第4話『突然のファンタジー』
どうもこんにちは。みんなの聖女セシルちゃんです。
今日はいよいよ前から聖王様に話しておいた、ヴェルクモント王国の王立学院へ向かう日でござい。
という訳で朝から多くの信者の方々が教会に来ている訳ですが、当然全員の相手は出来ませんで、上から手を振る程度である。
すまんな。
「セシル様。そろそろ」
「はい。分かりました」
そして私はニナに促され、馬車に乗る。
ここからいよいよゲームの舞台! ヴェルクモント王国へ! いざカマクラ!
と、ここで私は馬車に乗り込む前に大事な用事を思い出し、光の精霊にお願いしつつ、光の魔術を広範囲で使った。
範囲? ざっと聖国の首都が入るくらいだよ。
今はね。
この魔術は私が改良に改良を重ねた魔術で、見た目とか対外的には祝福を与えているだけの魔術ですよと言っているが、その本質はまるで違う。
コイツは周囲の魔力を吸収し、無限に広がって、無限に効果を発動させ続ける天才の魔術だ。
まぁ私が使う魔術は全部私の中の魔力じゃなくて、周囲の魔力を使うから同じ様な物なんだけど、その規模が違うって事だね。
そう! さらに、この魔術の凄い所は、この魔術の影響を受けた者が他者へ害意を向けた瞬間に、その害意が満たされる幻覚を見る。というもので。
しかも相当にリアルな幻覚だから、実際に何らかの行動を起こしたという様な勘違いを起こす事も出来る優れものだ。
しかも記憶の矛盾が発生しない様に、周囲の人たちにも同様の幻覚が見えてるって訳よ。
後は、状況によりけりその被害者の幻を光の魔術で生成して、被害者は逃がした後、害意ある人間には見つからない様にする最強の魔術だ。
まぁ、流石にね。私も十年間という時間がありましたから。この程度の魔術は開発しておくって訳よ。
呑気に村娘Aとして生きてたら、謎の盗賊に村人が私とニナを除いて全員殺されたりしたからね。
私たちは何とか逃げたけど。
その時、この世界が異界冒険譚シリーズの世界だって気づいて、何とかしなきゃって魔術を練習し続けて、ようやくこの規模で発動できるようになったのである。
今までは聖国首都くらいにしか使えなかったけど、これで全世界、私の為のフィールドになるって訳よ!
フィールド魔法発動!! 私の世界!!
ってな感じって訳だ。
正直この世界、安全な場所なんか無いからね。
どこで何が起きるか分からない。
私ってば可愛いし。アリスちゃんもエリカ様もハイパー可愛い。
こんな可愛い女の子を放っておく奴が居るとは思えない! なんかいやらしい事して来る奴だって居るかもしれない。
そう考えて、この魔術を発明した訳ですなぁ。
あまりにも天才。
まぁ、この魔術使えばドラゴンも倒せるのではと思ったけど、あの生物、害意とかじゃなくて何も考えずに突っ込んでくるタイプの可能性が高いからね。あまり期待はしないでおこう。
とにかくだ。
王立学院へ旅立つ日に、自己再生、自己増殖、そして最後の要素である自己進化まで発明出来たのは僥倖だった。
これで心置きなく王立学院へ旅立てるよ。
そう考え、私は馬車に乗り込んだ。
中には呆然としているニナが居たので、いつもの笑顔で話しかける。
「どうかしましたか?」
「いや。先ほどの魔術は」
「あぁ、あれですか。皆様が幸せである様にと祈って使いました」
「……そう、ですか」
何故だろうか。ニナが泣きそうな顔をしている。
こういう時は!! 必殺エリカ様直伝のよしよし作戦で行こう!
「ニナ。こちらへ」
「え? はい……っ!? セシル様!?」
「もう。暴れないでください。ほら。大人しくしてください」
「は、はぃ」
私はニナに近くへ寄る様に言うと、そのまま抱きしめて背中を軽く叩いた。
辛い時はこうすると良いとエリカ様が言っていた。流石はこの時代のママやで。
「はい。少しは落ち着きましたか?」
「……はい。ありがとうございます」
「いえいえ。この程度は容易い事ですよ。むしろいつも無理ばかり言っていますから、ささやかなお礼です」
「無理、ですか?」
「はい。ニナは騎士としてとても優秀ですからね。本来であれば私の様な者の傍に居てもらうのはとても勿体ない事なのです。でもニナは優しいので、私はいつも甘えてしまって……」
へへと頬をかきながらニナに言うと、ニナは私を逆に強く抱きしめてきた。
そして大きなニナの体に抵抗せずにいると、ニナの言葉が流れてくる。
「私こそ。私こそ、セシル様のお傍に置いていただき、日々感謝しているのです。甘えているのは私の方です」
「であれば!」
私は何とかニナの腕から脱出し、髪を整えて笑う。
「私とニナは甘ったれ同士という事で仲良くしましょう。ですから、ニナももっと私に甘えて下さいね」
「……はい。セシル様も」
「もー。甘えるなら様。なんて付けちゃ駄目ですよ。昔みたいに。セシルって呼んでください」
「分かった、よ。セシル」
「はい!」
うーん。やっぱり最高か。
イケメン系少女の男装騎士は、男と女の性質を併せ持つ!
