第6話『エリカ様には傷一つ付けさせませんよ!』

エリカ様と出会いたい! と想い、学院の中を歩き回っていたら、昔のお友達にあったでゴザル。


いつの間にか大教会で見なくなったなと思っていたが、まさかヴェルクモント王立学院に居たとは。


驚きで言葉も出ないね。


「お久しぶりです。リリアーヌさん」


「せ、聖女様!? ど、どどどどうしてこの学院に!?」


「私も大教会に引きこもってばかりではなく、世界を知ろうと思いまして」


「そうなのですね! では、このリリアーヌ。全ての命と体を持ちまして、聖女様には傷一つ付けぬよう、粉骨砕身! お傍にお仕えさせていただきます!!」


「あ、あの。そんなに無理をしないで下さい」


何なら怖いねん。


大司教とかもそうだけど。たまに目がガンギマリなんだよね。


いや、私一般聖女なんで、そんなに気合入れないでください。


失望された時が怖いねん。


この信仰が反転した瞬間に火あぶりとかにされそう。


恐怖しかないね。


「いえ! 無理などは一切しておりません! 聖女様が安全な聖国に帰国されるまで、私が聖女様の全てを御守りします!」


「あの。本当に大丈夫ですから。それに! ほら。見て下さい。私にはとても頼りになる護衛騎士が居るんですよ!?」


強いし格好いい。最強の萌えキャラや。


「護衛騎士ぃ……?」


「……」


不意にリリアーヌちゃんの目線が、私の後ろに立っていたニナに向かった。


しかしその目線は見ているというよりも、睨みつけているという風に見える。


いや、気のせいか。


「あぁ、ニネット様ですか。聖女様のお傍にずっとお仕えしているお方ですよね。ニネット様のお陰で、聖女様は今日まで傷一つなく平穏無事に過ごせているという事ですね」


「っ」


「そうなんです!」


「えぇ、とても素晴らしい事です。護衛騎士としては誇らしいでしょう。かつて騎士を名乗っておりながら、聖女様に庇われた愚か者が居たようですが、その様な者は即座に自らの首を刎ねるべきだと思いますが、聖女様はとても良い護衛騎士に会われましたね」


「そうですね。ニナと出会えた事が私の数少ない自慢です!」


「そうですか。そうですか。それはとても素晴らしい事ですね」


それからリリアーヌちゃんは私たちを寮に案内してくれたのだが……。


ふと私はリリアーヌちゃんを見ながら思う。こんなキャラだったっけ、と。


大人しい所は変わって無いけど、聖女様万歳みたいなキャラでは無かったはず。


いったい何があったんだ。




しかし、そんな疑問に対する回答は意外と早く見つかった。


それは一日の終わりに、私が部屋で休んでいた時の事だ。


当然の様に同じ部屋の中で護衛をしていたニナが、リリアーヌちゃんに呼び出されて彼女の部屋に向かったのだ。


私はそれが気になってしまい、盗聴用の魔術を仕込んだ小物をニナに仕込んだのだが……リリアーヌちゃんの部屋では衝撃的な会話が行われていた。


『私には聖女様の護衛という仕事があるので、話は短めでお願いします。リリアーヌさん』


『まだ死んで無かったんだね。ニナちゃん』


『……リリィ』


『ニナはさ、聖女様の背中を見た事あるの? あの傷を見て、何も思わないの? なんでまだ生きてるの? 本当に不思議なんだけど』


『私は、セシルを護らないといけないから』


『セシル様! でしょ!!? なに馴れ馴れしく呼んでるのよ! 聖女様を護るとか言って、護られてた無能の癖に!! 友達面しないでよ!!』


『……』


『貴女がのうのうとセシル様に甘えている間も、私は敵国でずっと諜報活動を行っていた。どちらがセシル様のお役に立てているか、考えるまでもないね。だからさ。もうニナは聖国に帰りなよ。私が居ればセシル様には傷一つ付けないから。どっかの無能騎士とは違って』


