魔族の脅威とデコピン

「ふふふ、どうだい? レウル。

 目隠しをしている僕に攻撃を一回も当てられなかった感想は」


 先程の模擬戦が終わり、疲れて地面に寝そべっている俺に視線を向けた後。

 ラグニスは薄く笑うと俺に感想を訊いてきた。


「……ちょっと、ショックでした」


 俺は正直な感想をラグニスへ唇を尖らせながら伝えると、ラグニスは大きな笑い声をあげた。


「父様!」


「ふふふふふふ、ご、ごめんねレウル。

 く、わ、悪気があった訳じゃないんだ、くくく」


 俺は笑い出したラグニスへ大声で叫んだが、ラグニスは笑い声をあげ続けるだけだった。


「と~お~さ~ま~」


「くくく、もう笑うのは止めにするから怒らないでよ」


 俺が笑い続けるラグニスへ恨みがましい視線を向けると、漸くラグニスは笑うのを止めて真剣な表情になった。


「さて、レウル。

 先程、体験して分かったと思うけど、五感強化と魔力感知は相手の動きを読むことに特化した技術なんだ。

 質問だけど……なんでこんな技術が出来たと思う?」


 そこまで説明したところで、ラグニスは俺にそう質問してきた。

 俺は数瞬考え込んだ後。


「……不意討ちに対応するためですかね? 流石に常時闘気を纏っている訳にはいきませんから」


 と、ラグニスの質問に返答した。

 ラグニスは俺の返事に「半分正解かな?」と、呟きながら俺の頭を撫でた。


「半分、ですか? それではもう半分は何でしょうか?」


「あぁ、それはね……」


 俺がそう質問すると、ラグニスは頭を撫でるの一旦止めて俺から距離を取ると。

 ――一瞬で姿を消した。


「なっ?!」


「これがもう半分の答えだよ、レウル」


 俺は後ろからラグニスの消えたラグニスの声が聴こえ、慌てて振り向いた。

 すると、そこには何時の間にかラグニスが立っていた。

 そのままラグニスは俺の目の前に右手を差し出さすと、


 ――ビシッ!


 強烈なデコピンを放った。

 俺は額に強烈な痛みを感じながら意識を失った。








 数分後、俺はデコピンされた額を手でさすりながらラグニスを睨み付けていた。


「……ぃ、痛ッ〜〜、何をするんですか! 師匠!!」


  俺は急に額をデコピンしたラグニスに対して額を撫でながら叫んだ。


「ごめんごめん、ちょっと痛かったね。

 ――だけど、魔力感知まりょくかんち五感強化ごかんきょうかの重要性を知ってほしかったんだ」


「魔力感知と五感強化の重要性、ですか?」

 

 俺はラグニスの言った”魔力感知と五感強化の重要性”という単語を聞き取ると首を傾げた。

 ラグニスはそんな俺の様子に苦笑した後、赤く腫れた額を優しく撫でた。


「そうだよ、レウルは昨日の夜に魔族の話をしたのは覚えているかい?」


「……はい、覚えています」


 俺が”魔族”という単語に眉を潜めながら返事をすると、ラグニスは「よく覚えていたね……偉いよ、レウル」と、苦笑しながら頷いた。


「君は先程、この二つの技術が出来た理由を“不意討ちに対応するため"と、答えたね。

 その答えは正解だけど、もう半分――魔族という存在が足りていないんだ」

 

「”魔族”、ですか……」


 俺はラグニスに”魔族”の存在が足りないと言われ、手を口に当てて考え込んだ。

 そして、先程ラグニスが急に消えたのを思い出し、そこに魔族という存在を加えた結果。

 恐ろしい可能性に気が付き「あっ」と、声をあげた。


「その様子だとレウルもある程度見当がついたようだね」


「………………はい」


 ラグニスが俺を見ながらニヤニヤ笑っているのが目に入り、俺は自分の考えが正しかったのを悟って表情を険しくした。

 ラグニスはそんな俺の様子に満足したように笑った後、俺の頭を撫でながら微笑んだ。

 

「それではレウルも分かったようだし答えあわせをしようか。

 レウルの考えている通り、先程見せた一瞬で消える技術――加速ブーストは”全ての魔族が使えるんだ”、僕達人間が歩くのと同じようにね」


「ッ!? ……そう、ですか」


 ラグニスから当たってほしくなかった予想が的中していると伝えられ、俺の実力では魔族の攻撃に反応することすら出来ない理解し、苦々しい思いを抱きながら返事をした。

 ラグニスはそんな俺の様子に苦笑すると、俺を抱き抱えて頭を撫でた。


「レウル、気にすることはないよ。

 確かに今の君では力不足かもしれないけど、それは修行をすることで改善出来るからね」


「ッ!? はい! 師匠! 修行、宜しくお願いします!」


 俺は実力が足りないことに表情を険しくして考え込んでいたが。

 ラグニスの言葉で修行によって実力はあげることが出来ると思い出し、頬を手で叩くと力強く返事をした。

 俺が返事をすると、ラグニスは真剣な表情になって俺の顔を見つめた。


「よしっ! レウル、それじゃあ……」


「ッ!」


 俺もラグニス同様、真剣な表情になるとラグニスの次の言葉を待った。

 そして俺は――


「そろそろ朝食の時間だし、一旦家に帰るか!」


「だあぁっ!?」


 ラグニスのいった言葉に脱力した。

 ラグニスはそんな俺の様子を丸っと無視しすると、朝食を摂るために家の方向へ歩き出した。













 朝食を食べ終わった後、俺達は五感強化の修行するために再び庭へと来ていた。


「レウル、これから五感強化の修行を始めるよ」


「はい! 師匠!」


 俺が返事をするとラグニスは優しい微笑みを浮かべながら頷いた。


「さて、レウルのやる気も十分なようだし、早速五感強化を身に付けるための修行を始めよう」


「分かりました! 師匠! ですが、五感強化を身に付けると言っても、どんな修行をすれば良いのでしょうか??」


 俺は力強く返事をした後、ラグニスへそう言って質問した。

 ラグニスは俺の質問を聴くと、加速ブーストを使って一瞬で姿を消した。

 そして、次の瞬間には――


「へっ?!」


  俺の額に右手を突き出していた。

 俺は先程、額にデコピンを受けたのを思い出し、右手が視界に入ると同時に後ろへ跳んでデコピンを避けた。


「師匠! 何をするのですかっ! 危ないでしょうが!!」


「ふふふ、レウルこれが修行だよ。

 君はこれから僕の放つデコピンを五感強化――目や鼻や耳などに魔力を集中させて避け続けるんだ」


 俺は急に額をデコピンしたラグニスに対して顔を赤くして怒ったが。

 ラグニスはそれだけ言うと再び加速ブーストを使って一瞬で姿を消した。


「なっ?!」


 俺は突然消えたラグニスに驚き、一瞬動きを止めてしまった。

 そして、ラグニスは俺のそんな隙を見逃さず、


 ――ビシッ!

 

「痛ッ〜〜!!」


 後頭部へと強烈なデコピンを放った。

 俺は後頭部を襲った強烈な痛みに地面へ座り込んで悶絶もんぜつした。

 ラグニスはそんな俺を見ながら苦笑した後、


「さぁ――修行開始だよ、レウル」


 そう宣言するのだった。

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