第6話 暴力シーケンス その2

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「ふざけないで!なんで私の洋服切り刻んでるのよ!これいくらしたか知ってるの?売ったら借金の足しになったのに、自分の首を締めてる事に気がつかないの? まぁどうせカードの支払いで困るのはあなただから、私は別に困らないけどね、後悔するのね。」


 妻の言葉にオレは怒りを抑えきれず、諦めるように怒りのリミッターを解除した。


「なんで気がつかないんだよ!洋服より家族の幸せが大事なんだって気付けよ。お前にとってどっちが大事なのかっていう事だよ。」


 高価な洋服のカードローンの月々返済額は、15〜20万円、ほとんどの買い物が2年ローンだった。


(こいつにとっての〈家族〉とは、自分と子供の事を指すのだろう。そこにオレは入っていないのだ。)


 その頃ターミナルプールでは、天使さまの指示が忙しく飛んでいた。


 「よし、完全にネガティヴサイクルに入ったわね。めったな事じゃそこから出られませんよ。」


 「ダダくんの方は〈ネガティブな正論〉を活性化します。〈職場での失敗やトラウマ〉〈自信の喪失〉をかき集めて注入してください。妻を〈家族の敵〉と認識させます。同時にオオカミさんは〈敵への野生的な怒り〉をマックスまで出して噛みつく準備よ!」

 「ダダくん聞こえてるわね、〈愛と憎しみの葛藤〉で爆発させます。細いパイプだけど最大濃度で愛を流し続けてね。絶対途切れさせないで!」


 オレは天使さまの声をずっと遠くに聞きながら、〈アースのオレ〉との間にある、金属ワイヤーのように細くなったパイプを、壊れないよう慎重に押さえている。意識のほとんどがアースに没入しているので、残りの薄っすらした意識でコレをするのはかなり高度な事なのだが、たまにコッソリと手放してアースの意識を〈フリー走行〉にする。

 コレは命綱を付けずにロッククライミングをするようなもので、〈変態〉のオレは超興奮してしまう行為なのだ。


 「おまえさ、それ本気で言っているのか?何を言ってるの?バカなの?こんなバカな女をオレは選んでしまったの?」


 「は? 何それ、借金の足しになるはずのモノをハサミで切っておきながら、自分の首絞めてる方がバカっぽいけど…。」


 オレの心は発狂しそうなほど煮えくり帰っていた。


 (こいつはオレを裏切った。もう愛していないのだろう。もう失ったのだ。しかし!家族を守る為にオレはこの怒りをぶつけてなんとか修正しなければならない。仕事を失ったオレにはもう家族しか残っていない。目の前の〈家族の敵〉を叩いて打ちのめし、愛する家族を取り戻さなければならない。しかし、その敵は〈愛する家族のひとり〉なのだ。もう訳がわからない)


 ターミナルプールでオオカミが「ガゥ」と吠えた時、〈アース〉では妻のホホをビンタするオレがいた。絶望感が広がる時の特徴的な〈無表情〉を見せていた。

 そしてプールで水に顔をつけている魂のオレは、フェイスマスクのしたで〈恍惚の笑み〉を浮かべていた。

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