完璧で無敵の存在ってぇ訳だ。
はい。ここテストにでまーす。
なんてふざけた事を考えながら馬車に揺られて約五日。
来たよ来ました来ましたよ! ゲームの舞台! 王立学院へ!!
まぁ、正直早速ミスってるんですけど、そこは気にしないで!!
私は気にするけどね!!!
だってまさか馬車で五日もかかると思わなかったんだもぉーん。
エリカ様がこの世界へいらっしゃる瞬間を見逃すとは……このセシル一生の不覚。
あの伝説的名シーン。最高のCGを実写で見る事が出来ると思っていたのに!!
なんでこうなった!! 誰のせいだ!! 私!!! クッソー! 責めるに責められないよ。だってセシルちゃんが可哀想だもん!
他の奴なら死刑なんだけどさ。
セシルちゃんは可哀想だから無罪な。
わりぃ。私、聖女なんだわ。
でもでもでも! すんげー悔しいから学院内を歩きながらイメージだけでもしておこう。
そう。まずは異世界に来る前から物語は始まる。
高校生になったばかりのエリカ様は、家に帰りたくないという想いを抱えながら一人学校の校舎に居た。
そして、辛すぎる現実に涙を流すエリカ様に声が届く。
それは昔エリカ様を助けようとして、亡くなった人と同じ様な雰囲気の声で。
思わず、エリカ様はその声に手を伸ばして……!!!
この世界へ来てしまうんだ!!
夕焼けの教室から扉の向こうはこの世界の王立学院!
突然のファンタジー。
しかも目の前には謎のイケメンが。
何者かと尋ねられて、自分の名前。デフォルトネームは水野恵梨香っていうんだけど、名前を名乗る。でも、何者かという問いには答えられない。
そんなエリカ様にその男が言うんだ。
【私はこの王立学院で准教授をやっているテオドール・メッド・デルリックという者だ。君は今突然現れたな】
って。そして二人の会話が始まる。
【え、あの。はい。私、声が聞こえて。教室の扉を開けたら、この部屋に】
【声?】
【はい。懐かしくて、とても切ない声が】
【そうか。事情は分かった。何が起きたのかは分からないが、どうやら悪意は無いようだ。転移魔術の痕跡も無いしね】
【まじゅつ……?】
【魔術も知らないのか。これは本当に困ったね】
【えと、あの。テオドール様】
【テオ先生で良い。生徒は皆、そう呼ぶ】
この時さ。テオ先生で良い。って言いながら研究の時だけ付けてる眼鏡をクイって上げるんだよね!
いや、お前、マジ、マジかお前。……お前を攻略する。ってなったよね。
デデン。って感じだったわ。
まぁこの流れだと私、この後自爆しないといけないんだけど。
と、いう感じに最初の出会いは結構テンション上げてたんだけど、この先生なぁ。
いや、結構好きだよ? 好きだけどさ。
流石はヤンデレ監禁王として名高いアルバートの従兄だと思ったよ。割と危険人物なんだなぁ。
純愛かと思いきや、エリカ様のピンチに熱くなって、ドラゴン倒して……公爵家に軟禁エンドとは思いませんでしたね。
これがハッピーエンドってマジか? マジか。
私はさ。高校生だったから出来なかったけど、十八禁版は本当に凄かったらしい。
【君は目を離すと何処かへ行ってしまうからね。君を縛るものが必要らしい】
とかなんとか言ってる画像をネットで見てしまった時は、まぁ衝撃でしたわ。
エピローグでも大変子沢山でしたしね。
まぁ愛されてて良いですね、白目って感じだったわ。
恋愛は自由だと思いますけれども。相手の意思も考えてねって感じ。
エリカ様が助けを求めている様なら全力で助けよう……って違うだろー!!
そうだよ! 五日も虚無の中に居たから忘れてたけど、私はエリカ様をただ一人のオタクとして見に来たんじゃない。
私自身がエリカ様を攻略し! 攻略される為にこの学院に来たんだ!!
だから、陰険眼鏡なんぞに渡す訳にはいかんのだ!!
エリカ様を幸せにするのは私だ!!
引っ込め下郎!!
そうと決まれば、早速エリカ様を探しに行くぞ!
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