3-6 小さな姉と大きな妹(2/2)

「……誰もいないということはないと思いますけど静かですわね」


 更に数年が経ったある日、ホムホムがいつものように遊びにやって来たがその日はやたらと静かだった。常であればチモックやマリア、3号に加えて4,5人のホムンクルスがいるチモックの館だったが、全くといっていいほど人気がなかった。


「……こちらのようですわね」


 静かな屋敷の端の方で物音が聞こえたので、ホムホムがそちらに向かうとそこには一人で部屋の片づけをしている3号の姿があった。


「お姉様~、お久しぶりです!」


「あ、ホム。おかえりなさい」


 元気良く声を掛けたホムホムに気づいた3号は、返事をしたがその声は震えていた。


「……お姉様、元気がないようですが大丈夫ですか?」


「正直、大丈夫じゃないかもね」


「……何があったのですか?」


 ホムホムの質問に3号は大きなため息をついて答えた。それは3号がホムホムに初めて見せた弱音であり、それを見たホムホムの表情も深刻なものへと変わった


「今日ね。私、以外のホムンクルスがみんなまとめて買われたの。その時、チモック様もよかったら私もって言ってくださったんだけどチビで貧乳の私はいらないって言われちゃった」


「……お姉様」


 普段であれば相手の見る目がないなど言って励まそうとするホムホムだったが、3号の落ち込みようからすぐにその言葉が出てこなかった。


「……でもあの時の少年のようにお姉様を買いたいという方もいらっしゃるでしょうし……諦めるのはまだ早いかと」


 そんな中でホムホムは一時的とはいえ3号を上機嫌にさせた少年のことを思い出し、3号へと伝えた。


「……まだ? それはいつまで? ……あの子に言われてから他の人には言われなかったし、あの子も何年も経って私の事なんて忘れちゃってるわ。もし覚えていても向こうは私と違って背も伸びて大きくなってるだろうし、こんな私の事なんて眼中にないわよ」


 しかし、ホムホムが絞り出した答えも3号には届かず、3号は自虐しながら溜まりに溜まった心の膿を吐き出した。


「……そんなことは」


 それでもホムホムは3号を励まそうとしたが、続く言葉が出てこなかった。


「……ホム。やっぱり私は誰にも必要にされていない失敗作なんだよ」


「……そんなことは」


 3号の言葉をすぐに否定したいホムホムだったが言葉を詰まらせた。3号をずっと見てきたからこそ彼女には3号がどれだけ追い詰められているか、生半可な励ましでは無意味なことも分かっていた。結局、その後もホムホムは何も答えられずに館を後にすることになった。


___________________



「ナンバ様、ミヤコ様。私、一生のお願いです。どうかお姉様を買い取ってはいただけないでしょうか?」


 買い主の元へと帰ったホムホムは、3号の危機的状況を解決するため、自らが3号を買い取るという最終手段を取ることにした。


そしてそのために、実質的買い主かつ家長であるナンバとその妻ミヤコに頭を下げた。ナンバは国有数の商会であるアキンド商会の会長であり、3号を買う資金を賄うことは難しくなかった。


「なあオトン、オカン。ホムがこんなに本気で頼んどるんやし聞いてあげられんやろか?」


「「……」」


 ホムホムに続き、ホムホムの主のミナミも二人に頭を下げた。実の娘にまで頭を下げられたナンバとミヤコはお互いに顔を見合わせた。


「とりあえず二人とも、顔をあげ」


 ナンバの言葉に従いホムホムとミナミはゆっくりと顔を上げた。


「ホムには長年、ミナミの世話を見てもらっとるし、感謝しとる。ただあそこのホムンクルスがそんなホイホイ出せる金額でもないことはホムも分かっとるな?」


「……うぐっ」


「私もホムがいつも一生懸命に働いてくれているのは知っています。それでもホムンクルス二人目は流石に高すぎます」


「……そう、ですか」


 薄々分かっていたことではあるが、ホムホムは肩を落とした。


「悪いなあ。できればどうにか……あっ、せや。ええこと思いついたで」


 肩を落とすホムホムを見かねたナンバは何かいい方法がないか思案を始めた。その結果、妙案を思いついたナンバの言葉に一同は目をやった。


「いいことですか?」


「ああ、辺境にあるからうちどころか他の商人達も商売ルートが確保できてないカナイ地方っていうのがあってな。出来れば早めに手を出したいとこなんやけど、手が空いてるのがおらんくてな。そこをうまくやれれば将来的にホムンクルス代以上の利益になるから金を出したるわ」


