第7話 ママンさんのパートナーのぽえむ朗読
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真夜中の2時をまわった頃、オレのバイト先であるエモエモパラダイスのカウンターでは、店を閉めたママンさんがいつものビキニを着たまま酔い潰れて固まっている。まっすぐ前を見て、かれこれ1時間ずっと動いていない。きっと何かの最中なのだろう。
ママンさんの後ろにあるステージでは、誰に向かうでもなく、独りのオカマがポエムを朗読していた。
「愚か者!男山と女山を歩くおろか者…
その道が険しい事にも気づかない貧しき者たちに、私は美しく手本を見せましょう。
二つ山の間のどセンターに流れる小川のせせらぎとなり、せせらぎの真ん中を流れるもみじのひと葉となり、男も女も置き去りにして、進み続けるゲイの王…あぁ、刮目せよ!私は最先端を進む選ばれた王…」
…そう言って、とても厳かに、2枚のもみじの葉を乳首に貼り付け、一筋の涙を流したのは、ママンさんのパートナーをしているコブラさんだ。
コブラが巻きついている王冠の額の部分では、カマ首から赤い舌がチロチロ出入りしている。
〈差別意識〉を濃い目に配合した〈ロングゲイランドアイスティー〉を5杯も飲んでいるので、完全にハイになっているようだ。
なんでも今日は〈アース〉でかなりの差別を体験して、かなり興奮していたようで、バランスを取るために〈差別する側〉に回りたいのだそうだ。
コブラさんも〈分離的ネガティブ〉で快感を感じる〈アースジャンキー〉の1人なのだそうだ。
「ママンとのパートナー歴は長いのよ、それこそ何度も〈アース〉で夫婦になったわ。…で今は、大戦中のイタリアで軍人同士として知り合って、今日はイチャついていた所を他の兵士に見られて、変態あつかいされてボロボロになってた…ってわけ。つまり今日は〈ロングゲイランドアイスティー〉が飲みたいの。わかるでしょ。」
(…とさっき念じていたけど、そういう事なのか…今わかりました!)
…と改めてコブラさんの奥の深さに感心していると…
「あら?ポエムは終わったのかしら?」
ママンさんが動き出した。いったい何をしていたのだろう?さまざまな疑問が湧いてくる。気がつけば疑問だらけだ。なぜ今まで疑問にも思わなかったのか不思議なくらい疑問を抱いていると、必ず完璧なタイミングで答えはやってくる。
「アメリカのアリゾナ州には、ある〈イワクつきの崖〉があるのよ。ロッククライマーが命綱無しで挑んで、何人も死人が出ているのだけど、さっき私はその崖になっていたの。演じていたの。なりきっていたの。エアーギターのように!目の前を滑落していくクライマーを見ながら、何もせず〈ただそこに在る〉のよ。どう?たまらなく興奮するでしょ。」
…そして再び動かなくなったママンさんを見て、
「さすがにコレはない!」
…と、つくづく思った。オレにはまだ出来ない領域の遊びなのだろうが〈動かない〉のは無しだろう。もちろん念じはしなかったが…。
ふと下を見ると、ママンさんのビキニのスズメにコブラさんの王冠のコブラが噛みついていたが、オレは見て見ぬふりをした。
ここは自由な魂の世界、そういう日があっても良いのだ。
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