第8話 まさかの出会い
「はい右見て左見て、危険が無いかチェックを忘れずに! ……はい前進!」
扉をくぐって案内をされる俺たち。
前を歩く姉ちゃんが、角を通る度に確認する。おかげでびっくりするくらい何もない。
さすが見学ツアー、安全の保証にぬかりがないぜ!
「なんとなくわかっていたけど薄暗いところね。周りの電灯の光があっても、そう思ってしまうわ」
ダンジョンなんだけど攻略され尽くしてる。中は電気を通してるらしいから、こんな風に灯りが設置されてるんだって。
「他のダンジョンもこうなんですか?」
「いや、さすがにここくらいなものかな。攻略したダンジョンって本当はあんまり人が入らないしね。ここは研究用に使われてるから、機材を置いてたりしてるんだよ」
「なるほど……」
エミが納得。
人も手が入りすぎてると、自然って感じがしないもんなんだな。
観光名所の探検ツアー……より味気ない感じ。
ダンジョンの中は遺跡みたいな感じがするけど、お宝は取り尽くされてるし、何千年も歴史があるわけじゃないし、見学に来た人が肩透かしを食らったっていうのはちょっとわかる気がするぜ。
「ムムっ! みんな、モンスターが現れたぞっ!! 後ろだ!」
「え!?」
「……という感じの事が実際のダンジョンではよくあるんだ。一つ得したことを知れただろう? ふはははは! じゃあ先に進もうか」
「え、えぇ……? はぁ……」
急に大声を出すダカーシャ姉ちゃん。
それに驚いたエミだったけど、単なる冗談だと知って深いため息をついていた。
それを見るなり兄ちゃんが呆れたような顔してる。
ふぅ、あんな手に引っかかるなんて子供だぜ。
しばらく歩いていると、ふと姉ちゃんが立ち止まった。
何事? と思って見てみる。
「何ごっとっとっと?」
「アレを見たまへっへっへ」
「普通に会話してくれない? ……で、結局何事なのよ?」
割と広めの部屋に入ったかと思うと、照明に照らされたその部屋の真ん中に、なんか意味ありげな石板が置いてあったんだ。
おお! これは、おお! だろ? だってものすごくダンジョンっぽいぜ。
「さあさあっ、みんな見ておくといい! これこそこのダンジョンツアーの目玉!! ――意味ありげな石板だァッ!!」
「おおっ!!」
「いや何が”おお”よ! 何の石板か説明するとこじゃないの、ねえ?」
アヤミからヤジが飛んでくる。まったく、無粋ってやつだ。
こういうのはロマンが大事で中身じゃないんだぜ?
「うーん、言いたい事はわかるよ? でもね、実のところ言うとこれが何なのかはまだ研究中なんだ」
「そうなんですか?」
「うん。このダンジョンが発見された当初からあったらしいんだけど、この石板についてはまだほとんどわかってないんだ。それと、ここに入る前に”昨日は無かった石板”みたいのが見つかる事があるって話をしたよね? それと関連がある、とも言われているけれど」
「今だ研究が進まんのだ! 我がギルドの優秀な研究班すら苦戦させるとは、何とも憎らしくも可愛い石板だと思わないか?」
「え~、別に可愛くなないぞ。……いや、よく見たら愛嬌が……」
「あるわけないでしょう。……じゃあ本当によくわからない石板なのね。意味ありげの石板って説明はどうかと思うけど」
「い、一応このツアーの目玉ではあるんだよ。……他に何もないってだけでもあるんだけど」
苦笑いを浮かべるリューイン兄ちゃん。それを横目で見ながら、ダカーシャ姉ちゃんが石板に近づく。
これに関しては研究の為で、俺達の為じゃないらしい。
まあ観光ガイドみたいなもんだもんな。
姉ちゃんは石板をペタペタ触ってる。
「さあ君達も触れてみるといい。ひんやりして、夏のこの時期は気持ちがいいぞ」
「わあい。まじひんやり~」
「いいんですか? あれで」
「う、ううん……。僕も個人的にはどうかと思うのだけど……、なんとも答えづらいな。問題はそれほど無いってことで」
「さっきから投げやりになってない? ……ま、気持ちはわかるけど」
何してんだエミもアヤミも? ブツブツ話し合ってないでこっちきて触ればいいのに。
「お前たちも来いよ~。……ん?」
なんか変な感じがして、しゃがみ込んで石板の下の方に顔を向ける。
「何をしてるんだい?」
「ん~……わかんね。けどなんか、なんかなんだよな」
何かおかしいぞ。何がおかしいんだろうか? ……くんくん――ん?
