第4話 暴力シーケンス その1
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大学のターミナルプールを背にした天使様がオレたちを前に、かなり神経質な顔をして漂っている。姿勢を正して細長く漂っているのはオレたち6
天使様は歌うようなメロディーに乗せて、高い声で念じる。
「えー、いよいよこらから〈暴力シーケンス〉が始まりま〜〜す〜〜!ここは、ぜ〜ったいに〜失敗出来ませ〜〜ん〜〜。皆さん気を引き締めて〜〜、二重の確認を徹底してくださぁい〜〜。」
オレは手首の調節機〈アースとの接続パイプの太さを調節する〉ダイアルが〈2〉になっているのを確認する。30段階の〈2〉はかなりの細さだ。そして硬くもなる…つまり折れやすくなるのだ。
(確かに、折れたら生まれるところからもう一度やり直しは面倒くさすぎる!)
オレは気持ちを引き締める。
「え〜、え〜、暴力を振るう方も、振るわれる方も〜〜、どちらもしっかりトラウマを植え付けなければなりませ〜ん〜〜。そうしないとね、しっかりと向こうで〈気付く事〉はできませんからね〜〜。」
まぁ、〈アースでこっちに気づく〉のは、この短期集中講座の最終目標だ。
今日のシーケンスはその布石となる重要なキーポイントだから、そりゃあ緊張する。
(あぁドキドキする!アースでのオレは、どんな反応をするのだろうか…正直いって興奮が止まらない!あんなに切ない主人公はいない!愛憎ドラマの一番いいところだ!マズい、思わず〈念〉が漏れそうだ!〈快感を感じる変態〉だとバレてしまう! …あっそうだ!〈学びの喜びの興奮〉にして出してしまえばいいのだ!」
立派な〈念〉を出すオレに向かって〈良し〉とうなずく天使さまは、その後30分、ヴィヴラートを効かせた〈諸注意の歌〉を歌い続けた。
♢
「ダダくんサイド、太さ2設定でパイプ接続開始。微調節弁解放。ネガティブ深度95%を維持、各種エモエネルギー注入スタンバイ」
天使さまが〈歌わないバージョン〉の念で、キビキビと指示をとばす。
〈アース〉内では、この後、夫婦間の家族会議が行われる予定なのだが、そこで口論→暴力…へと発展するように誘導するのが、ガイドたちの主な役割りでもある。
二二さんの指導霊が彼女にコッソリと耳打ちする。
「大丈夫よ心配しなくても。アースの彼は何を言ってもネガティブに受け取ってくれるハズだから、流れに任せるようにするのよ。私たちがしっかり〈煽らせて〉見せます!」
「はい!パイプは細いけど、なんとか感じられそうだし…。頑張ってトラウマ刻んでみせます!」
ニニさんも準備万端のようだ。それにしても申し訳ない気持ちでいっぱいだ。向こうで暴力を振るう事もそうだけど、何よりも〈それにオレが快感を感じてしまう〉…というのが、不謹慎だし、失礼な事なのだ。
「それでは〈ダダ・ニニ〉両名の同時アースダイブを開始します。座標は、東京のマンション内、23時から終わりは24時予定。体感時間は5倍、最後は暴力終わりでカットアウトします。それではレッツゴー!」
天使さまの合図でオレの意識は〈延長」され、一部がパイプを通り〈アースのボディ〉にたどり着き、オレの意識はそれを装着した。そしてオレの殆どが〈それ〉になる。
時が止まった静止画の世界が、周囲に生まれ広がり、時が動き出す。
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