第13話 【石を投げないで下さい】という看板
大学からバイト先に向かう途中にある広場に差しかかると、大きな〈念〉が聞こえてきた。
「〈アース〉での私が、その何の変哲もない食料を〈ヒルズカフェの〈オシャレでオーガニックなランチプレート〉と称して写真をネットにアップした理由は、料理を見てもらいたかった訳では勿論ありません。本当は、自分がそのオシャレで素晴らしい食材にふさわしい人間で、他の人間よりも満たされている選ばれた人間なのだという事を認めさせたかったのです!」
女性系の
上半身は、南国を思わせる鮮やかな黄緑色のオウムのカタチで、ボトムは最近流行りの〈ナチュラル派〉ファッションで木の幹のデザインだ。
2.3魂が漂い止まって聞いている。傍には【石を投げないで下さい】という看板が置かれている。
(この魂は石を投げられるような事をしているのか?)
オレは気になって、〈ウンウンと前のめりであいづちを打つ〉聴衆の列に加わってみると…
「そう!私は素敵なモノを共有したい普通の女子ではなかったのです!私はその時、醜い自分に興奮してしまったのです!〈お前らよりも高貴な自分〉に酔いしれながら〈カフェ飯〉を使って、私は〈素晴らしい自分〉を押しつけたかったのです!私は〈それ〉で満たされる女だったのです!」
女性的なその魂の目は、血走っていて、完全に〈イッテ〉いる。
(あの女性も完全な〈アースジャンキー〉だな。オレの仲間だ。それにしても石を投げられてまでする事にも思えない。いや、逆だ!あいつ石を投げられたいんだ!あの看板は〈誘い〉だな。)
おそらく彼女は〈石を投げられたくて〉日記を朗読しているのだろう。
オレは小さな親近感を覚えながら、再びバイトへと急いだ。
♢
(…なぜ、こうなってしまう!?)
エモエモパラダイスのカウンター席には、(上下関係と格好つけるのが大好き)なヒロシさんが、初めての女性系の
「ダダくん、コイツは〈ひとみ子〉。最近行き出した店の一番人気ダゼぇ。仲良くしてやってよ。あっ、呼び捨てにしていいのはオレだけだぜ!」
「どうも〈初めまして〉、ひとみ子です!」
そこには、さっきの路上〈日記朗読〉のオウムがすまし顔で漂っていた。
しかもややこしい事に、彼女は〈気づいてないふり〉を通すようだ。なにか非常に面倒くさい予感しかしない。
こちらでは〈念〉で会話するので、基本的にウソがつけない構造だ。
店に入って来た瞬間、互いに「あっ」という念を出し合ったのを確認しているのだ。
そう!彼女は〈知った上で隠し通せ〉と案にオレに要求しているという事だ。自分はウソをつかずに相手をコントロールするかなりの上級者だ。マジで尊敬するがややこし過ぎる」
オレは仕事初めのカクテル〈リスペクトムーン〉を飲み干す。〈尊敬したい気持ち〉〈賞賛したい気持ち〉〈施したい気持ち〉〈上下関係が好き〉などが入った、店員専用レシピのカクテルだ。
(さぁ、今日もメチャクチャな夜を楽しもう!)
♢
「そういえば、アレは決まったの? カクテル名の件だけど… いいのは見つかったかな?」
来た。〈カクテル名トーク〉だ。
オレは宿題だと言われていた〈ヒロシさんをイメージしたカクテル名を5個考えてくる〉という宿題を、その場で適当に考えて話し始める。
「ヒロシさんて、スゲー金持ってるじゃないっすか〜、だからこそ〈ゴールド〉って感じは絶対残したいんですよ。ひとみ子さんもわかるでしょその辺は…。」
「えぇ勿論わかるわ❤️、そういうゴージャスさはイケテルわね。私も大好きよ!ヒルズとかそういう響き…」
ヒロシさんは魂生の中で一番のような〈いい笑顔〉をしている。だから、オレは畳みかけた。
「〈高級ホテルをマンション代わりにしている〉っていうウワサもありますし、【ゴールドホテル】はどうでしょう!」
「えぇ〜、それどこのホテル? ワタシも興味あるし、そういう事って共感出来るっていうか…」
この現場で〈カクテル名〉を知りたがっているものは誰もいなかった。
ひとみ子さんが知りたがったのは〈高級ホテル名〉で
ヒロシさんが知りたがったのは、ひとみ子さんを口説き落とす方法で
オレが知りたかったのは、ヒロシさんがトイレに行っている間、ひとみ子さんと2人きりになった時の会話をどうしたらいいかという事だった。
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