第7話 ついに突入

 なんやかんやで今は食堂。なんせお昼だからな。

 ついさっきまでプリプリしていたエミも、ここの飯が気に入ったのか黙って食べてる。


「その唐揚げ美味しそう……、一個恵んでくだせえ」


「あげないもーん。今日一日言う事聞いてあーげない」


 プリプリが収まってたと思ってたのに、まだまだだったぜ。これはうっかり。

 仕方がない目の前のラーメンに集中しよう。ズルズル。


「うんめぇなあ。やっぱ夏場は塩だよな」


「奇遇だね。暑い夏、食べるラーメンは塩一択という私の考えに同意してくれる人間は……君で三十人目ぐらいだよ」


「おお……!」


 向かいの席のダカーシャ姉ちゃんは、俺と同じように塩ラーメンをズルズル擦ってる。

 これぞ同志の集いだぜ。


「いや、おおって言うほど全然少なくないじゃない。……でもまあ、この焼き魚定食は美味しいわ。リューインさん、ここで働いてる人達って普段ここで食事しているの?」


 器用に箸で焼いた魚を開きながら、そして骨を取り除きながら、身を解して口に運ぶアヤミ。

 なんか様になってる感じ。勝ち気な女子の意外に思われる一面だ。


 実はこれで、でっかい家に住んでる――いわゆるお嬢様なんだぜ。どのくらいのお嬢様か知らないけれど。

 バイオリンとピアノが弾けるから、きっと中くらいのお嬢様だ。


 そんな風に一口食べて、リューイン兄ちゃんに質問していた。


「そうだね基本的には、ってところかな? ここのギルドは特に食事に力を入れているらしいからね。故郷のギルドも悪くないけど、料理の味付けはここの方が好みかな? ただみんながみんなここで食べてるわけじゃないんだ。近くにはコンビニやスーパーもあるし、お弁当を作って持ってくる人もいる。月並みな答えだけど、そこはやっぱ人それぞれだね」


 そう答えた後、テーブルの上の冷やし中華に箸をつける兄ちゃん。

 俺って冷やし中華あんまり得意じゃないんだよね。だから正直美味しそうに見えないんだ。


「そっちも美味しそうよね。お魚もいいけど、ちょっと後悔した気分かしら。……ごめんなさい、贅沢な悩みよね」


 アヤミにはあれが美味しそうに見えるんだな。やっぱ食の好みは人それぞれだぜ。


「いやいや。……そうだ、夏休み中またみんなで来るといいよ。いつも対応出来る訳じゃないけど、次来たら、今度は僕が君達に奢ってあげよう」


 そう、実はここの食事代はダカーシャ姉ちゃん持ちなのだ。

 ここの飯が美味しいっていうんで、誘われたってわけ。実際美味い。ズルズル。


「ふぅ……。よし……、ゴクゴク」


「あっ、サダ。ラーメンのお汁は三分の一にしておきなさい。どんなに美味しくたって、塩分の取り過ぎになるわ」


「えぇ、仕方ないな」


「そう、仕方ないからきちんと言うことを聞きなさいね」


 でも、このスープが美味しいのにな。ちぇっ。

 じゃあ、同じのを食べてるダカーシャ姉ちゃんはどうかと思って見て見ると……。


「ゴクゴク」


「ダカーシャさん……。子供たちの前ですよ? 止めて下さい。そこでストップですよストップ。いくら僕達が体を動かすのが仕事って言ったって、限度ってものがありますからね」


「むう……。仕方がないな。でも、このスープが美味しいのにな。ちぇっ」


「だよな!」


「ね!」


「こら、サダ! ダカーシャさんも同意しないでよ」


 なんて説教をされながら、食後にデザートまで貰っちゃったぜ。


「ほらほら、君たちは運がいい。夏季限定スイーツの水ようかんだ。これは人気だから、もう少し遅い時間にここを訪れていなかったらありつけなかったことだろう。ありがたーく、味わうとよい!」


