第8話 誰かをぶっ叩きたい!
「あぁ、許せない!誰かを思いっきり否定したい!ぶっ叩いてやりたいのよー!」
エモエモパラダイスの扉を開けたのは、となりのゲイバーのママンさんだ。
どうやら、相当飲んでるらしい。すっかり出来上がっている。
「何を飲んだんですか?そんなに酔って…」
ママンさんは急に正気に戻って、恥ずかしそうにごまかす。
「いやねぇ、この前作ってもらったヤツに入ってるアレよ。〈革命の闘争心〉?だっけ?だったっけ?アレ結構気に入っちゃったみたいで、あたしがなんだけどね、あの原液をちょっとだけお友達が分けてくれるみたいでね、まぁお付き合いだと思って、仕方なくもらって来たわけよ。それでその〈誰かをぶっ叩きたくなって〉、となりのダダくんはぶっ叩かせてくれるのかなって、、」
(…どうしようもない
オレは冷や汗をかいている。恐ろしい地獄絵巻が始まってしまうのだろう。
つまり、ママンさんが〈その原液〉をどれだけ飲んだのか分からないにも関わらず、
何人ぐらいの想定イメージなのかも分からず、
ここには恐らく〈なじられたくて、痛め付けられ、論破され、罵倒されたい“おじさん寄り”の
(…この状況に興奮して、ワクワクしてしまっている自分がいる!オレはやっぱり〈変態〉の〈アースジャンキー〉なのだ。振り切ったネガティヴに惹かれてしまう!)
…と、ひとり戦慄していると、最初の客が現れる。
「こんにちわ、初めてで1人なんですけど…」
…見た目だけで確信する
(コイツは〈叩かれたいヤツ〉に間違いない!なんでパンダのぬいぐるみになっているんだ?頭のかぶり物だけ脱がないに違いない)
オレは念が漏れないように気をつけながら、カウンターの奥に客を通していると、また客が現れる。
「イヤー参った、ジョギングしてたらね、喉乾いちゃって、、、へへへ…。」
おじさん風の客は、裸で頭のあたりを大きな赤いりんごのカタチに見せている。
次の客は、裸に笹の葉で編んだ腰巻きをつけていた。「予約してたはずだけど…」とかいうウソくさい念を出していた。
これで、パンダ、りんご、笹、ママンさんが並んだカタチだ。
ソワソワしたような、不自然な長い沈黙…
カウンターを見まわすオレは、ふと気がつく
(そうだ!ママンさんが客を引き寄せたのではない!オレだ!この目の前の光景は〈オレ〉が引き寄せたのだ!こらから上演される変態劇場は〈このオレ〉が望んだ事なのだ!)
突然、沈黙を破ったのは、ママンさんだ。
「おそらくだけど…あなた達を呼んでしまったのは、私なのかも知れないわ。…この中にいるんじゃないかしら?ブッタタカレたい者が!」
「ヒッ!」
「ヒッ!」
「ヒッ!」
3人の肩がビクリとする。
パンダが頭をかきながら弁解する。笑顔だが、目は既に〈ごめんなさい〉という目をしている。
「いやー、今日は〈アース〉で会社の後輩をイジメちゃいましてね、ちょっとだけ楽しんじゃったもんだから、こっちで調整したい的な…。」
りんごも続ける
「僕は引きこもりで、両親にストレスをぶつけてしまったんで…。」
笹は、人にクレームを付ける仕事をしているのだという。
3人とも〈アースダイブ〉のし過ぎで、おかしくなってしまったのだろう。
〈アースジャンキー仲間〉のために、とっておきのカクテルを作って差し上げることにした。
カクテル名は〈ミモザの涙〉。〈罪悪感〉系の強めのカクテルは、〈自己否定感〉、〈罰して欲しい〉、〈なじり殺して〉、〈論理的思考〉、〈贖罪欲求〉、〈自己犠牲〉が入っているのだが、オレはちょっとしたイタズラのつもりで〈ボクのせいじゃない!〉という真逆のエッセンスも、混ぜてみる事にした。
(いったいどんな事になるのか…好奇心が止まらないっ!)
♢
1時間後ーーー
りんごオジサンと笹のオジサンをパンダのエサにみたてた劇場が始まっていた。
「母さん本当にごめんよ!だからかじらないで。悪いのは笹のヤツなんだ!」
「何言ってるんだ、金を巻き上げたのはオレだけど、その原因はりんごのヤツが作っていたんだ。だからすまない、食べるなら私を食べて下さい。」
それを見てふんぞりかえるパンダの尻をママンさんが、思いっきりぶつと、そこにはもみじが現れる。
「誰だい?このくだらない三文芝居を考えたのはダレ?」
3魂を正座させたママンさんは、ひとり1人時間をかけて〈ぶっ叩いていく〉
「お前か!パンダ!(ビシッ)お前が考えたのか!(ビシッ)何を威張ってるんだよ!(ビシッ)」
「お前だな!りんご!(ビシッ)食べられたいのかイヤなのかハッキリしろよ!(ビシッ)」
自分の番がやってくる前に、笹おじさんはあわてて叫ぶ
「やっ、やっ、やったのは自分で間違いありませーん!(ビシッ)」
混沌としたアースジャンキーたちの行為は、あまりにも常軌を逸しており、全く訳がわからないのに、オレの目を惹きつけてやまないのだ。
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