1-1 ホムンクルス、ついに買われる!(2/2)

「これ、そこのお二人さん。ここがチモック・モウルの屋敷かの?」


「はい。こちらで間違いありません」


「もしかしてお客様でしょうか?」


 次の日の昼下がり、3号と47号は館の前の掃き掃除をしていた。そんな時、二人に低くしわがれた声の老人が近づいて来た。


「ああ、その通りじゃ」


「そうでしたか。それでは他のホムンクルスもいるので中へどうぞ。……47号、ここは私がやっておくから案内は任せるわね」


「は、はい。先輩。……それではお客様。こちらへどうぞ」


老人を客と認識した3号は、案内を47号に任せると掃除を一手に引き受けた。手際のいい対応ではあったが、それは自分はどうせ選ばれないという彼女の負の自信からくる行動だった。


「待った。それには及ばん。儂が今回、買いに来たのはお主じゃ」


 しかし、老人は47号の案内を断ると3号へと手を差し伸べた。


「……え?」


 老人の言葉に3号は言葉を失った。老人の言葉は彼女が長年待ち望んでいた言葉であり、だからこそすぐには受け止められなかった。


「…………本当に? 本当に私でいいんですか!?」


 しばしの沈黙後、3号は老人に詰め寄った。彼女の声は嬉しさと戸惑いから震え、顔は今にも泣きだしそうだった。


「もちろんじゃよ。そのために遠路はるばるやって来たのじゃからな」


「先輩、大丈夫ですよ。夢じゃないですよ」


 それに対して老人は優しく微笑み、それを見ていた47号も強く同意した。


「それじゃあ47号、ちょっと頬っぺた引っ張って。強めで」


「……失礼します」


それでも信じられなかった3号は47号に自分の頬を引っ張るように指示し、47号は言われた通り彼女の頬を強めに引っ張った。


「……痛い。……それじゃあ本当に……夢じゃない。……夢だったけど夢じゃない!!」


「良かったですね。先輩!」


「ありがとうございます。本当にありがとうございます!」


夢か現実かの確認が出来た3号は改めて老人へと深く感謝を述べ、何度も頭を下げた。そしてその嬉しさから彼女の頬には大粒の涙があふれていた。


「でも本当によろしいのですか? 私は見ての通りこんな見た目ですし、そういったホムンクルスをお求めであれば他の場所の方が安いかと思われますが……」


現実の確認が出来たものの長年の経験から自己評価の低い3号は未だに不安を隠せずにいた。


「いやなに、その方が色々楽しめそうじゃと思ったのでな」


 それに対して老人はあやふやな答えを返した。


「それはどういう……そういえばお名前をお伺いしていませんでした」


「ああ、そういえばまだ名乗っておらんかったな。儂の名前はゴーツ。ゴーツ・ゴーマンじゃ。これからよろしく頼むぞ」


「はい、よろしくお願いします。ゴーマン様。……もしやチモック様のお師匠様のお師匠様だったゴーツ・ゴーマン様ですか!?」


「えっ!? あっ、そっか。聞き覚えがあると思ったらあの大天才!!」


 老人の名前を聞いた二人は驚きの声を上げた。


なぜなら彼、ゴーツ・ゴーマンはホムンクルス技術の基盤などを含め数多くの技術革新を起こした人物だったからだ。


「面と向かって言われると照れるのう」


「……あれ、でもゴーマン様って何だか凄いのを自分の身を犠牲に封印したとかそんな感じになっていたような……」


「確か何年か前に復活されたとかは聞いた気がするわ」


 照れるゴーツに対して47号が疑問を浮かべるとそこへすかさず3号が補足を加えた。


「すみません、ゴーツ様。その認識で間違いありませんでしょうか?」


「ああ、大体は合っておるよ。細かく言うなら今も儂は封印されたままでこうして外に出ているのは本体が造り出した分体じゃがな」


 確認のため尋ねた3号にゴーツは事の詳細を話した。ゴーツは50年以上前に“国喰らい”と呼ばれる強大な存在を自らと共に封印していたが、近年になって封印内から魔力で出来た分身体を飛ばす術を身に着けていた。


