第4話 見学スタート
「いやはや! 本日は晴天なりなりと言ったところかな? こうして君たち小さな友人諸君を迎え入れる事が出来たこの日は、私の人生における五番目くらいに祝福すべき日だな!!」
「……朝っぱらからそのテンションはついていけないわ。やっぱり来るべきじゃなかったかしら?」
「いや、一応招待されたわけだし……ここは素直に喜んであげた方がいいんじゃないかな? ぼ、僕はここに来れて嬉しいですよ!」
「あっ、お前僕は何か言っちゃって。まるで自分だけは違うみたいな言い方ってズルいと思うぜ。そういうところあるよな」
「そんなつもりないよ!? なんて事を言うんだい!」
夏休み初日の朝。
俺たちはバスを乗り継いで、このギルドへとやってきたのだ。
なんかこの時点で冒険感あるよな。小学生の夏はこうじゃなきゃ。
そう、ここがハンターギルド。略してギルド。
俺が生まれるずっと前に建てられた、ハンターたちの職場だってさ。
基本的にはダンジョンの向こう側から来た人が働いてるからか、ダンジョンが発見される前は見かけなかったらしい感じの人たちも多い。
例えば、猫の耳としっぽが生えた人とか。あと他には犬の耳としっぽが生えた人とか。
あとは耳が長かったり、コウモリみたいな羽根が生えてる人とか。
「それとなんと――動物の耳とかしっぽとか生えてない人もここに居るんだって。不思議だよな」
「急に何言ってんの? それに、それってそれこそ私たちの特徴でしょうが。それがスタンダードなのよ。自分の体を鏡で見たことがないわけ?」
「見たことないわけないじゃん。……あっ、そうだ! 俺たちのことでもあるじゃん。うっかりしてたぜ」
「はははは! 相変わらずお茶目さんだな君は」
「……何なんだろう? この会話」
なぜか、一人置いてけぼりを食らってるような感じを出してくるエミは置いておいて。
俺たちみたいな普通な見た目の人も働いている。
例えば目の前にいるダカーシャ姉ちゃんとかそうだ。
向こう側から来た人だからって、みんながみんなしっぽとかあるんじゃないらしい。
俺の世代だとちょっと珍しいなって感じだけど、母ちゃんたちの子供の頃には居なかったっていうんだから、正直そっちの方が不思議だよな。
「これが時代の移り変わりってやつか……。風流を感じるぜ」
「ふ、風流? ちょっと何言ってるかわからないかな」
「……ふぅ」
「……なんで今ため息つかれたんだろう? ちょっとなんか、納得がいかないんだけど」
「エミ、いい加減で真面目に受け止めるのはやめなさい」
「はっはっは! 仲良きことはビューティフルかな」
「あと、この人の言うこともよ」
「……そうみたいだね」
なぜか急にはぁ、とため息をついたエミ。その歳でもう心配するようなことがあるんだろうか?
意外と苦労人かもしれないぜ、こいつは。
その後はロビーを通り抜け、ダカーシャ姉ちゃんにあちこちと案内される俺たち。
その間、ここで働いてるお姉さんたちに頭を撫でられたりお菓子をもらったりする俺たち。
気づけば両手にお菓子抱えてるんだな、これが。
「へっへっへ、大量だぜ」
「まさかこんなに歓迎されるなんてね。ちょっと意外だったかな。ハンターギルドって言えば、子供の職場見学で凄い人気だって話だから。職場に子供なんて見慣れてるはずだけど」
「ふふっ。子供たちというのはそこに居るだけで活気を生み出すものだからね。ここで働いている人たちは皆、元気なお子様たちが大好きなのさ」
「へぇ。……ま、それはさておき。袋でも持ってくるべきだったわね。こんなに歓迎されるなんて思ってなかったから、仕方がないんだけど。ふふっ」
なんだアヤミの奴、この前お前知らない人からもらったものは、とか言ってなかったか?
だけど今日は嬉しそうじゃん。
「今日は素直に貰っちゃって。ほんとはお菓子が好きでしょうがないんだろ」
「そりゃお菓子は好きよ。でもね、時と場合ってものがあるの。あの時は得体が知れなかったんだから仕方ないでしょ。まあ、あの時貰ったお菓子は兄貴に食べさせても問題無かったから、その後私も食べたんだけどね」
「……やっぱり食べさせられたんだ、お兄さん」
「おいおい、そうやって三人でばっかり楽しそうに話されると私も寂しいぞ? 仲間に入れさせておくれよ」
そんなこんなのやり取りをしながら、案内を受けてしばらくが立ったんだぜ。
俺たちはシミュレーションルームって場所に連れてこられたんだ。
大っきなガラスの向こうは白くて広い部屋があって、ガラスから下を見下ろすと、黒いタイツみたいな服をしたお兄さんがモンスター? と戦っていた。
「ここは、言うなればダンジョンに入る前の心構えを見つめ直す場所、といったところかな。訓練施設で一定の修練を終えたハンターが、実戦に近い形で己の技量を確かめるんだ」
「へぇ、ここがあの。あのお兄さんが戦ってる白いのって本物、じゃないですよね?」
「そう、ダミーさ。まあ詳しいことは私も理解してないが、最新のヴァーチャル技術で質量を表現出来ているとかで……これが結構よくできた代物なんだ。ただ、彼が着ているようなスーツを着込まないとダメージを受けたり与えたりする感覚が味わえないんだけどね」
ん? つまり、どういうことなんだ?
頭をひねって考えていると、アヤミがそっと話し掛けてきた。
「どうせあんたの頭じゃわかんないんだから、そういうものだと思えばいいのよ。……ヴァーチャルって事はあの部屋が全体が巨大なVRゲームみたいなものだと思っておけばいいの。それで、あの人が着てるようなスーツって言うのはそういうゲーム機の中に入るための着ぐるみみたいな物だって考えればいいわけ。わかった?」
「お? なんかそれっぽいな!」
「おお! なんかそれっぽいな! そういうことなのか!!?」
「なんで案内してる人間が一番驚いてるのよ……」
じゃあこの部屋に置いてあるパソコンの画面に映ってるのは、ステータス画面って感じなのか。
なんかピカピカ光ってるけど、そういうことだったのか。
しかし、エミはこの部屋の事を俺たちが来る前から知ってる感じだったぞ? これはどうことなんだ?
「お前はなんで知ってたんだ?」
「そりゃあ、有名だからね。やっぱり子供にはこういう、わかりやすい感じで派手なのが受けるんだよ。――ほら今みたいな!」
急に興奮するエミ。
ガラスの向こうではお兄さんが手からハァ! って感じで波っぽいのを出してモンスターを倒してた。
うわあ、かっけー! こりゃ興奮だぜ。
「はぁんなるほど。……でもエミさ、子供にこういうのが受けるって言うけど、お前だって子供のくせに……、なんか一々小賢しい奴だよな」
「ひどくないその言い方!?」
そしたらプリプリしちゃったエミ。
なだめるために俺のお菓子を分けてあげた。
まったく……やれやれ、まだまだ子供だぜ。
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