第54話 天狐の眼

「天狐ちゃんの眼ってなんなの?」

アースランドが突然疑問を投げかけてきた。しかしヤマタドナも何も知らない為特に答える内容はない。


「さぁ、わからん。ただ恐ろしい眼なんじゃないかとは思う、本人にも1部の能力制御が出来ないとは聞いた。」


「そうなんだ、なにが制御出来ないの?」


「使った分の魔力を自動的に集めるらしい、本人は拒絶しようとしてもな。」


「だから天狐ちゃんは魔力が尽きないんだね。」


「あぁ、あと1度だけ黒い文様の制御が出来なかったくらいか。そのときはヴィカミオと戦った時だが。私は本来は眼を使うべきではないと思っているが勝手に動くからな、どうしようもない。」


「眼だけを取り除く事はできるんじゃないの?」


「それは一理あるな、ただ本人の代わりの目が必要になる。そう簡単にできることでは無いな。何より昏睡状態だ、変なことはするべきでは無い。」


「そっか、そうだよね。大人しく待つしかないよね。」


「そうするしかないな。」


「そっか。あーあ、天狐ちゃんと一緒に居られる時間が減っていくなぁ。私より長生き出来ないって言ってたし、なんでこんなことになるんだろうね。」


「おい、誰からそんな話を聞いた。」


「天狐ちゃんの心の声。たまに聞こえてくるんだよ、アースランドさんとずっと生きてられないんだろうなって、先に僕が死ぬんだろうなって。この眼のせいなのかなって。」


「…。」


「どうなの?」


「さぁ、それはわからない。ただ黒文様が全身に広がると死ぬと私は見ている。私がこの事を伝えたからだろうな、ただの憶測だと言うのに。」


「…そうなんだ、でももしそれが本当だったら?」


「わからん、本人にさえだ。憶測に過ぎん。」


「…。」


アースランドは黙り込むがヤマタドナが昨日決闘中にあったことについて話してくる。


「関係はあるか知らないが昨日の私との決闘で知らない天狐が出てきた。そいつが原因か?」


「どういうこと?天狐ちゃんじゃないって。」


「昨日の決闘で天狐は1度気を失ってな、勝負あったと審判に伝えたところで目を覚ましたんだ。そのとき知らない天狐が出てきた。」


「…。」


「そのときの天狐は別人で私が何も出来なかった。ただ本人は天狐に危害を加える気はなさそうだった、よくわからん。」


「そんなことあったんだ、確か黒い霧が出てる時だよね?」


「そうだ、その時だ。」


「そんなことあったんだ。」


「もしかしたらそいつが何か知ってるんじゃないか、気を失っているなら出てこれる筈だ。」

ヤマタドナは呼びかけるも反応がない、昏睡状態なのだろうか。


「何も反応しないね。」


「あぁ、ダメだな。天狐の意識が回復するまで待つしかない。」


「そっか、じゃあ暫くはここで生活だね。」


「そうだな、国王にも伝えておこう。」


こうしてこのことはヒィスト王国中に広がりヤマタドナとアースランドはしばらく滞在することになった。

天狐が眠ってから数日経つが互いに天狐の様子を見に行く。天狐が目覚める気配はないと感じるが、離れたくはないので2人一緒にいることもある。

先日話していたヴィカミオの存在が気になったのでアースランドはヤマタドナに聞く。


「ねぇ、ヤマタドナ。数日前にヴィカミオっていう人について話してたと思うんだけど、どんな人なの?凄く強いとしか聞いたことがないんだけど。」


「あいつのことか?ヴィカミオというのは氷の大陸にいる魔獣の王だ、昔私に喧嘩を売りに来て返り討ちにされた舎弟だ。なかなか面白い奴だぞ、天狐が家出をしてる時に会いに行ってきた。」


「なるほど、その時に行って戦ったんだね。にしても魔獣の王か、この世界の魔獣と関係があるの?」


「特に関係はないだろう、魔獣というのはヴィカミオと別の魔王という存在が産んだ獣だ。魔王は昔に滅んでいるから魔獣はもう誕生しない、ちょいちょい生き残りはいるけどな。」


「魔王ヴィルゴネスだっけ?」


「そうだな、ヴィカミオの兄だ。ま、そいつを滅ぼしたのは私だけどな。ヴィカミオがなんで魔獣の王と名乗っているかは知らんが、恐らく兄の1部を継ぎたかったのであろう。」


「よく恨まれなかったね。」


「わからせてやったからな。それに悪いのは魔王だから私は知らん、強さこそ正義な感じのヴィカミオは私の強さに屈したのかあれ以降反抗とかはなかった。」


「そうなんだ、でも私も強くなったら会いに行けるんだよね。楽しみだよ、話してみたいし。」


「そうだな、私がとことん強くしてやろう。」


「期待しておくね、駄龍さん!」


「おい!駄龍では無いだろう!」


「そう?結構だらしないよ?」


「なに!?訓練覚悟しておけよ!」


「覚悟しておくよ!」


2人はなんだかんだ仲良しであった。

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