「それはミナミと一緒にということですか?」


「もちろんや。そろそろミナミにも大口の仕事をしてほしいと思っとったところやしな」


 ナンバが思いついたのはミナミとホムホムに仕事をさせ、その報酬として3号を買い与えるというものだった。


「……ミナミに仕事を覚えてほしいのは同意しますが、いきなり大口すぎませんか?」


「なに、ミナミはワイらの娘や。これぐらい出来る、出来る」


 ミヤコはまだ経験の少ないミナミとホムホムに大きな仕事を任せるのを心配していた。一方で、ミナミと同じぐらいの年齢から一代で成りあがったナンバは、娘であるミナミのことを信頼していた。


「一応、聞いておきますが二人はやる気ありますか?」


「上等や。ホムのためもそうやけど今までは細々な取引しかやらせてもらえんかったからな。ウチの実力見せたるわ」


「私もミナミさえよければお姉様のため誠心誠意全力で務めさせていただきます」


 ミヤコがミナミとホムホムに意志確認をすると、ミナミとホムホムはそれに頷いた。


「決まりやな。二人とも期待しとるで」


「商会の名に恥じないようにね」


「当たり前や」


「了解しましたわ」


 こうして二人は街道もろくに整備されていない辺境に赴き、交易ルートを作り上げることになった。しかし、ベテランでも難しいと思われる仕事を二人はわずか2年で完遂させた。


___________________



「お姉様~、どこにいらっしゃるのですか~?」


 仕事を完遂し、3号購入のための資金を手に入れたホムホムは3号の購入に向かったが時すでに遅く、既にゴーツによって買われた後だった。


それからホムホムは様々な伝手を使って3号の居場所を探っていたが、2週間経っても3号の所在を掴めていなかった。そのためホムホムはソファーの上で一人うなだれていた。


「これだけ探しても見つからへんってことは大分遠方か隠されたところっぽいなあ」


「……うぅ、お姉様~」


「ホム。気持ちは分かるけど少しはシャキっと……」


 ホムホムのあまりのうなだれ具合にミナミは苦言を呈しようとした。しかし、そんなタイミングで屋敷の使用人から二人に来客が来ていると連絡が入った。


「もしやお姉様!」


 連絡を聞いたホムホムはソファーから跳び起き、応接間へと駆け出していった。


「……現金なやっちゃなあ」


 一方で部屋に残されたミナミはほどほどに急いで、ホムホムの後を追った。


___________________



「やあ、ミナミ。久しぶり……って程でもないか」


「なんや。サブはんか」


「……」


 ミナミが遅れて応接間にたどり着くとそこには一人の黒髪の男性がいた。彼、サブはミナミとホムホムの商売ルート開拓中に知り合った人物で、ミナミ達の商売ルート開拓がスムーズに終わったのは彼の働きによる部分も少なくなかった。