『……っ! 私は!』


『聖女様は自らの傷を癒せない』


『っ』


『護衛騎士の貴女が知らないハズないよね? 始まりの聖女である光の聖女アメリア様以外! 同じだ!! 聖女様方はみんな! 自分を癒す事が出来ないのに! 私たちの為に危険な場所へ向かってしまう人たちばかりだ!! だから、私たちはあの御方を御守りしないといけない。そんな当たり前のことも忘れてしまったの? 貴女は!』


『分かってる! 分かってるからこそ、私はセシルの傍に居るの!! 誰も本当のセシルを見ようとしないから!! 聖女だ聖女だって持ち上げて、そればっかりじゃない!!』


何や、そろそろ止めた方が良いのではないだろうか。


喧嘩もやり過ぎたら良くないし。


でも、何で私たちの会話を知ってるのか。なんて問われたら、何も言えないんだよね。


なら、偶然を装って、いやでもなぁ。


いや悩んでいる場合じゃない。


何だかんだとリリアーヌちゃんもニナも長い付き合いなのだ。みんな仲良しの方が良い。


私はそう思う。


という訳で、喧嘩を仲裁に行きますかぁ。


私は部屋を出て、今だに争いの止まらない部屋に向かった。


そして扉をノックする。


「あの。ニナ。リリアーヌさん? 大丈夫ですか? 何やら大きな音が聞こえましたが」


なんて、当然これは嘘なのだけれど、中からは明らかに動揺した様な声と音が聞こえた。


そして取り繕った笑顔を浮かべた二人が、何事もなく部屋から出てくるのだった。


何とも言い難い。


二人は別れる際に睨み合っていたし。仲良くっていうのは難しいかな。


せめて喧嘩しない様にしてくれると良いんだけど。




という訳で、人間関係を修復するにはプロの手をお借りするのが一番だよね!!


はい。こんばんは。私は今、エリカ様のお部屋を目指して移動中です。


無論、人には見つからない様に魔術を使用しておりますよっ!


光学迷彩ってぇ知ってるかい?


って奴ですね。えぇ、これも光魔術のちょっとした応用だ。


そして風の魔術により足音を消しているので、私の姿は誰にも認知されず、足音すら聞こえない。


最強!!


なので、早速エリカ様のお部屋に侵入し、エリカママにバブみを感じてオギャりますかぁ!


おじゃましまーす。


と部屋の中に入った瞬間、私はエリカ様ではない何者かの気配に気づいた。


そして部屋を照らすように光の魔術を使い、敵の姿を晒す。


「何者ですか!」


「っ!」


しかし、敵は光に照らされるや否や、エリカ様に手を伸ばしていた。


私は光の様に高速で動き、エリカ様を庇うべくこの身を晒す。


左腕に一瞬熱い何かが走った様な気がしたけれど、どうにかエリカ様を守る事には成功した。


「いつっ、エリカ様には傷一つ付けさせませんよ!」


「撤退だ!」


「ま、待ってください! 逃がす訳には」


と窓を破って逃げていく者たちを追おうとして、私は一歩踏み出したが、頭がふらついてしまい床に座り込んでしまう。


「……ぁぇ?」


「ん、んん。なに? なんですか?」


「エリカさん! ご無事ですか!? って、貴女は!」


「え? あれ? 何が、起きてるんですか?」


続々と集まってくる人の中、私は意識を何とか繋ぎながら、窓の外を指さして、怪しげな者たちに襲われたとエリカ様と、美少女ゲーム攻略キャラクターの一人であるローズ・ユーグ・グリセリア様に伝えるのだった。


そして、そのまま私は意識が闇に飲まれていくのを感じて、目を閉じた。


「聖女様!」


ただ、最後にやや物足りないが、柔らかい感触ととてもいい匂いの何かに受け止められた事を心の日記帳に記しておく。


すぐ耳元から聞こえた声、そして立ち位置、あらゆることからアレがエリカ様であった事は確定的に明らか。


つまり私は天国へとようやく到達する事が出来たのだった。

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