第3話 速攻解決
姉ちゃんの話をまとめると……。
五年前にこっちに来て以来、この街にあるギルドの支部で働いているハンターのダカーシャ姉ちゃん。
昨日の夜、うっかりハンター免許を落としてしまって探してまわってるとか。
「それがなんでゴミ捨て場の前に立ち尽くす事になってるのよ?」
「昨日はほろよい気分で帰ってたからな。あのゴミ捨て場の近くに私の住んでる部屋があるのだが……」
「帰り道で落としたんですか?」
「その可能性がある、ということだ。いやはや酒というのは恐ろしい、簡単に記憶をあやふやにさせてしまうからな。はっはっは!」
「いや、笑いごとじゃないでしょうに。……しっかし、初めてあったハンターがこんな人だとわね」
やれやれって感じで首を横に振るアヤミ。
そう、ハンターだ。名前の響きだけでカッコイイぜ。
知らない人たちに特別に説明してあげると、ハンターとは……。
「バッバーン! で、ザシュッ! って感じに活躍するカッコイイ感じに見える人のことだぜ」
「急に何言ってるのカツくん?」
「えっ、わかんない?」
「いや、本気で何言ってるか全然理解出来無いんだけど」
「はぁ……。やれやれ、そこが俺とお前の差ってやつだよな」
「……なんかわからないけど、今ちょっとカチンときたんだよね。僕がいつまでも大人しいと思ったら大きな間違いだからね!」
「おお……!」
「その”おお”は何? 僕はもうどういう感情でいればいいのかわかんなくなってくるよ、もう!」
「落ち着きなさいってエミ。……あんたも困らせること言わないの」
「そんなこと言った覚えないぞ?」
「覚えがなくても一旦考えてしゃべりなさい。あんたに足りないのはお口をチャックする心構えよ」
「……アヤミお前、なんか急にカッコイイこと言うじゃん」
「そうでしょ? カッコイイでしょ? じゃあちょっと黙んなさい」
そういって人差し指を俺の口に当ててくる。
よし俺も男だ、ここはカッコよくチャックしてやる。
ふん!
「んん!」
「……で、今のは何がカッコよく思えたの?」
「あいつの感性にいちいちツッコんでたら切りがないわよ。あいつがそれで静かになるんだから合わせなさいな」
「うんうん! 仲良きことは美しきかな」
「……あのお姉さんは何を見てあんな感想が出て来るの?」
「わからないわよ。疲れてしまうから合わせてあげなさいな」
二人して何かひそひそ話してる。そういうのは後ろめたい? ことがあるって証拠だぞ。
でも俺は寛大で雄大な男だから、あえて気にしてあげないのだ。
よし、何故か俺達を見てうんうん首を縦に振ってる姉ちゃんのことについて改めて説明するぞ。
そもそもはダンジョンってやつが始まりなんだ。
なんかよく知らないけど、俺が生まれるずーっと前に世界中で変な洞窟やら扉やら急に出て来たんだって。これがダンジョンってわけ。
世の中が大パニックになったらしいよ。今じゃ考えられないよな。パニックが起きてたってことが俺にはビックリ。
で、それらを偉い人達の命令で筋肉自慢の人達が中に入って調べてたら……これがビックリ。
中には変な生き物がいたんだって。猫みたいだったり犬みたいだったり。あと変なねばねばしたやつとか。
で、調査してた人達を襲ってきたらしい。そういうのにモンスターって名前をつけたんだと。
これが”世界の終わりの始まり”とか言う人もいたらしいけど、どういう訳かモンスターはほとんどダンジョンの外に出てこないから、そんな騒ぎもいつの間にか終わっちゃって。
でもそのままにしておけないじゃん? でもこのモンスターってが中々倒せないらしくて、みんな困ってたんだな。
そんな時、あるダンジョンの奥から人が現れて――ズバッ! って感じにモンスターを切っては切っては切っていったらしいぜ。
その人いわく、『自分は余所の場所からダンジョンを通ってきた人間』とのこと。
それと自分みたいな人間は”特別な力”を扱うことでモンスターをやっつけることが出来るとか、そんなことも言ってたんだって。
それが世界で最初のハンターとの出会い。
それからは色々なことがあって。で、今みたいに余所の場所から来た人たちがこっちギルドって会社? を作ってモンスター退治をしているんだって。
こっちの世界でも、ハンターを育てる学校とか出来たって言うけど。それでもその”特別な力”――こっちじゃ”気”って呼ばれて向こうの人たちは”オーラ”って呼ぶ――を扱う人がまだ多く無いんだってさ。
なんかよくわかんないけど、ノウハウ? がまだ十分に足りてないんだとか。
この姉ちゃんは五年前にこっちに来たって言うけど、じゃあ結構な大人とか? って聞いたら……。
『向こうでは十五歳で成人として扱われるのさ。だから私はまだ二十歳。こちらで言えば花も恥じらう女子大生と同じってことだ。わっはっは!』
『……恥じらい、はどこなのよ?』
ジトってした目のアヤミは失礼な奴だよな。
それはさておき、これはもうあれだ。人助けの時間だな。
「ん! んんんん、んんんんんんんん……」
「……わかった。わかったからもうしゃべっていいわよ。はいチャックオープン」
アヤミが人差し指を俺の口に当てて横に引く。
よし、これでしゃべれるぜ!
「よし姉ちゃん! そんなことなら俺たちが手伝うぜ!!」
「たち?」
「たちだって。やるの僕たち?」
「ええ……もう帰りたいんだけど」
もう、こいつらと来たら人情ってもんが欠けてるよな。
でも俺はギニアつい男だぜ。ギニアって何のなのか知らないけど、きっと人の繋がりの大切さだろう。
「おお! 中々可愛らしい申し出じゃないか。そこまで言うなら仕方ない、手伝う事を許可してあげよう」
「おうだぜ!」
ついでに頭撫でられちゃった。俺撫でられるの嫌いじゃないんだ。
よし、そうと決まれば……。
「くんくん」
「お? マントの匂いなど嗅いでどうした? ……いや、そうか匂いで探そうというのだな?」
そう、テレビとかで見るアレだ。同じ匂いを探して落とし物を見つけるのだ。
「い、いやそんな犬じゃないんだから――」
「あったぞっ!」
「――ええぇぇ!!!?」
何故かエミが驚いてたけど、そんなの無視だ。蟻んこだ。
ゴミステーションの近く、電柱の裏の塀との間のほっそい所に免許を発見だぜ。
俺はそれを拾い上げて姉ちゃんに見せつける。
「おおお!! これこそまさに私の探し求めていた人生の宝、ハンター免許だ!! 君達に配った駄菓子よりワンランク上の大事な宝ものだ!!!」
「……それはまたやっすい宝ね」
ってな感じで速攻解決。
そして、お礼がしたいらしくて休みの時にギルドに遊びにこないかって誘われた俺たち。
そして俺たち、夏の小学生の休みっていうと――そう、夏休みだ。
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