「……はぁ、お姉様かと思いましたのに~」


 また応接間にはソファーにもたれかかっているホムホムの姿があった。


「……ごめんな、サブはん。積もる話もあるかもやけど今ちょっと取り込んどってな」


 落ち込むホムホムの姿を一瞥したミナミはサブへ謝り、帰ってもらおうとした。しかし、サブは軽く指を振った。


「お姉さんのことでしょう?」


「知っているのですか!? お姉様の場所を!!」


「ああ」


 サブの言葉にホムホムはソファーから跳び起き、彼へと迫った。興奮したホムホムは巨大な体格もあってかなりの圧迫感があったがサブはそれを前にしても涼しい顔で頷いた。


「……いくらや?」


「いやいや、僕と君たちとの仲じゃないか。お土産とでも思ってくれればいいよ」


 二人の横に回ったミナミはサブへと情報料を尋ねたが、サブは料金はいらないと答えた。


「タダより高いものはない。っていうよりも貸しを作っておきたくないんよ」


 サブの無償の情報提供は一見、美味しい話だった。しかし、商人であるミナミにとっては貸しという実体のない存在の方が厄介だった。


「……そうかい。ならこちらも情報を一つ貰おうかな?」


「……とりあえず言ってみ?」


 ミナミの言葉を聞いたサブは一考し、貸し借りなしにするために代わりの情報が欲しいと答えた。一方のミナミは、ひとまずその内容を聞くことにした。


「ホムホム。君はお姉さんが買われることを望んでいたはずだ。買われたのならそれでよかったんじゃないのかな?」


 ミナミの言葉にサブはホムホムの方へと振り返ると、ホムホムの矛盾した行動について尋ねた。


「……うっ⁉ それは」


「……そう来たか」


 サブの質問にホムホムは言葉を詰まらせ、ミナミも失敗したと後悔した。


「まあ、こっちは元からタダで教えるつもりだったから答えられないのであればそれでも大丈夫だよ」


「……ホム。どうする?」


 ホムホムの様子にサブは答えなくてもいいと言い、ミナミも答えを強要する気はなかった。


「…………いえ、答えさせていただきます」


 ホムホムはしばし悩んだ末、質問に答える決心を決めた。


「お姉様は生まれの不幸のせいで今までずっと苦労されていました。だからこそお姉様には幸せになっていただきたい。いいご主人様に出会えたのであれば言うことはないのですが、そうでないのなら私がお姉様を迎えに行きたいのです」


 ホムホムは3号を迎えに行きたい理由を語った。


「そうか。意地悪な質問をしてすまなかったね。答えてくれてありがとう」


 ホムホムの答えを聞いたサブは、質問内容を謝るとともに答えてくれたことへの感謝を述べた。


「それでは改めてお姉さんの居場所を答えよう。場所はメモリア。そして現在の主人はその町長のゴーツ・ゴーマン氏だ。これ以上の情報は必要かな?」


 続いてサブは、約束通り3号の居場所について答えた。


「……メモリア。なんとかって魔物が封印されたっていうあそこか。それでゴーツって言ったら確か封印した張本人やったな?」


「そうだね。ついでにいうと買い取りたい人間がいれば原価で売る言っているらしいよ」


 場所を聞いたミナミがサブに確認すると、サブはゴーツが3号を売ろうとしていることについても伝えた。


「……はあ? せっかく買ったのにすぐに原価そのままで売るんか?」


「そうらしいよ。まあ、変人で有名な人物だからね」


 商人であるミナミは一銭の得にもならないゴーツの行動に首を傾げた。


「……メモリア。金目当ての荒くれ者達のたまり場じゃありませんこと。こうしてはおられません。一刻も早くお姉様を助けに行かなければ……ミナミ、私、すぐ準備をしてきます」


 ミナミがゴーツの思考に頭を悩ます一方で、ホムホムはメモリアへ向かう準備のために部屋へと駆け出した。


「……ごめんな、サブはん。この埋め合わせは後で必ずするわ。……こら、ホム。待ちぃ!」


 そんなホムホムを見てミナミは、サブに頭を下げるとホムホムを追って応接間を後にした。この後、すぐさま準備を終えた二人は全速力でメモリアへと馬車を走らせた。


「それでは待っておるからの」


 二人の馬車の出発を見送ったサブは、煙のように姿を消した。



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【キャラ情報】


名前:ミナミ・アキンド

種別:人間♀ 

年齢:16歳

身長:155㎝ 

胸囲:Hカップ

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