第4話 領主様それは職権乱用では?
騎士のお姉さんがノックをして、言葉を発する。
「お父様、昨日通報があった狐耳の女の子を連れてきました。」
親子なの?てことは騎士のお姉さんは領主の娘さん?
そう考えていると中から声が聞こえてきた。
「入りたまえ」
お姉さんがドアを開き一緒に入室する。
「失礼します。」「あ、失礼します。」
そのまま部屋に入ると椅子に案内され着座し、領主様とお話しすることになった。
領主様は座っているけどおそらく背は高い。骨格もがっしりしていて、歴戦の戦士みたいな風格があった。
「おはよう、ぐっすり眠れたか?獣人の娘よ。」
「は、はい、ぐっすり眠れました。お風呂も貸してくださり、ありがとうございます。あと僕は♂です。」
「ずっとくっついて寝てたもんね!かわいい狐さん。」
それは言わないで。恥ずかしい。
「そうかそうか!眠れて何よりだ!娘に手を出したら少しあれだが、まず先に自己紹介をしよう。俺はこのステリオスの地域を治めるステラ・サンドレスだ。この子は娘のステラ・アースランドだ、よろしく頼む。」
「こ、こちらこそよろしくお願いします。冥途天狐(めいどあまこ)です。」
アースランドさんが僕を見て
「よろしくね。天狐ちゃん。」
からかってきた。だから僕は♂なんだって。
「しかしほんとに尻尾がないんだな。」
「あ、戦闘以外では使えないのでしまっています。」
「そうなのか?まぁいいか。ところで君は旅をしていると聞いたがそれは本当か?それならこの土地の名前を知らないのはちょっと怪しいのだが。」
領主様がこちらを見つめる。ちょっと怖いんですけど。
…どうしよう、ほんとのこと話すか、話さないか。
「えーと、旅はしていたんですけどドアを開けると気が付いたらここにいて、だからここがどこだか知らなくて…」
チーン
領主様のとなりにあるベルが音を鳴らす。
「あの、それは?」
恐る恐る聞くと領主様が口を開く。
「これは嘘発見器だ。今、君が話した内容に嘘がある。ちゃんと本当のことを話たまえ。ちなみにこの魔道具の正答率は100%だ。」
なにその魔道具、怖い。
「…すみません。旅はしていないです。でもドアを開けたらここにいました。」
噓発見器はならなかった。
「ふむ、なら気が付いたらこの土地にいたのは本当か。確かにそれならステリオスの名前すら知らなかったのも頷ける。通報してくれた人の情報通りだな。それで今までは何をしていたのか?それと住んでいた土地の名前は?」
「い、今までは色々をやってました。狩りをして料理を作ったり、敵と戦ったりしました。一人暮らしが長かったのでい、色々できます。あと、住んでいる土地の名前はスオリテスです。」
「全く聞いたことのない土地だ。本当に別の世界から来たのだろう。
とはいえ、ここに来てまだ2日目だが、前の世界に帰りたいとは思ったか?」
「い、いえ、特に帰る場所はないので気にしてないです。火をつけっぱなしにしていたので心配ですが…」
「…そうか。火はちゃんと消しておくんだぞ?」
「い、いきなり飛ばされたので…」
「しかし敵と戦ってきた経験があるのか。」
「はい、あ、あります。」
「自身はどのくらいの強さだと思うか?俺の見立てじゃ勝てるやつなどいなさそうに見えるが、強いて言えばドラゴンくらいか?…」
「え、ドラゴンって実在するものなんですか?」
この世界には、いるんだ。ちょっとお話してみたい。
「ああ、この世界にはいるぞ?そちらの世界はいなかったのか?
「いたそうですが、僕が生まれる前に絶滅したとかなんとかで…」
「そうか、それは残念だったな。だがこの世界にはいる。行ってみるといい。話は通じるはずだろう。」
「え、いいん、ですか?」
それならせっかくなのでお友達になってもらおう。強ければ僕の姿を見てもなんとも思わないはずだ。
「天狐ちゃん友達欲しそうな顔してるよ?」
アースランドさんが僕につっこむ。
「え、そ、そう見えます?」
「うん。」
「まぁドラゴンは賢いからな、自分をも超える存在に会ったらさぞ気になるだろう。友達になれるかはわからんがたしか、山の頂上にいるはずだ。」
「あ、ありがとう、ございます。それと僕は強いほうだとは、思います。」
確かに力を振るえばどんなものにも負けないだろうが、皆からの接し方が変わるのは好きじゃない。そういう人をたくさん見てきた。だからなるべく何もしたくない。
「そうだろうな!しかし、君は戦うことが好きか?」
「そこまで好きではないです、でも戦えと言われれば戦います。できればのんびり暮らして生きたいですが仲間の命が失われるくらいなら相手を葬り去ります。」
「個人的にはその強さを見込んで騎士にでもしたいが、そうだな、娘はどう思うか?」
そういうとアースランドさんと領主様がなにか話し始めた。防音魔法をかけたのだろう。魔法はすぐに解かれてサンドレス様がこちらに話しかける。
「ふむ、話し合った結果、騎士としては雇うつもりはなくなった。しかし君をこのま手放すのは惜しい。というわけで料理ができるならメイドとして働く気はあるか?」
まさかのスカウト?しかも騎士や執事じゃなくて?料理めちゃくちゃできるわけないし。でも泊まるところないからなぁ。お言葉に甘えようかな。
「あ、あの、それなら僕は執事じゃないんですか?それにメイドは女性だけなんじゃ…」
「いや、執事にはしない。執事になると執事天狐になってしまうからな!」
な、なんという暴論!そんなのってあり?
「あと、君は容姿が可愛いからメイドだ。まぁ可愛いからいいじゃないか!男のメイドも需要はあるだろうしな!ハハハ!」
そんなのあり?大体どこに需要が…
というか♂だって理解してくれていたのか。
「それにうちの執事は皆が180cm でイケメンだからな!だからメイドに置く!これは決まりだ、職権乱用ってやつだ。」
そ、そうなんだ。羨ましい。いや、それは駄目じゃないのか?
し、仕方ないとりあえずメイドでいいや。
「わ、わかりました。メイドになり、ます。」
「やったー!可愛いメイドさんゲットー!これからよろしくね天狐ちゃん!」
アースランドさんがにやにやしながら挨拶をしてくる。
「よ、よろしくお願いします。」
「うむ、よろしく頼む。しかしな、それとは別で頼みたいことがある。」
「な、なんですか?」
「この屋敷の守護を頼みたい。今まで特に問題があったわけではないが、保険をかけてな。」
今までなにも問題はなかったならそれくらいはいいか
「ま、まぁ、それくらいなら。」
「それじゃあよろしく頼むぞ!」
「が、頑張ります。」
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