第5話 素朴な少年の疑問

「ふう……。おっ、ダカーシャさん。……この子供達は見学ですか?」


「おお、戻ったねリューインくん。みんな、この男の子こそ先ほどその動きでみんなを魅了していたセイ・リューインくんだ。挨拶するといい」


「「「こんにちは!」」」


「はい、こんにちは。僕は斉柳允、よろしくね」


 部屋に入ってきたのは、さっきまで下で派手に動いていたお兄さんだ。

 着替えてきたのか、黒いスーツは来ていなかった。ダカーシャ姉ちゃんが着てるみたいなジャケット姿だ。やっぱここに制服か何かかな? かっけー。


「ふっふ、この子たちは私の友人なんだ。夏休みに入ったから、施設の案内をしているのだよ」


「そうなんですね。確かに、いつもの職場見学にしては人数も少ないですし、個人的な友人なら納得です」


 このお兄さん、さわやかだなぁ。それに背も高いや。一八〇はあるな。

 いや、背の高さだったらダカーシャ姉ちゃんの方が上だ。……あれ? 姉ちゃん何センチあるんだ?


「彼は海外からの研修生でね、将来のスター候補さ」


「へぇ、こっち側の方でハンターになれた人ってあんまり聞かないですし……かっこいいですね」


「ははっ、いやおだてないでくれ。あなたもですよ? 僕はまだ駆け出しで、研修中の身なんですから」


「いやいや、先輩として若い力に期待したいものなんだ」


「ダカーシャ姉ちゃん、年寄りみたいなこと言ってる」


「おっと、これは手厳しいな。もちろん、まだ私は若いさ。肌だってほらピッチピチ」


 そう言って、腕を捲って見せてくる。……正直よくわかんないな。

 そんな様子を見てクスリと笑うリューイン兄ちゃん。なんだなんだ?


「いや、失礼。この人は子供好きで、見学の案内をよく買って出ては、子供たちの人気者になるんだ。そういう人だから見てて飽きないんだよ。……僕も見習いたいくらいさ」


「いい感じのところでよしておいた方がいいんじゃないかしら、お兄さん? 全部を真似すると収拾がつかなくなるわよ」


「……それも言えてるんだよね」


 アヤミがよくわからないことをピシャリと言うと、苦笑いを浮かべる。

 なんだよ? 俺は姉ちゃん、これだから面白いと思うぜ。

 何が不満なんだか、近頃の女子はよくわかんないんだ。


 そんなことを考えていると、エミが兄ちゃんに話しかけて質問をしていた。


「例えば日本だとハンターの学校とかが出来てまだそんない経ってないって話ですけど……、リューインさんは気の扱いとかどうやって覚えたんですか?」


「気の扱い……気を使う……、ああ! 俺わかった! 人の顔とか見てさっ」


「あんたが考えてるのは”気遣い”よ。もう、ちょっと黙ってなさいな。せっかくお菓子貰ったんだし、話が終わるまで静かに食べてなさい。床とかにこぼさないようにね」


「ちぇっ」


「こっちのテーブルで私と食べようじゃないか。コンピューターにこぼさなきゃ大丈夫さ」


 ダカーシャ姉ちゃんに連れられて、パソコンとかが置いてあるテーブルの前のイスに座って一緒にお菓子を食べることにしたのだ。俺いい子だから、言われた通りに食べちゃうもんね。


「ポリポリ」


「コリコリ」


「とりあえずあの二人は無視して、……さっきの質問の答え、お願いねお兄さん」


「そうだね。僕の場合は……周りの環境に恵まれた部分もあるから」


「と、言いますと?」


「僕の故郷では武道が盛んで、その関係で昔から概念としての気は存在してたんだ」


「ぶどうだったら俺んちでも食べるぞ。母ちゃんが家庭菜園で育ててさ……」


「そっちじゃないのよ。はい、黙って食べてるの」


「んあがっ。……ポリポリ」


 真面目に答えたつもりだったのになぁ。

 アヤミは何が気に入らなかったのか、俺のそばに寄って来て、俺の持っていたお菓子を口にツッコんできた。


 失礼なやつだな、無礼だぞ。

 でも美味しいから許しちゃうのだ。俺いい子だよな。


「……それでさっきの続きだけど。古くから概念があったからこそ、武道を通して手に入れることが出来たって感じかな? こちら側だけの知識と技術だけでは出来無いけど、ダンジョンの向こうからやってきたハンターの知識の技術が組み合わせて、武道における気を目に見える形で出せるようになったんだ。もちろん、そこまでいくのはすごく大変だったんだけれどね」


「なるほど。じゃあ格闘技を習ってる人が、やっぱり有利なんですかね?」


「一概にそうとは言えないけれど……、故郷では一生懸命に武を修練してハンターの知識と技術を学んで、そうして気を扱える人間が増えていってる。その速度は、ちょっとした自慢かな。最初に出せるようになった人が現れた時は、もう大騒ぎだったね。僕がずっと小さかったの頃の話なんだけどさ。それでその人は今、故郷のギルドで活躍しているよ。地元の誇りってやつだね」


「へぇ……、なんかここに来て初めて真面目に為になる話を聞かされたから……ちょっと新鮮な気分ね」


 おお、なんか二人とも納得したような顔してるな。

 俺なんかよくわかんなかったけどさ。


 俺も何か、ダカーシャ姉ちゃんに質問しようかな?


「姉ちゃんに質問」


「なんだい?」


「姉ちゃんは、いつからオーラが使えるようになったんだ?」


「ふふっ、君も知りたがりだな。よろしい! 教えてあげようじゃないか。……あれは私が十歳の頃、木刀を天に掲げて『なんか出たら面白いなぁ』って思ってたら急に刀身がブンって光って――」


「余韻が台無しだわ」


「は、はは……。ま、まぁあの人はちょっと特殊だから。その、いろいろと……」

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