「ちょっと恩着せがましいですよ」


 ちゅるんとして冷たくて甘くて美味かった。実はあんまり食べたことないんだよな。

 今日から俺の好物に加えてやろうじゃんか。


「ありがたーく思うんだぜ」


「な、なんで僕の水ようかんを指さしてるの?」


「……じーっ」


「……っ、あげないよ!」


「サダ、みっともないことしないの」


 ◇◇◇


 午後はギルドの地下。

 廊下の奥にある部屋に、俺たちは案内された。


 そこは結構広くて、でもあんまり物が置いて無い。

 電気は付いてるから暗いって感じはしないけど、なんか寂しいところだった。


 ただ、目についたものがあって……。


「巨大な……扉? ここが、もしかしてあの……?」


「おお、流石気づいたなエイミンくん!」


「あの、その呼び方はやめてください。普通でいいですから、普通で」


「そうかい? じゃあエミくん! 君の想像している通り、ここがあのダンジョンへの入り口なのさ!」


 部屋の真ん中にはでっかい扉みたいなのがあって、でも横から見ると門だけだ。

 向こう側は普通に向こうの壁が見える。


「うーん、どうなってんだ?」


「そうだね。……ダンジョンの入り口っていうのはね? 様々なタイプがあるのだけれど……、例えばここにあるような扉。一見するとただの大きい扉だけど、扉を開くと中はダンジョンの空間につながってるんだ。SF映画で見るようなワープ装置、という風に考えればわかりやすいかな」


 なるほどだぜ。リューイン兄ちゃんの説明でなんとなくわかった気がする。

 確かに、こんな感じのを何かの映画で見たような気がしないでもないこともないような。


「そう! つまりはそういうことなのだよ!」


「おお! ドドーンッ! だな!」


「そうだ! ドドーンッ! なのさ!」


「……どうしてあの二人はあれで通じるんだろう?」


「エミ、もう諦めなさい。私は考えるのは諦めたわ。だって疲れるもの」


「は、はは……。僕も、ダカーシャさんとあそこまで気が合うような男の子を見るのは初めてだよ」


 なんだなんだ? なんか温度差ってやつを感じる気がするぞ。

 みんな冷たいんだ。つまりやっぱり俺っていい子だぜ。


 それからは、何でここに連れて来たのかの説明があって……。


「ここは普段の見学ツアーの人気スポットだ。実際にダンジョンの中を探検してみようってね。だが安心してほしい、中はもうダンジョンとは名ばかりでモンスターも出なければ宝箱の類もない。本当にダンジョンの構造を見て回るだけのツアーなんだ。だから、終わったあとによく言われる。”肩透かしだった”ってね!!」


「そこは別に言わなくてもいいんじゃないですかね? ……ダカーシャさんの説明通り、この中はもうモンスターが居ない。十数年前に攻略され尽くされて、だから正確にはダンジョンの跡地なんだ。攻略が終わったと確認されてから、ここにギルドが建てられたんだ」


「どうしてわざわざ跡地にギルドを建てたんですか?」


「いい質問だね。簡単に言えば研究のためだよ。まだまだダンジョンについて、僕達人類が知ってることは少ない。だからこそ安全に研究を、それも直ぐに行うため……それがここに建てられた理由なんだ」


「なるほど……。だから扉の周りにパソコンとかがあるんですね」


 そう、この大きい扉にはコードがつながっていて、それが周りにあるパソコンにつながってる。

 それが、何て言うか……殺風景? 余計に寂しく見えるんだよね。


「攻略され尽くしたと言っても、ダンジョン内はまったく変化しない訳じゃない。構造そのものが大きく変化しなくたって、昨日には無かった石板みたいなのが見つかることもあるんだ。そういう変化を逃さない為にコンピューターで観測してるんだよ」


「さて! 正直あまり理解出来ない話はその辺にしておこうか!」


「案内人があんまり理解してないってどうなのよ……」


「ふっふっふ。まあいいじゃないか。それより、見学ツアー最大の人気スポットへ――いざ行かんッ! 開け扉ッ!!」


 両手を扉に向けるダカーシャ姉さん。その後ろでパソコンをカタカタ操作し始めるリューイン兄ちゃん。

 すると、ゴオ……っと音を立てて扉が開き始めたぞ!


「おお! 本当に開いたぜ! すげー!」


「ふふふ、もっと褒めてもいいのだよ?」



「……今のってリューインさんが開けたんじゃないの?」


「それは……一つの演出という事で。彼女の為にも見逃してくれないかい?」


 さあ行くぞ! 冒険のスタートだぜ!

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