「……分体。そんなことができるんですか?」


「儂じゃからな。それでもそれなりの時間はかかったが」


「……流石、大天才」


 3号の質問にゴーツは軽く答えたがゴーツの言う通り、他の人間が真似できることではなかった。


「それはそうと儂のことはゴーツと名前で呼んでくれたら結構じゃぞ」


「「……はい、了解しました。ゴーツ様」」


 ゴーツの言葉に二人は改めて会った時同様元気のいい笑顔を彼に向けた。


「立ち話もなんじゃしそろそろ本交渉といこうかのう」


「了解しました。それでは中へご案内しますね。47号、片づけはお願いするわね」


「はい、任せてください」


 こうして3号とゴーツは47号を残し、館の中へと入って行った。


____________________



「まさかホムンクルスの創始者様に会えるとは思いもしませんでした」


「なに、そうかしこまることもない。儂が造ったのは基礎の基礎。ここまで人として見た目も能力も高めたのはパラケルやお主らの功績じゃ」


 館の応接室でゴーツと対面したチモックは、最初は緊張の色が顔ににじんでいたが話が進むうちに話していくうちにつれてその緊張は和らいでいった。なおパラケルというのはゴーツが開発したホムンクルス技術を改良したゴーツの弟子であり、チモックの師匠のことだった。


「いえいえ、パラケル先生はともかく私は趣味に走っただけですから」


「なに、ここまで高められたのならそれで充分じゃよ」


「身に余る光栄にございます」


 ゴーツの言葉にチモックは謙遜して答えたが彼の作成したホムンクルスは胸部以外の完成度も高く、その技術は業界随一だった。


「それでは改めまして詳しい契約の話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「そうじゃな。始めるとしよう」


 こうして仲を深めた二人は本題である3号の売買契約を進めた。その後も契約は特に問題なく進み、彼女の売買契約が成立した。


____________________



「ろくな歓迎が出来なくてすみませんでした」


「いやいや、何の連絡もなくやって来た儂に問題があるから気にせんでよい」


「チモック様、マリアさん。長い間お世話になりました」


数時間後、荷物をまとめ後輩ホムンクルスたちへの引継ぎと別れを済ませた3号はゴーツと共に屋敷の外へと出た。そしてその見送りのためチモックとマリアもついてきていた。


「それではチモック様、マリアさんいってきます」


「ああ、いってらっしゃい」


「いってらっしゃい」


「……はい!」


 三人の別れの挨拶は一見あっさりとしたものだったが、長い時間をこの屋敷で過ごした3人にはそれだけで充分だった。


「別れの挨拶はすんだようじゃな?」


「はい」


「では行くとしようか」


「え!? これは……」


別れの挨拶が済んだ直後、ゴーツが軽く指を弾くとゴーツと3号の足元に魔法陣が出現した。そして驚く間もなく、彼女とゴーツは魔法陣と共に一瞬で姿を消した。


「……3号、大丈夫でしょうか?」


「唐突なところがあるというのはパラケル先生もおっしゃっていたからな。まあ好き勝手やっているようで案外周りに気を配る人だともおっしゃっていたから大丈夫だろう。……不安がないかというと嘘になるが」


その場に残されたマリアとチモックは、ゴーツと3号について不安を隠せないでいた。


「だがあの子の顔を見ていたら断ったりはできないよ」


「……そうですね。私もあの子があそこまで喜んでいる顔を見たのは初めてかもしれません」


 二人は3号がゴーツを連れてきた時の光景を思い浮かべた。その時の彼女の表情は10年以上の年月を共に過ごした二人でも初めて見たもので例え相手がどれだけ胡散臭そうな人物でも断ることは出来なかった。



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【キャラ情報】


名前:チモック製販売用ホムンクルス3号 

種別:ホムンクルス♀ 

稼働年月:10年 

身長:136㎝ 

胸囲:AAカップ

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