1-2 辺境町メモリア(2/2)
「……さて皆の者、注目、注目じゃ~」
デレーヌが酒場に向かって少し経ってからゴーツも酒場へと向かった。そして大声と共に手を叩き、周囲の注意を引いた。
「ん、なんだ。なんだ」
「厄介ごとじゃなければいいけど」
「あの様子じゃまた誰か来るのか」
突然のゴーツの行動に酒場にいた面々はゴーツの方へと注意を向けた。町に来てまだ日が浅い者は突然の事態に何事かと身構えたが、何年もこの町にいる者はまた新しく何者かがこの町にやって来るということを察していた。
「流石に察する者は察するのう。というわけで少し待つのじゃ」
ぐるりと周囲の反応を見渡したゴーツはゆっくりと酒場の床に魔法陣を描き始めた。
「一体どんな方が来られるんでしょうか?」
「ゴーツさんの人選だからなあ……」
「女の子がいいなー」
「俺は男がいいけどな」
「そうよね~。賭ける?」
「そうだな。5000Gでいいか?」
「いいわよ。5000Gね。女の子、女の子、かわいい女の子!」
「はい。ロマン様、あ~ん♡」
「ふふ、ありがとう。」
「……いえ、それほどでも♡」
「俺たちも賭けるか?」
「いいぜ。1000Gな。で、どうする?」
「1000Gかよ。……まあいいや。男で」
「……ふ、新たなる彼の地に誘われし者か」
「新たなるおっぱいは、いかなるおっぱいか。胸が弾む」
ゴーツが準備をしている間、酒場の面々は新しく来る者に対してそれぞれ思い思いに期待を膨らませていた。
「……では、お待ちかねの正解発表じゃ。……ほいっ!」
そしてゴーツが魔法陣を起動させるとそこからメイド服姿の少女、チモック製販売用ホムンクルス3号が現れた。
「……えっと、ここは?」
3号の登場によって先ほどまで騒がしかった酒場は一気に静まり返った。一方でゴーツから何の説明されていない3号は訳も分からず周囲を見渡した。
「やったー! 女の子ー!」
沈黙を破ったのは一人のオレンジ髪の女性だった。彼女は自分の期待通り女の子が現れたことにその場に立ち上がって歓喜した。
「待て、まだ女装って可能性があるぞ」
そんな浮かれている女性へと隣にいた茶髪の男性が横やりを入れた。
「流石にそれは……いや、ありえるか」
「かわいければどっちでもよくないか」
「いや、それはおかしい」
「小さな胸ではあるが非常に整った形をしている。……100万点!」
「やっぱり女の子か!」
「待て、あいつの採点は男でも女でも変わんないだろ!」
「……それもそうだな」
「っていうか状況つかめてなさそうだけど誘拐とかじゃないわよね?」
「……ぐっ、これは障壁!? いつの間に」
二人の言葉を皮切りに酒場は再び騒がしくなった。また何人かは直接3号へ接触を図ったが事前にゴーツが張っていた障壁によって防がれてしまった。
「……コホン、とりあえずはっきりさせておこう。この子は正真正銘の女子じゃ。ただ普通の人間というわけでもない。ホムンクルスじゃ」
「「「ホムンクルス?」」」
「……ほう、禁忌を破りし創造物か」
「えっと、確か錬金術で作った人造人間だっけ?」
「でもホムンクルスってもっと化け物みたいなやつだったような?」
「おいおい、何十年前の話だよ。作業用とかならともかく20年ぐらい前にはちゃんと人型になってたはずだぜ」
メモリアの住民のほとんどは出稼ぎの若年層のため、ホムンクルスを知っている者はあまり多くなかった。また知っている人間の中でも知識にかなりバラつきがあった。
「この様子じゃとホムンクルスそのものから説明した方が良さそうじゃな。ホムンクルスというのは今言われた通り錬金術で造った人造人間じゃ。一応は儂が作ったこれがホムンクルスの原型になる」
周囲の反応からゴーツは魔法でホムンクルスの原型となったもののハリボテを造り出た。しかし、それは四肢があり二足歩行ではあるもののとても人とは呼べない奇妙な見た目をしていた。
「うん、前に見たのはこんな感じだった」
「確かにこれは化け物だわ」
「というかまたゴーツさん関連なのか」
「まあゴーツさんだしな」
