第30話 狐と龍 ステラ・アースランド

次の日になり、屋敷を出て行って一週間以上がたった。

無人島での生活は楽しい。気軽に接する仲間もいる。

こうしてずっといるのもいいのかなと思っていたところにアースランドさんがやって来た。


船をつかせ、アースランドが無人島に上陸する。騎士の人たちは船から見送り、アースランドに檄を飛ばす。

「我々はここで待機しております!ご武運を!」


「うん、行ってくるね、皆…。」

そういうと天狐がいる場所へと向かい始めた。


「ここには危険な魔獣がいるはずなんだけどな。」

魔獣はどこにもおらず、怖いくらいにスイスイ進んでしまう。おそらく、天狐ちゃんが気を利かせてくれたんだね。ありがとう。しばらく歩くとそこに天狐を見つけるが、綺麗な女の人と話をしているのを見てしまい、思わず隠れてしまった。


「え、なに、あの人。もしかして天狐ちゃんの彼女?なのかな…。」


「そうだ、それと天狐は私と結婚する。」


「え、わあ!」

一瞬で詰め寄り、ヤマタドナがアースランドを脅かしながらこちらに連れてくる。しかし女の人の口から出た言葉にアースランドは頭が真っ白になる。


「ほら、連れてきたぞ、旦那様。」


「うん、ありがとう。」


え、待って、ほんとうに天狐ちゃんと結婚するの?でもそうなんだ、そっかぁ。私ではなかったんだね。

「えっと、け、結婚おめでとう、天狐ちゃん。その、幸せに、してあげてね…。」


いきなりその言葉をかけられて言葉を失う。なんて返せばいいのか言葉が出らず、戸惑ってしまう。

「…えっ。」


「それじゃあ、私、帰るから。じゃあね。」

さよなら、とても短くて長く感じた私の初恋。


「待て、帰るな。お主が第一夫人だ。未来のな。」


「…え、どういうことなの?それ。」


「なに、お主が二週間以内に来たら私が第二婦人、来なかったら私が第一夫人になる約束を天狐とした。」


「?」


「だからアースランド、お主が天狐の第一夫人だ。」


「…そんなこといきなり言われてもよくわからないよ。大体天狐ちゃんと結婚するとか何も決めてないし。」


「別に今決めなくてよい。将来結婚したいかしたくないかそれだけだ。私は天狐と結婚の約束をしただけだ。なんせ胸を吸われたからな!責任を取らせただけよ!ハハハハハ!」

ヤマタドナが爆弾を投げつける、それに呼応するようにアースランドも爆弾を投下する。


「そ、そんな、私だって吸われてるのに!責任取ってよ!天狐ちゃん!」


え、じゃあ初日から、僕はえっちな狐だ。

「え、やっぱり吸ってたじゃん、僕。」


「天狐、私が初めてではなかったのか?」


「え、し、知らない。」


「ふーん、天狐ちゃん他の人のも…。やっぱり、えっちなんだ。」


「あ、アースランドさん、誤解です。」


「何を言っておる。私と昨日致したのではないか。気持ちよかったぞ?」


「な、なんでそれを言う!」


「あ、天狐ちゃんの初めてが…。」


「アースランドさんも何言ってるんですか!やめてください!」


「じゃあ責任取ってよ!」


「け、結婚できる年齢になったら。」


「え、天狐ちゃん、そういえば今何歳なの?」


「15歳、ですけど。」


「じゃあ、成人した三年後に責任取ってもらいます。」


「そうだな、なら三年後、アースランドが第一夫人、私が第二婦人だ。いいな?」


「うん、それでいいよ。天狐ちゃんもいいよね?」


「…はい。」

拒否権はないんだろうな。当たり前か。


「それと私は聞きたいことがあるよ、なんでいきなり出て行ったの?」


「…。」


「ちゃんと答えて。天狐ちゃん。」


「…それは、みんな魅了に当てられているから、その、なんか違うのかなってなって、魅了に当てられているから皆は僕にやさしくしてるだけじゃないかと思って。特にオレロとか。」


「みんな心配してたよ?1週間も帰らないからさ。」


「…ごめんなさい。お花の意味を忘れさせる幻術をかけてごめんなさい。何も言わずに出て行ってごめんなさい。本当はずっと居たかったですけど、怖くなってしまって、姿を消してごめんなさい。」


「別に怒ってないよ、天狐ちゃん。それに、魅了は天狐ちゃんのいいところだよ。誰にでも好かれる能力、私が欲しいくらいだよ。」


「…」


「だから帰ろう?帰ってたら一緒に寝てあげるからさ。」


「…」


「はぁ、全く。」

ヤマタドナが僕を押し、アースランドさんが抱きしめる。そのまま腕を回して何も言わず抱き返す。


「そのまま連れていけ、私も行くから心配するな。天狐、お前が前の世界でずっと一人なのは知っている。だからこの世界では人との関わりを大事にしろ、私が言えたことではないがな。」


「…しばらくこのままがいいです。」


「はいはい、甘えん坊な狐さん♡」


こうしてしばらくアースランドに抱きついている天狐をヤマタドナが眺めていた。

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