そうだ! 石板の下の方、一部だけなんか違う匂いがする。そんな気がする。
実はこれでも鼻には自信があるんだぜ。へっへっへ。
よし、ここだ。
「んしょっ」
匂いの違う部分をそっと指で押すと、ズズっとその一部が押されるように奥へ入っていく。
その時だ――。
「んお!?」
「ぬ!? これは……! みんな、距離を取るんだっ!」
いつになく真剣な声を出すダカーシャ姉ちゃんに腰から抱えられ、その場から離されたのには理由があるんだ。
なんと――急に石板がボウっと光始めたからなんだ。
「何! いきなり何なの!? これもツアーの余興?!」
「落ち着きなさいエミ! どうも二人の様子からしてそんな感じじゃないわ!」
そうだ、姉ちゃん兄ちゃんの顔がほがらかな感じじゃなくなった。
こりゃあマジの顔だ、俺にはわかる。
石板が光を出し、そして、さっきまで俺たちが立って居た床も光っていく。
「この感じには覚えがある……ワープか!」
「何か来る、ということですか? ダカーシャさん……!」
姉ちゃんたちの会話を聞きながら、何が来るのかジっと見ている俺。
床の光が天井に昇るような柱みたいになると、それがやがて大人くらいの人影が出て来て……そして光は収まった。
「ぬ? ……ぬふふふふ。ついにこの私が召喚された、という訳か」
出て来たのはローブ姿の大人の男。見るからに怪しい不審者だった。
そいつが俺たちを見るなり、急にぶつくさ言いながらニタニタ笑ってるんだから不気味だぞ。
「こうしてまみえたのだ、せめて散りゆく前に自己紹介といこうか。我が名は――」
「先手必勝!」
「うおおッ!?」
なんか名乗ろうとしたその男。物騒なこと言ってたような気がするけど、ダカーシャ姉ちゃんが殴りかかって大慌てで避けていた。
「くっ、美学のわからん奴らめ……! ええい致し方無い、この場は――」
「逃がしませんよ!」
「いや逃げる!!」
続いてリューイン兄ちゃんが手を伸ばそうとしたけど、そのローブマンはなにかつぶやきながら手の平を見せてきて――周りが急に煙たくなっていた。
「うえっ!? ごほっ!」
「ちょっ!? ごふっ!! うえっ」
突然の出来事にむせてしまった俺たちだ、当然俺も吸い込んで咳が出まくり。
「べっくっしょん!」
「ごほっ! なんであんたは鼻がやられてんのよ! って言ってる場合じゃないわね……!」
「ははははっ! しばらく生かしておいてやろう! ではなっ!!」
そんな声が響いたかと思うと、煙が晴れた頃にはもうローブマンが居なかった。
「奴が何者か知らんが、取り逃がしたのは不味いな」
「外へと出る可能性もあります、早く追いかけなければ。とりあえず外へと連絡を」
ジャケットから無線を取り出して口を近づけるリューイン兄ちゃん。
あんなの胸ポケットに入ってたんだ。
しっかしこの状況、まさかこんなことになるなんて……。
「くっそお、やられたなぁ。まさに”ぐふふ”ってやつだぜ」
「……”ぐぬぬ”じゃないかな? ぐふふだとさ、違うと思うんだ立場が」
俺の悔しさにツッコミを入れて来るエミ。
こんな状況なのに……不謹慎な奴だな。
「お前って結構変わってるよな」
「き、君に言われるなんて……!」
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