「……とそれも昔の話。当時、儂の弟子だったパラケルという男が研鑽に研鑽を重ねた結果がこの3号というわけじゃ。もっとも単純作業用のホムンクルスは見た目より耐久性やコストを重視するためにこの原型と変わらぬ見た目をしておるようじゃがな」
ゴーツは周囲の反応を伺いながらホムンクルスに対する説明を続けた。
「それからホムンクルスのもう一つの大きな特徴として生まれた姿から成長もしないが老いもしないというものがある」
「……」
ゴーツのホムンクルスの姿が変化しないという説明に今まで話半分で聞いていたデレーヌがピクリと反応した。
「質問! エッチなことは!? エッチなことは出来るの?」
ゴーツの説明に一区切りがつき、場が一旦静かになったところでオレンジ髪の女性が興奮気味に椅子からまた立ち上がった。その言葉に皆が改めて3号の体を見つめた。
「出来るか、出来ないで言ったら出来るのう。ただし生殖機能はないので子づくりは無理じゃ。……そうじゃな?」
「はい。その通りです」
ゴーツの確認に、3号は特に恥ずかしがりもせずに自らのスペックを肯定した。出産が出来るホムンクルスを開発しようとしている製作者もいるが未だに実用化はされていなかった。
「やった! 一晩おいくら?」
ゴーツからの回答にオレンジ髪の女性は歓喜し、そのまま質問を続けた。一方で若い女性を中心に何人かは顔を伏せたり、明後日の方を向いた。
「こらこら、出来るとは言ったが貸し出すとは誰も言っておらんじゃろう。高い買い物じゃったのじゃ。はした金で傷モノにされては困る。ついでにいうと儂もこんな体じゃから抱く気はない」
「そんなー……」
ゴーツの言葉にオレンジ髪の女性は意気消沈し、椅子へと座り込んだ。
「まあ、どうしてもというのなら原価そのままでなら譲ってやらんでもない」
「ほんとっ!」
ゴーツの言葉にオレンジ髪の女性は再び勢いよく立ち上がった。
「ああ、3000万Gじゃ」
「……3000万?」
しかし、そのあまりの金額にオレンジ髪の女性はピタリと動きを止まってしまった。
「ああ、3000万じゃ」
「…………3000万」
ゴーツのダメ押しの一言によりオレンジ髪の女性は完全に意気消沈し、ぺたりと椅子へと座りこんだ。
「3000万とかマジか……」
「……600回分か」
「お前、こういう時だけ計算早いな」
「俺はお姉さん派だからいいや」
一方で値段を聞いた男性陣の一部が真剣な表情で試算を始めた。
「男って本当下半身で生きてるわね」
「かわいいのは確かだけどあんな小さな子相手にまで欲情するとか信じられない」
更に一方では女性陣の一部がそんな男性陣相手に愚痴をこぼしていた。
「おいおい、男だからって全員一緒にされちゃ困るぜ。それにほら」
そこへ茶髪の男性が近づき、女性陣の言葉を否定すると彼がやってきた方を指差した。
「3000万。……高い。でもかわいい。三日に一回、いや二日に一回に削れば……」
そこには男性陣並みかそれ以上に真剣な表情で3号のことを考えているオレンジ髪の女性がいた。
「あれは例外過ぎるでしょ」
「……確かにそうだな」
女性陣の言葉に流石に分が悪すぎたと判断した茶髪の男性は素直に頷いた。
「まあ、何はともあれこのホムンクルスの……そういえばまだ名前を決めておらんかったな。……とりあえず3号のままでいいじゃろう」
一通りの説明を終えたゴーツだったが今になって3号に正式な名前を付けていないことに気がついた。そのためとりあえず3号という仮名のままで通すことにした。
「さんごうって番号の3号?」
「というかなんでいきなり3?」
「流石にこんな子をそんな呼び方はなあ」
ホムンクルスとはいえどう見ても人にしか見えない3号のことを物のように番号で呼ぶことに周囲は難色を示し始めた。
「単純に製造番号が3番目だから3号なだけじゃ。向こうでもそう呼ばれておったし本人も特に不満はないはずじゃ。そうじゃろう、3号?」
「はい。もう十年近くそう呼ばれているのでそういった感情は特にありません。もちろん新しい名前も大歓迎ではありますが」
ゴーツの確認に3号は迷うことなく頷いた。3号という名前に3号が慣れているのも不満がないのも事実だった。
