1-2 辺境町メモリア(1/2)
「Wooo……」
「Wooo……」
チモックの館から数百km離れた場所には草一つ生えない荒野が広がっていた。そこには全身を黒い靄のようなもので包まれた異形の存在が数多くうろついていた。それらの姿は個体ごとにバラバラで人型ものもいれば獣型のもの、更には複数の生物をつぎはぎにしたような姿のものまでいた。その異様な姿ゆえに彼らは魔物と呼ばれていた。
「「……」」
荒野の中に一つポツンと小屋ほどの大きさの円錐型の結界が存在していた。その結界の周囲には多くの魔物がうろついていたが、彼らは結界の存在に気づいていなかった。一方で結界の内側では一組の男女が静かに魔物たちの様子を伺っていた。
「クロースル、準備はいいか?」
結界の中にいる白髪赤眼の小柄な女性がもう一人の青髪の青年に声をかけた。また女性は動きやすいよう髪を二房にまとめ、肩や腹、足などを大きく露出した格好でをしていた。
「はい。いつでもいけます」
クロースルと呼ばれた青年は女性の言葉に頷いた。彼は露出の高い格好の女性とは対照的にポケットがいくつもついたジャケットを羽織り、巨大なバッグを背中に背負っていた。また彼は少し痩せ気味ではあったが背丈は人並みにあった。
「なら行くぞ」
青年、クロースルの返答を聞いた女性は勢いよく結界の外へと飛び出した。
「「「Wooo!?」」」
結界の外へ飛び出た瞬間、周囲にいた魔物たちが女性の存在に気づき、人とも動物とも違う声を上げた。
「……くらえっ!」
魔物たちが身構えている間にも女性は足を進め、それと並行して右手に力を込めた。すると女性の手の平に拳大の魔力の塊が形成され、出来上がったばかりのそれを女性はすぐさま手近な人型の魔物へと投げつけた。
「Wo!?」
魔力の塊はまるで吸い込まれるように人型魔物の脳天へと命中し、頭部にあたる部分が消し飛んだ。その後、まもなく人型魔物の全身は霧散していった。
「「「Woo~!!」」」
同胞がやられたことで魔物たちは激昂し、狼型魔物が先陣を切って女性へと飛びかかった。
「Woo……Wo!?』
しかし、狼型魔物の攻撃はかがんだ女性にあっさりとかわされ空を切った。そして攻撃が空振りして戸惑っているところに女性のアッパーが叩き込まれた。その衝撃に魔物は耐えきれず先ほどの人型魔物と同様霧散していった。
「「「Woo~」」」
またもや同胞がやられた魔物たちは女性に怒涛の勢いで攻撃をしかけた。しかし、女性に一度も攻撃を当てることも出来ずに一撃で倒され霧散していった。そして彼らの霧散した後には小石程度の黒い結晶が残されていた。
「Woo~!」
「……っ!」
女性が魔物たちを次々と撃破している中、少し離れた場所でクロースルも魔物と戦っていた。クロースルはグリップのついた金属製の長棒を武器に持ち、手に剣が一体化した人型魔物相手に鍔迫り合いを繰り広げていた。
「……そこ!」
クロースルはわざと力を弱め、バランスを崩した人型魔物へとカウンターの一撃を叩き込んだ。しかし、女性のように一撃で霧散させることは出来なかった。
「うりゃああ!」
そのためクロースルは人型の魔物への追撃を加え、5発目にしてようやく人型の魔物は霧散した。そして霧散した後には小石ほどの大きさの黒い結晶が残されていた。
「……ふぅ。やっぱり最深部はきついなあ」
クロースルが一息ついて女性の方を見ると、女性は群がる魔物たちを確実に一撃で霧散させていた。そして女性のいるあたりには女性の戦果を示す黒い結晶が数多く転がっていた。
「「「Wooo―!」」」
そんな中、まだ残っていた魔物たちが一カ所に集まり出した。そしてそれらは粘土のように溶け合い、合体を始めた。
「クロースル、任せたぞ」
「了解です」
魔物たちが合体している間に女性がクロースルの元まで移動して来た。一方で女性の指示を先読みしていたクロースルは鞄から卵ほど大きさのカプセルを取り出した。
「Wooo―――‼」
そうこうしているうちに魔物たちは合体を完了させ、一体の巨大な獅子の姿へと変わった。そして思わず耳を塞ぎたくなるような大きな咆哮を上げた。
「くらえ!」
「Wooo―!?」
そこへすかさずクロースルがカプセルを投げつけるとそれは巨大獅子の魔物に当たった瞬間に大爆発を引き起こした。その結果、魔物は体の大半を消し飛ばされ、そのままあっけなく霧散していった。
「やっぱりお前がいると大型の相手が楽だな」
「いえ、デレーヌさんのお陰ですよ」
クロースルは女性、デレーヌと話しながら巨大獅子型の魔物が霧散した後に残った拳大の黒い結晶を鞄に入れた。この黒い結晶、“魔結晶”は高純度の魔力の塊として高値で取引されおり、これこそが彼等の魔物狩りの目的だった。
「まだいけるな?」
「もちろんです」
「そうか。死なない程度に頑張れよ」
「はい」
「「「Wooo!!」」」
