第12話 活路を見出して
俺の勘も外れ、立ちふさがるのはモンスターの軍団だった!
……軍団は言い過ぎた、数匹だ。
デカいウサギの鼻息が聞こえて来て、今にも飛び掛かりそうだぞ。
「どうすっかなぁ……。姉ちゃんっ」
手に持った通信機に話し掛けるんだけど、ジーって音がするだけで返事はないんだな。
「ああ、これやっぱ通信出来ないところに連れて来られてるぜ。参っちまったぞ」
「いや、参っちまったじゃなくてさ! そんなのんきなこと言ってないで、ここから逃げることを考えようよ」
「おお! それだっ。たまにはいいこと言うじゃんかエミ」
「たまには余計だよ。……ってそうじゃなくてさ!」
「落ち着きなさいエミ! あんたの言ったように逃げることを考えましょう。出来るだけ早くね! って言いたいけれど……残念なことにモンスターのいる通路が唯一の出入り口みたいね」
えぇ~。じゃあ詰んだってこと? マジかよぉ……。
「なかよし散歩団、結成初日で壊滅の危機だぜ。せめて痛くしないで、八月のお盆にはピンピンした状態で母ちゃんたちの枕元に立ちたい」
「あんたは諦めるのが早いのよ!! ……チッ! けれど、このままじゃどうにもならないわ。……でも、私は嫌よ……。このまま、ただやられるだけなんて――そんな惨めは私は嫌!! だったらせめてッ――」
アヤミは握り込んだ通信機を変形してショックガンに変えると、それをモンスターたちに向ける。
「――二、三匹道連れにしてこの世から散ってやるわッッ!!!」
「いやアヤミちゃんは覚悟を決め過ぎだよ!? ちょっと待とうよみんな?! いくらなんでも極端だって!」
『その冴えない感じの少年の言う通りだ諸君。とりあえず落ち着くといい」
どこからともなく聞こえて来る声、一体どこからだろう?
首をグワングワン動かしながら、声の聞こえた方を探して探してっと……。
『こちらだ、こちら』
呼ばれた方向を三人で見る。
それはモンスターたちの奥から現れた、鉄の塊……人型……、ああっ!
「ロボットじゃん、カッコイイ!!」
『残念ながら、これは”ゴーレム”というものだよ。……こうして会うのは初めてだが、我々は以前に顔を合わせた事がある。覚えがあるだろう?』
なんだロボットじゃないのか~……ちぇっ。
でも俺ゴーレムの知り合いなんていないぞ。
う~ん、誰だろう?
「っ! あんたまさか……!?」
「ん? どうしたアヤミ?」
『ほお? どうやらそちらのお嬢さんは気づいたようだな』
「気づいた……? はっ!? そうか!!」
「エミ? 何? みんなどうしちゃったわけ?」
ニ人して驚いたような顔しちゃってさ、俺ついていけなーい。
頭にはてなを浮かべる俺を見て、アヤミが急かすように声をかけてきた。
「まだわからないわけ? ほら、あの声! 聞いたことがあるでしょ! それもつい最近!!」
「ん? んん……、あっ。――えっ嘘だろマジかよ!?」
「そうだよカツくん! あの人はっ!」
「うちの隣に住んでるおじさ――」
「そんなわけ無いでしょうがバカッ!! 私たちをここに連れてきた張本人よ! あのローブの不審者!!」
え? ……ああ、確かによく考えてみればそうかも。ああ、こりゃうっかり。
そんな俺たちを見てか、クックックって笑い声がゴーレムから聞こえてきたんだ。
『いやあ、こんな状況でずいぶんと余裕のある子供達じゃないか。初めて招待したお客さんとしては、これ以上ないくらいに楽しませてもらったよ』
「私たちはあんたのお楽しみじゃないわよ! そんなデク人形の後ろに隠れてないで、姿を見せたらどうなのよ! 大人のくせに! たった三人の子供が怖いって言うの!!」
『本当に勇ましいお嬢さんだ。だがどんなに吠えようと、私の優位が揺らぐ事は無い。君達が絶望的な状況に立たされているという事実だけが君達の心臓を真綿の如く締め付けるのだ』
「いやらしいのよ! 性根が腐ってるわ! ……あんたたちも何か言いなさい。どうせこんな状況だもの、好きなだけ悪態を付かない損ってものだわ!」
ええ~。そんなこと言ったって俺いい子だしな。
ええっと何がいいかな?
「えーっと……」
「いやいやこんな状況だからって。と、とりあえず! 僕たちを解放する気はないんですか?!」
俺が何か言う前にエミに先を越されちゃったよ。でも悪口じゃないから、まだ俺に勝機はある!