「まあ、新しい名前をつけてやった方がいいのは確かじゃが一度決めると変えづらいからのう。いい名前が浮かんだら変える方向で行こうと思う」
「……そういうことなら」
「それずっと決まらないやつじゃ……」
「まあ、本人がいいならそれでいいんじゃないかな?」
3号の反応に周囲は一応納得し、彼女の名前はそのまま3号ということになった。
「それでは改めてこの子、3号のことをよろしく頼む」
「……よろしくお願いします!」
ゴーツの言葉に少し遅れて3号は周囲に向かって頭を下げた。
「よろしく~」
「まあ、悪い子じゃなさそうだ」
「どんなやつが来るかと身構えてたけどまともそうでよかった」
「混沌は全てを呑み込もう」
「……3000万」
「……うむ、揺れない美乳もまた良し!」
礼儀正しく頭を下げた3号に周囲の反応は上々だった。
「では3号の紹介はこれにてお開きとしよう。他にも色々と聞きたいものはここに一列に並ぶといい。一人5分まで。変なことをやろうとしたら即終了じゃぞ」
3号の全体への紹介が終わり、個人での質問の時間に切り替わった。そしてその瞬間、男性陣の半数近くが椅子から立ち上がった。
「ここは私が」
「俺が行く」
「お前たちだけに行かせるかよ!」
立ち上がった者たちは一瞬にして長蛇の列を形成した。
「男ってやつは……」
「並んでないのまで巻き込まないでくれないか。まあ、呆れる気持ちは分かるけど」
「色々聞いてみたいことはあるけどまあ今度でいいかな」
一方、並ばなかった者はその無駄に機敏な光景に辟易していた。
「……」
そんな慌ただしい酒場の中でデレーヌは一人、無言で複雑な表情を浮かべていた。
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「クロースルです」
「よし、入れ」
時間は少し前に遡りゴーツが3号召喚のための準備を始めていた頃、クロースルは役場の2階にあるゴーツの自室の前にいた。
「何の用かは知りませんけど手短にお願いしますよ」
「まあそう言うな。今回は本当に、本当に大事な話じゃ」
「本当ですか?」
ゴーツに入室の許可を取ったクロースルは足早に部屋の中へと入って来た。その様子からは苛立ちが見て取れたが数時間魔物狩りをした後で、この後も仕事がある状況で急に呼び出されたとあればクロースルが不機嫌になるのも無理もなかった。
「ともかくこれを見てくれ」
ゴーツは手の平に水晶玉のような球体を造り出した。そしてその球体には酒場の様子が映し出された。
「……これって下の様子ですか? ……は?」
クロースルが球体を覗き込んだその直後、酒場に3号が現れた。その瞬間、クロースルの目が見開いた。
「まさか本物……?」
「もちろん本物じゃ。遠路はるばるチモックの屋敷まで行って買ってきたのじゃぞ」
3号の姿を確認したクロースルは体を震わせた。何故ならクロースルが何年もかけて金を稼いでいるのは他でもない彼女を買うためだったからだ。
「……何が目的ですか?」
長年の目標である3号をゴーツが連れて来たため、クロースルは爆弾の入っているポケットへと手を入れた。
「待て待て、早まるな。儂もそこまで悪趣味ではない。性的な目的で使う気はないし、金が貯まればお主に譲るつもりじゃ」
臨戦態勢のクロースル相手にゴーツは3号に手を出す気はないとなだめた。
「……本当に何が目的なんですか?」
ゴーツの言葉に嘘はないと判断したクロースルは渋々ポケットから手を取り出した。
「いつものことじゃよ。面白そうじゃったからこうしたまでのこと」
「……はあ、あなたという人は本当に」
悪びれないゴーツの態度にクロースルはもう一度大きくため息をついた。
「……というかどうして彼女の事を知っているんですか?」
「儂じゃからな」
「……はあ」
自信満々に答えるゴーツにクロースルはもう一度大きくため息をついた。
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【キャラ情報】
名前:クロースル
種別:人間♂
年齢:19歳
身長:171㎝
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