二人の会話を遮るように地面から魔物が文字通り湧き出した。それは魔物たちの大本がこの荒野の地下にいるからだった。
「今日は稼ぐぞ」
「はい」
魔物の湧きを確認した二人は再び魔物の群れへと向かって行った。これが60年ほど前に大陸の3割を喰らった魔物“国喰らい”と“英雄”ゴーツが封印された場所、通称“封魔の大地”での日常的な光景だった。
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「……しめて32万265Gじゃな。かなり稼いだのう」
封魔の大地のすぐ隣に位置する町、メモリア。そこはゴーツの復活後に新設されたばかりの町だった。そして成り行きでその町長になったゴーツは町長としての責務の一環として、魔物から採れた魔結晶の買取を町役場にて行っていた。
「分け前は折半でいいかの?」
「はい、それで」
「それでは一人16万132G。あまり1Gじゃな」
「余りはクロースルにつけておいてくれ」
「いつも本当にいいんですか?」
数時間、魔物を狩った分の報酬の分配方法を即決するデレーヌに、クロースルは申し訳なさそうに尋ねた。
「毎回毎回1Gぐらいで気にするな。それに私はお前と違って当面の金があればそれでいいからな」
「ありがとうございます」
クロースルはデレーヌに向かって頭を下げた。
「話はついたようじゃな。金はこのまま貯蓄でよいかの?」
「はい」
「私は10万もらっておこう」
分配が決まったことを見届けたゴーツは二人へ報酬の渡し方に尋ねると、クロースルは全額貯金の意を示した。一方でデレーヌは現金で10万G分を受け取ることを選んだ。
「了解した。では指輪を出してくれ」
「はい」
「ああ」
報酬の受け取り方を確認したゴーツが二人に指示すると、二人は拒否なく身に着けていた指輪をゴーツへと手渡した。その銀色の指輪はゴーツが造り出したものでこの町の住民票であり、更には町専用の通帳としての機能があった。
「……確かに。少し待て」
指輪を受け取ったゴーツは指輪を机の上に置いてその上から両手をかざした。すると指輪が青白く発光し、指輪の内側に刻印されていた数字が変化した。
「……これでよし。それとデレーヌは現金10万もな」
「ありがとうございます」
「……ああ、大丈夫だ」
ゴーツは指輪の刻印を確認すると二人に指輪を返却し、デレーヌには更に現金の入った袋を手渡した。そうしてクロースルとデレーヌは手渡されたものの確認をするとゴーツへと軽く会釈した。
「……それからクロースルよ。内密な話があるのでこの後、儂の部屋に寄ってくれんかな?」
魔結晶の取引を終えるとゴーツはクロースルに別件の話を切り出してきた。その途端、クロースルは険しい表情を浮かべた。
「今夜は仕事があるので早めに仕込みをしたいんですけど急ぎですか?」
「ああ、特に今回は大事な要件じゃからな。なに、そう時間は取らせん」
「……分かりました」
クロースルにはこの後も用事があったため出来れば断りたいと考えていた。しかし、ゴーツの言い回しから断り切れない案件だと判断した彼は、大人しくゴーツの自室へと向かうことを了承した。
「それからデレーヌさん、今日はありがとうございました」
「ああ、無理はするなよ」
「はい。それでは失礼します」
やむなくゴーツの部屋に向かうことになったクロースルはその前にデレーヌに別れの挨拶を伝えた。その後、彼はゴーツの自室のある役場の二階へと向かった。
「……とはいっても一度倒れてるやつのことはあんまり信用できないな」
クロースルがいなくなった後、デレーヌは大きくため息をついた。その心配は以前にクロースルが過労で倒れたことがあったからだった。
「まあ、一度倒れておる以上少しは分かっておるじゃろう」
「……だといいけどな」
ゴーツの言葉にデレーヌはもう一度ため息をついた。
「それはそうとこの後は酒場で食事かの?」
「ああ、まだ風呂は混んでるだろうからな」
「ならちょうど良かった。これからまた新しい者がこの街に来るので待っておるといい」
ゴーツが話題を切り替えるとデレーヌはゆっくりと目を閉じた。
「……男か?」
「ほう、お主の勘じゃとそうなるか」
デレーヌの言葉にゴーツは興味深そうに頷いた。そしてそのゴーツの様子にデレーヌは怪訝な顔をした。
「……違うのか? その割には嫌な気はしないぞ」
「結果はもうすぐ後じゃ」
「まあ、いいか」
ゴーツの態度を見て答えが返ってこないことを察したデレーヌは一人、役場に併設されている酒場へと向かった。
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【キャラ情報】
名前:デレーヌ
種別:人間♀
年齢:27歳
身長:142㎝
胸囲:Aカップ
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