第4話 いくらでしょう?

 ルーさんに新しい服を買ってもらった。

 花柄付きの白と青の上着、水色のスカート、褐色のブーツ。

 これが王都の服──か、可愛い!


「こんな良いものを買ってもらって本当によかったんですか?」


 ルーさんは頭を押さえてげっそりする。

「……女性の服って結構するんだね。計算外だ……」


 よくはなさそうだ。


「あ、あの、返品しますか? あたしは別にルーさんの服でも……」

「いや、大丈夫、大丈夫だよ。これも投資だ。うん、投資!」


 なんだか自分に言い聞かせているように聞こえる。


「いやー実を言うと、店の開店費用で結構使っちゃって今金欠なんだよねー」

「それなのにあたしを買ったんですか?」

「うーん。それには深い事情があってね……」

「深い事情?」


 深刻そうな顔だ。

 どんな事情だろ? 


「募集したけど、スタッフが1人も集まらなかったんだ」


 普通の事情だった。

 ルーさんはやれやれと首を振る。


「お国がだらだら戦争やってるお陰で今はどこも人手不足だからねー。うるお

「……」

「あぁ、すまない。今のはいささか配慮に欠けたかな?」

「……いえ、別に」


 この人、穏やかで優しい人だけど……やっぱり、奴隷賛成派そっち側の人なんだよね。


 すると、ルーさんが唐突にこんな話を切り出す。 


「突然ですが、君に問題です」

「え?」

「君が今着ている服は全部でいくらしたでしょう?」


 ……。


「分かってます。早く解放してもらうためにも一生懸命働きますから」

「あーいや、別に買ってあげたんだからその分働けよ的なプレッシャーじゃなくてね」

「?」

「ただの算数だよ」

「算数?」


 ルーさんはあたし……あたしの服を指差す。


「その上着は10000 C(サークル)、スカートは9500C、ソックスは1500 C、ブーツは15000 C、そしてパンツが──2500 C」


 あたしは反射的にスカートを押さえた。

 こ、この人、デリカシーが死んでるっ!


「全部でいくらしたでしょう? そういう算数の問題さ」


 ルーさんはあたしに手のひらを見せる。答えろって意味だと思う。


「……」

 あたしは沈黙する。

 沈黙してから応えた。

「ごめんなさい。分かりません……」


 この感じ、覚えがある。

 また、呆れられるのかな?

 そんな事を考えていたあたしの頭上に、ルーさんはぽんと手を置いた。


「できない事が悔しいかい?」

「……」

「よろしい。それでこそ教え甲斐がある」

「え?」

「君にはこれから勉学にも励んでもらう」

「え? え⁉︎」


 ルーさんはあたしと同じ目線まで屈むと、あたしの頭を優しく撫でた。


「最低でも、読み書きと金勘定くらいは覚えてもらわないとね」

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