第6話 初勝利

 お菓子を食べ終わった俺たちは、なんやかんやがあってガラスの向こう側に居た。


「いやぁ、まさかあれがこうしてこうなるとは想像もできなかったぜ」


「あれがこうしてって何さ? ダカーシャさんがせっかくだから僕たちにも体験させようって言って、こうなったんじゃないか」


「そうだったろうか?」


 ……ああ、いや確かにそうだったなあ。


『よし、どうせだし君たちも体験してみないか? 設定レベルをいじれば安心してシミュレーションすることができるんだ。ここは見学に来る子供たちにも人気の体験スポットなんだよ』


『何事も経験ですし、いいかもしれませんね。……あれ? でもそれ許可取ってますか?』


『……さあ、行こうじゃないか君たち!』


『え? ちょ、ちょっとダカーシャさん!?』


 という姉ちゃん兄ちゃんのやり取りがあって俺たちはここに降りてきたのだ。というわけなんだぜ。


 扉の向こうの控え室で子供用のスーツを着て、なかよし三人組がシミュレーションにいざ挑戦!


「見てくれよこの銃。この間買った、おもちゃ屋の投げ売り水鉄砲並みにかっけーぜ!」


「その褒めてるのか褒めてないのかわかんない例えは何? ……それで、ええっと、これを使えばいいのよね?」


「ダカーシャさんの説明だと、気が使えない人の為に開発されたシミュレーション用らしいから。逆にこれ以外には僕たちには使えないんだと思うよ」


 渡されたのはおもちゃみたいなデザインの銃だった。


 これをシミュレーションのモンスターに向かって撃てば、当たった判定になるんだって。

 便利な時代だぜ。


 マジマジと眺めていると、奥のドアがウィーンって開いて白いロボットが三体出てきた。

 あれ? さっき見たのと違うな?


『シミュレーションが起動すると、そのロボットたちはVR処理されてモンスターみたいに見えるようになるんだ。実際に変形したりする訳じゃないから、そこはちょっとガッカリ感あるけど……仕方がないと思って諦めてくれ』


 ルームの中をスピーカー越しのダカーシャ姉ちゃんの声が響き渡る。


 なんだ、変形したりするわけじゃないんだ。ちぇっ。

 本当にちょっとガッカリだな。


「でも、なんでこんなファミレスで見たような見た目してんだろう?」


「ご丁寧に表情の変わるモニター付きだわ。……ベースが同じなのかしら?」


「あっ、僕聞いたことあるけど。確か、ロボットの会社がギルドの技術協力に関わってるんだって」


「へえ。世の中どこがどう繋がってるかわからないものね」


 世界って狭いんだなあ。また一つ勉強になったぜ。


『さあ、そろそろ開始と行こうじゃないか。安心してくれ、さっき言ったようにダメージ無しの体験レベルに設定してある。ただ、だからと言って一方的に攻めたりせず、攻撃を避けたり防いだりはキチンとするように。その方がきっと面白いぞ。体験は何事も面白さからだ』


 姉ちゃんがそう言い終わると、急にロボットの見た目がグニャリと変わって……。

 さっき見たような白い色のモンスターに変わった! 大きい……うさぎかな? 角がついてる。


「おっと、ゲームで見たような感じだ。もしかして元ネタ?」


「かもしれないわね。……ってそんなこと言ってないで、来るわよ!」


 アヤミの声の通り、その白いうさぎ的な敵は角を突き出して突進して来たのだ。それも三匹連続だぜ!


 あれ? そういうばうさぎって羽で数えるんだっけ?

 ……モンスターだから別にいいか。


 って、そんな場合じゃないな。まずい!? このままだと俺たちにぶつかる!!


「あぶねええェッ!!!」


「え? ――うわあっ!?」


 俺はとっさにエミの後ろに回り込んで、奴らの攻撃を回避した。……ふう、危なかったぜ。


 三回連続で攻撃を受けたエミは、そのまま尻もちをついて……なぜか笑い声をあげた。


「ひひっはははははははは!! ひゃひゃっ! ――ってなんで!?」


『体験レベルはダメージの代わりにくすぐられるような感覚を味わうんだ。まったく何の感触もないとシミュレーションにならないからね』


「いや、それちょっと先に言ってくれませんか!? ……それにね、僕カツくんに言いたいことがあるんだけど!」


「え? 何? 何かあったか?」


「いや何かあったかじゃないよ! 何、さっきの”あぶねー”って? 違うじゃないか! あの叫び声はどう考えても自分が仲間の為に盾になるパターンのやつじゃないか!! なんで僕は急に盾にされたの?!」


「何だよ? そんな過ぎたことをグチグチいつまでも」


「そんなしつこいほどグチグチ言って無いし! 当然の抗議でしょこれはッ!! 勝手に過ぎたことにされるのはたまったもんじゃないよ!!!」


「そうは言うけどなお前――自分も守れないようなやつは、結局誰も守れないんだぞ?」


「いや、何カッコよくキメようとしてるのさ!? 違うよ! このタイミングは間違いなく僕が君に説教するタイミングだよ!!」


「言いたいことあるかもしれないけど後にしなさい! 次来るわよっ!」


 アヤミの注意に中断される友情の会話。

 とたんに三方向に散った俺たちの、さっきまで居た地点にまた突撃していたうさぎたち。


 これは息つく暇もないぜ。


 そう思ってると、隙を見つけたのか銃を撃つアヤミとそれに便乗する俺。

 そしてひるむうさぎたちだぜ!


「エミの仇よ! 食らいなさい!」


「か、仇……?」


「ほら! いつまでもぼーっとしないでお前も合わせろ、エミ!」


「なんか……なんかいろいろと納得がいかないんだけど……。くっそぉっ……!」


 そうして、俺たちなかよし三人組の息のあった連携攻撃に根をあげたのか。

 きゅう……って鳴いたあと、元のロボットに戻っていった。


「へへ、やったぜ! 大勝利ッ!!」


「いや、僕はやっぱり納得がいかないよ!!」

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