『無いな。あそこに居た人間は全員始末をつけると決めたのでね。これは私なりの感謝の気持ちだよ、私をあの場所へと召喚してくれた君達へのね。おかげでこの場所とあのダンジョンとを繋げる事が出来た。そのお礼、せめてこの私の手で……という事さ。光栄に思うといい』
「身勝手なこと言って……! あんたって人間はロクに抵抗も出来ない人間をいたぶって楽しいのね! せめて手向けに何かくれたっていいでしょ! そうよねエミ?」
「え? ……ああ、うん。そうですよ、これじゃあ一方的過ぎます! どんなゲームだって簡単過ぎたら面白くないものですよ!」
ああわかる。でも俺って一方的に蹴散らすだけのゲームも頭使わない感じして好きなんだよな。
やっぱり一長一短? だと思うぞ。
『なるほど。ただの情けない少年だと思ったが、意外と言うじゃないか。では君たちのなけなしの勇気に応えて、贈り物を上げようじゃないか』
「わーい。何が貰えんのかな?」
「喜んでんじゃないの!」
だってくれるって言うんだぜ? なのにアヤミに叱られちゃった。
ちょっと気分が落ちたその時、おっさん声のゴーレムが指をパチンと鳴らすと、上から振ってくるように何かが俺たちの前に現れた。
それは……グローブ?
指の無いグローブが三人分、目の前に置かれたんだ。なにこれ?
『君たちの要望通りせめてもの手向けとしてそれを送ろう。私の研究成果の一つだよ。と言っても遊び半分で作ったものだがね? オーラが使えない者でもそれを着けている間は使えるシロモノだ。といっても大した力を出せる訳では無いがな。その分子供には安全で扱い安かろう』
「くっ……馬鹿にして!」
「おお! ぴったり。よし、んんん! はっ!! ……マジで出たスッゲー!」
「ここって喜ぶところかな? でも必要ないよりマシなのか」
グローブをはめた俺の手のひらからチョロチョロと光の球が出て行く。
これって感動ものだよな。子供会の一発芸で使える、人気者になれるぞ。
「でもどうしよう。これでもう時間稼ぎも終わりだよ。僕たちやっぱりここでやられちゃうのかな?」
「泣き言を言わないの。こうなったらヤケよ! 逃げ道がないのなら相討ちを覚悟しなさい!」
え? こいつら時間稼ぎであんなこと言ってたのか。姉ちゃんたちが来るかもって。
俺だけ気づかなかったの? ちょっと寂しい。
『ふっふっふ。そちらのお嬢さんは相も変わらずに強気だが、そちらの少年はやはり見た目通り情けない男のようだな』
「くぅ……!」
ああムカ!
さすがの俺もカチンときたぜ! 俺の友達をいつまでも馬鹿にしちゃってさ!
「情けない情けないってさっきから言いやがって! いいかよ! ――お前が思ってるほどエミってそんなには情けなくないぞ!!」
二人の前に一歩出て、ゴーレム相手に俺の怒りを言葉でぶつけた。
これ以上俺の友達を馬鹿になんてさせないぜ!
「……ん? ちょっと待ってカツくん。――さっきのってどういうこと?! そんなになんだ!? そんなになんだ!! 君はそんな風に思ってたんだな、僕のことをね?!!」
「いやだってさ。どうひいき目で見てもお前別にカッコよくないし……」
「ひどくない!? そこは違うじゃない! この場面はどう考えても親友を持ち上げるところでしょっ!?」
「えぇ~」
「”えぇ~”じゃないよ!」
「ちょ、ちょっと止めなさいよ二人共!? 敵を前にして喧嘩してる場合じゃないでしょ!」
なんだよぉ。俺ってば親友の為に言い返したんだぜ? わがままだなぁもう。
『はっはっは! 愉快だな。君達の友情には賞賛の拍手でも送ろうじゃないか!』
ゴーレムが鉄の手のひらで拍手を始め、カンカンと音がフロアに鳴り響く。
もしかして、俺ってば馬鹿にされてる? えぇ~俺が悪いのか?
くっそぉ。だったら俺だって言い返して……あれ? そういえばさっき……。
「一つ質問」
『なんだね? こちらもあまり暇じゃないが、まあ一つぐらいなら答えてあげようじゃないか』
「おっさんさ、さっき”初めて招待したお客さん”って言ってたけど……もしかして友達とかいないの?」
『……何?』
「友達がいないから今まで誰も家に呼んだことが無いとか? もしかしなくても結構寂しい人?」
そういうと、何故か急にゴーレムの動きが止まっておとなしくなっちゃった。
急にどうしちゃったわけよ?
そう思った時、目の前が急に光ったかと思ったら――ローブのおっさんが現れたんだ。
それもなんでか、こめかみ辺りをピキピキさせながら。
「ふ、ふふ……。は、初めてだ。ここまで私をイラつかせた人間は……! ――私自らの手で始末してくれるぞガキ共ッ!!」
「ものすごく怒ってない!? カツくん、ものすごく余計な事言っちゃったんじゃ……」
「ものすごい? いやぁ、そんな言うなよ」
「褒めてないよ!?」
なんだ褒め言葉じゃなかったのか。
でも、目の前にはキレたおっさんとモンスターたち。こっちの不利はなんにも変わってないんだな。
さてどうしたもんか……。さすがにやばいよな。
そう思ったんだけど……。
「いえ、むしろ……。サダ、あんたよくやったわ……!」
アヤミのやつが妙に自信のある顔をし始めたんだよな。
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