第38話 出発まで グラツィア

オレロと婚約を解消した後二日後、今度はグラツィアと寝ることになった。


数日間いなくなるのは悲しいと言っていたが、その分一緒にいてくれることには喜んでいてくれて、それを言われると僕としても嬉しい限りだ。今日も仕事が終わると、グラツィアさんの部屋に向かうことにした。仕事についてはいつもと同じでマスコットしてるから本当に暇なんだけどね。


「グラツィアさん、入りますね。」


「うん、入っていいよ、天狐ちゃん。」

グラツィアから返事があると部屋の中に入り、お茶を入れてくれた。すぐには寝ないで話すことにした。


「天狐ちゃん、しばらくソアレフ領に行くんだよね?」


「はい、国王様に謁見とかなんとかで」


「そっか、緊張する?」


「いえ、特に。どちらかというと観光が楽しみです。」


「そっかぁ、どこに行くの?」


「屋台や酒屋、あとは結婚式場の下見ですかね。」


「え、いいなぁ~!でも私はいけないからお留守番か。私も行きたい。」


「それならサンドレス様に言えばいいと思いますけど。」


「私は天狐ちゃんのお嫁さん候補だけどただのメイドだからね、それに今回は仕事だから私は行かない、領主様がいない間は私たちメイドがしっかりしなくちゃね!」

まだ新人なのにすごくしっかりしてて関心してしまう。さすが屋敷のメイドだ。


「本当にこの屋敷の人たちはしっかりしていますよね。」


「それはそうだよ、この屋敷は選ばれた人たちしか入ることができないからね、天狐ちゃんがイレギュラーなだけだよ!」


「確かに、僕何もしてなくて受かりましたよ。」


「だろうね!天狐ちゃんはマスコット係だし!」


「…なんか扱いひどくない?」


「ひどくないよ?」


「そうですか。」


「そうですよ!」


「ならそろそろ寝ましょうか、もう眠いです。」


「そうだね、寝よう。」


二人はベッドに入り、互いを向く。

「あの、なんかいつもより近くないですか?」


「そう?しばらくは一緒にいないと思ったらね。」


「と言っても数日だけですよ。」


「そうなんだけどさぁ~。少しだけ寂しいなと思って。」


「そうですか、だったら少しいいですか?」

腕枕をしてあげて、頭を撫でてあげる。


「結構お兄さんっぽい一面もあるんだね。」


「え、そうですか?皆にいつもやってもらってるからたまにはしてあげようと。」


「そうなんだ、優しいね!ありがとう。なんかこうして寝るのは初めてかも。」

実は一緒に寝るといっても何もせずに、ただ一緒に同じベッドで寝ることだった。手も何も出していない。


「ど、どういたしまして。」


「でも私聞きたいことがあるんだよね。」


「え、なんですか?」


「どうしてオレロと婚約解消したの?」

急な質問に少し戸惑う。


「あー、それはなんで、ですかね。なんかアースランドさんの時間を奪ってるとか何とかで。」

ヤマタドナと何かあったんだろうけど、それは聞けないよな。


「そうなんだ。ねぇ、天狐ちゃんは私との時間はどう思ってる?」


「楽しいですけど。」


「なにもしてないのに?」


「え、まぁ、確かに何もしていないですけど、今はこうして腕枕してあげてますし。」


「そうだけどさ、そうじゃないんだよね。えっとね、私の聞き方が悪かったね。天狐ちゃんは私に惚れてるの?」


嫌な質問が来た。確かにアースランドさんとヤマタドナに比べるとめちゃくちゃ惚れているわけではなく、今は好きになろうとしている時間だ。僕がグラツィアさんに完璧に惚れるかはわからないけど。


「今はまだ、惚れていません。」

はっきりとその答えを言った。傷つくのはわかっているけど、本心は言わなきゃや駄目だ。


「やっぱり、そうだよね。領主様が勝手に決めたことだし、私はそれにあやかっただけ。ずるい女だよ。」


「僕はいいと思いますけどね。チャンスがあるならそこに飛び込むべきです。現に今は僕との婚約関係ですから。」


「そういわれると嬉しいけど、やっぱり納得できないよ。結婚が決まった後で一緒に寝ることはあってもそれ以上の関係は進まない。それはつまり天狐ちゃんは私には惚れていない。うすうす気づいていたんだけどね。」


「そうでしたか…。」


「うん。だからさ、私とも婚約解消しない?」


「それは、本心ですか?」


「わかんないけど、たぶん本心。一方的だし、やっぱりちゃんと惚れさせてから婚約関係を結びたいかな。だからそれまで待ってくれないかな?天狐ちゃん。」


「…わかりました。」


「うん、今日は一人で寝てもいいかな?」


「はい、じゃあ僕も部屋に帰ります。」


「うん、お休み。」


「おやすみなさい。」


こうしてまさかの二人と婚約を解消してしまった天狐である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る