第9話 脱出

「とりあえず、現在出動できるハンターはダンジョンの入り口で待機させて頂けるように要請いたしました。出入り口は一つしかないので、捕まるのは時間の問題……だとよいのですが」


「おいおい、子供達の前で弱気な事はノンノンだよ。不安要素はいくつかあるが、それでも我々にしか無い利点もある。このダンジョンを熟知している点だ。ここは元々低級ダンジョンだった為に地形の変化がほとんど起こらない。だが相手はこのダンジョンについて何も知らないはずだ。モンスターが居ない事も知らないし、今も注意深く進んでいることだろう。ならば確保はそう難しい話では無い!」


「……そうですね。経験不足とはいえ、弱気になっていました。ありがとうございます先輩」


「ふふ、後輩の背中を押してあげるのも良き先輩の条件だからね。その点でも私は優れているのさ」


 煙の晴れたフロアで兄ちゃんを励ますダカーシャ姉ちゃん。

 おお、こうして見ると頼りがいのあるベテランだぜ。


「さて……我々のこの後の動きについてだが……。君たちには申し訳ないが、ついて来てもらう。このフロアに繋がる道が一つでは無い以上、残していくのはむしろ危険だ。いつ戻って来て襲われるかわからないからね。なんとか出会わないように気を付けながら入り口まで送っていこう」


「となると、縦一列に並んで進むのがベターかしら? ダカーシャさんが先頭で、その後ろを私たち。そして一番後ろにリューインさんって感じで」


「おっ。こんな状況なのにすごく冷静な判断だ。いいぞ、私の考えていた通りの陣形だ。……よし! では何かあった時の為に、子供達のリーダーを君に任せよう。二人共、私とリューインくんが会敵した際、彼女の指示に従って逃げるんだよ、いいね?」


「は、はいもちろん!」


「俺たち、いつもそうだぞ。アヤミは学校じゃあれだから、ほら……ガキ大将だから」


「学級委員長でしょ! ……まあそういうことだから、二人共? いざとなったら私について来るのよ」


 言い聞かせるようなアヤミに、いつもの頼もしさを感じながら、俺たちなかよし三人組に豪華ゲストを迎えたダンジョン探検隊が結成されたのだ。


 ……俺たちはハンターじゃないし、ただの小学生だから散歩団がいいかな? うん、意外にカッコイイ感じ!



 そんな感じで出発した俺たち。

 抜け足差し足忍び足って感じに、一歩一歩踏みしめるようにダンジョンの中を進んで行く。


 先を歩くのはダカーシャ姉ちゃんの直ぐ後ろにアヤミが居て、その後をエミと俺と兄ちゃんが続く。


 入って来た時より緊張してるのか、不安でエミが震えてる。これじゃいざって時に逃げられないかも。

 よし、だったら俺が友達として人肌脱いでやるか!


 そうと決まればなんとやら、俺はエミに話しかけることにした。


「エミィ……エミィ……」


「ひぃ!? ど、どこからか不気味な声がする! ここって幽霊とかも出るの!?」


「こら! 急に何言ってるの? 落ち着きなさい。ただでさえわけのわからない不審者が出たってのに幽霊なんかにかまってる余裕はないの! あんまり情けないことばっかり言ってると――私が代わりにブツわよ……!」


「うっ!? わ、わかったよ……。うぅ……」


 よし、エミがいつもの気が小さいだけの男に戻ったぜ。

 目に見えない恐怖より、しっかり食らう痛みの方が怖いのは当たり前だよな。


「ほらほら、俺が後ろについてるんだから。この泥船にどんと乗っかって堂々としてろよ」


「……いろいろと言いたいことあるけど、もう止めとくよ」


 調子戻って来たじゃん。やっぱ俺ってすごい。


(な、なんて子だ……! この状況で恐ろしいほどペースを崩していない。その上、仲間を扇動して手綱を握る術を心得ている。いや、これは計算じゃない。ごく自然に行っているんだ。……もし、こんな子が将来ハンターになってくれたら心強い戦力に……。僕も見習う必要があるかもしれないな)


 なんだろう、首元に何か感じるような。とりあえず振り返ってみる。

 リューイン兄ちゃんと目があっちゃった。何だろう?


「どしたん?」


「い、いや。……そう、僕が後ろについてるから安心して進んでね。もちろん警戒は怠らず」


「おう、当たり前だけど大事なことだよな。めっしゃ警戒するぜ」


「うん、”めっちゃ”頑張ってね」


 うん? 兄ちゃんってそういうキャラだっけ? ま、いっか。



「よし、そろそろ出入り口が見えて来る頃だ。こういう時にこそ、慢心などはしてはダメだぞ? 一流のハンターは安心の手前こそ気を引き締めるものなのだ! ……今私とってもカッコイイ感じの事を言ったな? よく覚えておくといい」


「そのセリフに慢心は無いのかしら? 言い分はわかるんだけど、最後が余計なのよね」


 先頭を歩くダカーシャ姉ちゃんの言葉を聞いて、いよいよここを出るんだなと。

 アヤミが何かブツブツ言ってるけどさ、ちゃんと身構える俺を見習ってほしいもんだよな。


 後ろを続いて歩く俺たち、確かに出入り口あたりがこんなんだったなと見覚えがある。

 ふぅ……。変なおっさんと出会ったけど、これでおさらばだな。


 ……ん?


 出入り口が実際に見えて来て、いよいよと思ったところで、道脇にポツンとしてる小っちゃな石板みたいなのを見つけた。

 そういえば、入って来た時も見たんだよな。


「ねえねえ兄ちゃん?」


「ん? ああ、質問はここを出た後にして欲しいな。まだ安心は出来ないからね」


「ん~でもさ、あそこの小っちゃい石板さ。――なんかちょっと光ってない?」


「……え?」


 そう、俺が指を刺したその石板は、微妙にわかりづらいけど光ってるように見える。

 なんかどっかで見たような……。


「ダカーシャさん! あの石板が光ってます!!?」


「ッ!? 不味い!! みんな、今すぐ引き返すんだ!!!」


 リューイン兄ちゃんが叫んで、そしてダカーシャ姉ちゃんが引き返そうと言った時――俺の目の前が光でいっぱいになった。

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