第12話『私は、ハッピーエンドを迎えたい。より多くの人たちと』
ぬわぁあああああ!! あの野郎!!!
私のパーフェクトで完璧な計画を邪魔しやがってぇええええ!!
許せん! アルバート・ガーラ・ヴェルクモントォオオオオ!!
アリスちゃんも! エリカ様も絶対私のママにするんだからな!! 舐めるなよ!!
「……」
私は心の中で噴き上がる怒りをそのままに、自室で今日のお茶会について考えていた。
その中で一つ、たった一つ、揺るぎない事実がある。
それは、アルバート・ガーラ・ヴェルクモントが私の敵だという事だ。
そして、今回の戦いでは私が負けたという事だ。
あと一歩、後もう一歩だったのに、アリスちゃんとエリカ様を聖国にしれっと連れて行って、そのままなし崩し的に同居しちゃおう作戦が失敗してしまった。
あの男が余計な事を言わなければ、二人は完全に私のママになっていたというのに。
おのれ……いったい私に何の恨みがあるっていうんだ。
いや、あるのか。
まさか、まさかまさか!! あの男!!
既にエリカ様とアリスちゃんを狙っている……?
違う! 違うぞ! それだけじゃない。
『あぁ、例えばだが、聖国の聖女殿。君が聖国ではなくヴェルクモント王国に永住を希望するなら、私が最大限協力すると約束しよう』
あの男、もしかして、私の事も狙ってる!? 監禁リストに入れられたって事ォ!?
手当たり次第かよ、あの野郎生意気な!
自由って言っても、やって良い事と悪い事があるだろ!
確かに生まれ変わった私はスーパーでハイパーな美少女だが、それでも聖女二人を監禁って世界的な損失が半端ないんだが!
私ら一人で都市どころか国難に対処できるレベルなんだぞ!?
つまり単純計算二つの国を亡ぼす蛮行に近い。
それを、自分が美少女ハーレムやりたいが為だけに実行するとか、狂気とかそういうレベルじゃ無いんだが。
いやー。流石にそれは止めないとなぁ。
普段はアリスちゃん、エリカ様に挟まれてバブバブしたいなんて考えてるけどさ。流石に苦しんでいる人を見捨ててそんな事は出来ないよ。
私は幸せに生きたい。こんな理不尽な世界でも、笑って生きていたい。
でも、私だけが笑っていれば良いって訳じゃない。みんなで笑って、ハッピーエンドだ。
まぁ私に恋愛戦争で負けた奴が泣くのは、しょうがないけどね。死ぬわけじゃないし。別の良い人を探してくれって感じだ。
うん。そうだよね。
それが一番良い。
でも、そういう未来を目指すのならば、それを邪魔する人を何とかしないといけない。
こういう正義! みたいな行動は本来この世界、この時代の主人公がやるべきなんだろうけどさ。
エリカ様も、エリオット王子も正直人を糾弾するっていうのが得意そうじゃ無いし。
やるなら私がやらなきゃ駄目だよね。
うん。そうしよう。
「……ニナ。いえ。騎士ニネット」
「はい」
「貴女はこの国についてどう思いますか?」
「現国王はおよそ己の事しか考えていない愚物でしょう。しかし、次代については現王よりは見どころがあります」
「……」
「ただし、聖国や聖女様への敵意が強く、あまり接近するのは危険かと」
「以前のお茶会はその様な雰囲気でしたね。ですが、民に対してはどうですか?」
「民に対しては……よき王になる可能性が高い、ですが! かの者は聖女エリカ様に対してすら利用しようとしていたという情報があります!」
「していた。という事は今は違うんですよね?」
「それは、そうですが! あの男は聖女様への敬意が足りません。聖女様を利用するという事に躊躇いが無いのです。セシル様、何か為したい事がありましたら、私が、聖国がそれを叶えてみせます。どうか、危険な事は考えぬよう!」
過保護だなぁ。なんて思いながらとりあえず笑っておく。
そしてニナから聞いた話と、かつて乙女ゲームで攻略した際に見たアルバートという男の情報を照らし合わせ、それらにあまり違いが無い事に注目する。
やはり、というべきか。アルバート王子はあのゲームとほぼ同じ人格であるらしい。
