第11話 そして彼らの前に現れたものとは……?
決意を改めた俺たち。
俺はそっと渡された通信機を握り込んで、さあここから脱出してやるぞ、そう意気込んだ。
俺の人生で五番目くらいの特大の意気込みだ。俺はやる気満々だぜ!
……そういやちょっと腹減ってきたなぁ。やる気がちょっとダウンだぜ。
戻って来たフロアから出て、さっきとは違う道を全員で進みつつ、お腹の調子から午後三時ぐらいを確信した時のことだ。
「はっ! そうだみんな気をつけたまえ! よくよく思い出したらこの近くにも――」
ダカーシャ姉ちゃんが何か思い出したように叫んだその時だった。
道の端で何かが光って、急に目の前が真っ白になって、そうして――。
「……」
「ほら起きなさいな。なんで一人だけ寝てんのよあんた」
「……う~ん。昨日は夏休み前夜記念だぜ? ちょっと夜更かししちゃったんだから、起こすのは勘弁してくれよ。むにゃむにゃ……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。寝ぼけてないでとっとと起きなさいっての」
「え~……。母ちゃんってば休みになっても寝坊にうるさいんだから。ラジオ体操は明後日から行くよ」
「私があんたのママなわけでしょうが。ベタなこと言ってないで起きなさいっての! だいたい夏休みのラジオ体操は初日からきちんと行きなさい。結局今日も私が迎えに行ったんじゃない……のっ!」
「うわ!?」
無理やり体を起こされて、その後シャツの襟元を掴まれて頭をグワングワン揺らされた。
うぇ~気持ち悪~い。
「なんだよ何々? ……ここは誰? わたしは――」
「だからベタなボケをかますのはやめなさい。ここはダンジョンの中、それであんたは何故か寝てたのよ」
「……なんで?」
「いや、あんたが寝た理由なんてわからないけど」
「ひとつ間違いないのは、僕たちがダカーシャさんたちとはぐれちゃったことだよ」
俺とアヤミの会話に割り込んでくる声が聞こえる。
一体誰だ?
「……」
「な、何その目? なんで急に目を細めたの?」
「あっ! お前エミじゃないか!?」
「何そのリアクション!? 久しぶりに偶然会った知り合いみたいに話しかけるのやめてよ! ついさっきまで普通に喋ってたでしょ僕たち!」
そうだったろうか? う~ん……。
「いや悩むまでもないでしょ!?」
「落ち着きなさいエミ、いちいち相手してたら身がもたないわよ。……でも、ある意味で安心ね。とりあえずいつもの調子みたい」
「……そのいつもの調子を本当に喜んでいいか、悩むところだよ僕は」
そうだ! 確かに俺たちはなかよし三人組で、姉ちゃんのお誘いでギルドにやってきたんだ。
それでな~んやかんやあって、俺たちはダンジョンから出られなくなったんだよな。
「思い出したぜ。確かに、昼に食べたのはおごってもらった塩ラーメンだ!」
「今別にそこは思い出さなくてもいいわよ。問題なのは私たちが”三人”しかいないことよ」
「え? ……あ、本当だ」
「僕言ったよねさっき。ダカーシャさんたちとはぐれちゃったって」
「さっき? ……あっ。エミお前、昼飯のからあげ定食ってそんなに美味かったのか? 一個ぐらい分けてくれたってよかったじゃん」
「さっきが過ぎるよ!! いつの話をしてるんだい!? そうじゃなくて、僕たち三人とダカーシャさんたちがはぐれちゃったの! ……あの時ピカって光ったよね? たぶん引き離されたんだよ、僕たち」
……おう、そうだ。
確か姉ちゃんが叫んだ後、何かが光って。
で、今ここにってことか。
そういえばここどこだ?
周りを見渡すと、さっきまでいたダンジョンに似た感じの雰囲気。壁の感じとか。
でも、何か違うような。
広い空間の中で、俺たちが三人。
それ以外は……。
「……あれ? そういや電灯ってあんな感じだったっけ」
ダンジョンの中を明るくしていた電灯。
俺が見たのは細長いやつだったのに、ここにあるのは……光る、玉。
それがフロアの天井に一つあって、結構明るい。……見てたら目がチカチカしてきた。
「あんたも気づいたわね。雰囲気は似てるのに、さっきのダンジョンと違う感じがするのよ。あのダンジョンはツアーで見て回ったから、だからおかしいってことに気づいたのよね」
「僕たち……たぶんだけどあのローブのおじさんが元いた場所に連れてこられたんじゃないかな?」
いつもより三割増しで真剣な顔をするエミ。
あごに手を当てて、眉間にしわをよせて。なんかハードボイルドな雰囲気を出してるぜ。
……こいつ、この空気に酔ってるんじゃないか?
「あの不審者がどこから来たかは知らないけど、少なくともあのダンジョンとは違う場所に連れて来られたのは違いないわね。わざわざ大人と子供で分けるなんて……まさに不審者の所業だわ」
「俺たち誘拐されたってこと? ……俺こんな展開を知ってるぜ。子供を何人か誘拐するんだけど、本命はその中の一人のお金持ちの子供で、それ以外は実は目くらましなんだ。てっきりお金が目的かと思ったらそのお金持ちの子供の親が――」
「もういいわよ! それ昨日やってたサスペンスドラマの話でしょうが! 頭がこんがらがるから余計なこと言わないの。……何をするにしても情報が足りな過ぎるわ、いつまでもこうしてるわけにはいかないし……」
「危険だからあまり動きたくないけど、ここがさっきのダンジョンじゃないなら助けも期待できないしね。……怖いけど、本当に怖いけどここはみんなで――」
「あっちに何があんのかな? 行ってみようぜ」
「ちょっ!? ……たまにはカッコつけさせてくれてもいいじゃないか」
「エミ……悪いけどあんたはそういうの似合わないわ」
「アヤミちゃんまで!?」
後ろでエミが何かギャースカ言ってるけどさ、ここは一歩踏み出す場面だぜ。
問題なのは一つだけ! こんな時にモンスターやおっさんがあらわれちゃったりしないことだ。
「ガハハッ。まっさか急に出てきちゃったりするわけないよな!」
「ッ!? カツくんあれ!!?」
後ろからやってきたエミが指さしたのは、フロアの向こうの通路からやってきたデカいうさぎのモンスターだ。それも何匹からいる。
「……あれぇ?」
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