔っからよくさせてもらってて、初めて会った時は美人すぎてこの世の人じゃ無いとか思ったけど、実際に話してみると、、、」
急なマシンガントークとファン宣言に戸惑いながらも聞き流していたら
「姉さんはほんと面白い人でね、子供達にも妖怪の話とかしてて、親戚中の人気者だったわ、しかも、、」
"妖怪"その言葉を聞いてフラッシュバックが起こった。部屋の中でばぁばの膝の上に座る妹と側に寄り添う私。
昔妹と一緒にばあばのするお話が大好きだったのを思い出した。それは妖怪達の話で今なら嘘だと分かるが、子供の頃はワクワクし、座敷童に会いたく夜遅くまで起きてたこともあったけ。
「でも、そんな姉さんも過去のこととかは一切話してくれなくて、今考えるととっても不思議な人だった...」
そう話すおばさんはとても寂しい顔をしていた。すると私の顔を見つめて、頬に手を伸ばしてきた。
「瑞桔ちゃん本当姉さんに似てるわ、特にその紫色の目...姉さんね電話する時いつも孫の自慢ばっかしてたのよ、特に瑞桔ちゃんは優しい子だって」
私はそれを聞き心に錘が落ちた感覚がした。私が優しい子?ばぁばそれは違うよ。私は自分の利益のことしか考えられない奴。大好きなばぁばが自慢の孫って言ってくれたのに、ごめんね裏切っちゃって
...やばい、自分の人生のことを考えるとダメすぎて逃げ出したくなってきた。
「うぅ、うぅぅうわ〜なんで先に行っちゃうのよぉぉ」
そんな時急におばさま大号泣。周りの人たちもチラチラ見てくる。ほんと感情のジェットコースターね。でもその涙に感謝し、気持ちを切り替える。
母がおばさんの背中を撫でていると、式場のスタッフの方が葬儀の始まりを知らせにきた。
⁂
式は無事に終わった。葬儀中は泣いている人が多く、皆んな本当にばぁばの死に悲しんでいる様だった。とくにおばさんは泣いてて、多分私の分まで泣いてくれたと思う。
私はばぁばの人脈の凄さに圧巻した。もし、私が死んだら泣いてくれる人はいるのだろうか。妹の柚ぐらいは悲しんでくれるだろうか。急にそんなことを、ふと思った。
「瑞桔」
玄関にいる私を呼ぶ声がし振り返る。そして無表情の顔を向けた。
「なに?」
「今日東京に戻るの?夕飯一緒に食べない」
声の持ち主は母だった。私と母の関係はあまりいいとは言えないもので、未だに接し方が分からない。
「明日も仕事だし帰るよ、じゃぁね」
私は振り返らず家を出た。
その答えが正解だっのか分からなかった。
でもまだ母と面と向かって話すには心の準備が必要なのだ。もうすぐで21になるのに笑
でもやっぱ1人でいる方が心地良いや。
スマホを取り出して画面を見ると、予定している新幹線の出発が迫っていた。
「やばい」
私は歩くのを早め、夜の街中を進んでいく。
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