この世界がゲームの世界だからか、もしくはこの世界をあのゲームが忠実に再現していたのか。
そのどちらが正解かは分からないが。それでもアルバート王子があのゲーム通りの性格なら、正直この世界の誰よりも信頼できる。
あの男は多くのバッドエンドを生み出してきたが、その全てが聖女と国民を護るためであったのだ。
まぁ、行き過ぎな所もあるけれど、それはこの異界冒険譚シリーズの世界が悪いからともいえる。
聖女という人々はこの時代の前も後も、変わらず他者の為にその身を投げうってきた人たちばかりだ。
この世界の理不尽を見て、納得できる人間たちでは無い。
だからこそ、アルバート王子は聖女から目を奪う決断を常にするのだ。
しかし、それは私の望む未来ではない。
何故なら、そのエンディングはバッドエンドだからだ。
主人公であるエリカ様にとって良くないエンディングなのだ。彼女はただ護られる事を望んでいない。
私は、ハッピーエンドを迎えたい。より多くの人たちと。
「……ニナ。聖国は好きですか?」
「はい。聖国にはセシル様がいらっしゃいますから」
「では私が居なくなった場合、聖国にニナが求めるものはありますか」
「それはっ! それは……」
「うーん。やはりニナにとってあまり聖国はよい国では無いようですね。何となく察してはいましたが」
「……セシル様は、気づいていたのですか?」
「まぁ、私も目や耳が付いていない訳では無いですからね。炊き出しをしようと、視察と称して食料やお金をばら撒こうと、聖都の方々の暮らしは変わらず貧しく苦しい物でした。そしてそれは私たちが生まれ育った場所も同じです。だと言うのに、教会の方々は日々贅沢な暮らしをしている。私の様な能無しでもおかしいと気づくという物です」
まぁ前世から不正やら、裏金やらっていう話はいっぱい聞いてたしね。
どこの世界も変わらないんだなって感じ。
人の欲望は本当に限りがないね。
「それに、理不尽に家族を奪われて、さらに命まで奪われてしまいそうな方も居ましたし。聖女見習いと称して誘拐まがいの事をしている方も居ました。そういう不正が当たり前の様に行われているのが、聖国という国です。だから、ニナの様に清廉な騎士が仕えるべき国ではないと私は考えるのです。ニナ。ニナは自分の幸せを考えても良いのですよ」
「あ……あぁ……セシル様」
「ニナ?」
「セシル様は全て、ご存じだったのですね」
「え? あっ、まさかニナも」
「申し訳ございません!! 私は、ただ彼らの蛮行を見逃すばかりで! セシル様の思う様な人間では!」
私はやってしまったなと思いながらニナを抱きしめた。
そして、安心して欲しいと囁く。
「大丈夫。安心してください。ニナ。彼らは皆、私が光の魔術で身代わりを作り、国外へ逃がしております。ニナは誰も見捨ててなど居ないのですよ」
「あぁ、あぁあああ、セシル様! わたしは、私は!」
「ニナ……どうか、泣き止んでください」
ニナは私に泣いて縋るばかりで、どうやっても泣き止む事は無かった。
不幸になっている人など誰も居ないというのに、やっぱり自分が許せないという感じだろうか。
ニナは本当に良い子だなぁ。と思う。
でも、だからこそ幸せになって欲しいと思うのだ。
私みたいにバカな事を考えて、バカをやって生きていて欲しい。
そう、思うのだ。
「ニナ。少し疲れている様ですね。眠って下さい」
「セシ……ル様」
私は癒しの魔術でニナを眠らせると、そのままベッドに寝かせた。
まぁ、私自身大分非力なので、かなり苦労したが、何とかなったのは幸運だったと思う。
そして、ニナを寝かせた後、私は窓から空に浮かぶ月を見て、困ったものですね。なんて呟いて目を閉じた。
瞬間、何が起きたのか分からないが、目の前にあった窓ガラスが割れ、悲鳴を上げるよりも前に何者かによって私は捕まり、何処かへ運ばれてしまうのだった。
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