魔族

 レティスが帰った後、俺達は再び応接間のような部屋へと戻り、アイシャの報告を聴いていた。

 色々な報告を聴いたが要約すると、以前聴いた魔族という者達が最近活発に動き出したというものだった。


 俺は魔族という単語から昨日襲われた際に、垣間見た男達の姿を思い出し、ラグニスへ話し掛けた。


「父様、その魔族とは俺とエレナを襲った男達と関係あるのでしょうか?」


「う〜ん、関係あると言えばある、関係ないと言えばないかな?」


 ラグニスは俺の質問に対し少し考えた後、不思議な答えを返した。

 俺が意味が分からず考え込んでいると、ラグニスは少し迷った後。


「ん〜、レウル。

 実はあの男達・・全員死体・・・・だったんだよね〜」


「なっ!」


 と、軽い感じで衝撃の事実を語りだした。

 ラグニスの話によると、魔族とは初代剣神が黒の神と闘った際の配下だったようだ。

 そして、魔族には多種族を魔物と呼ばれる簡易的な魔族に変える力を持っているものがいるらしい。


「……つまり、あの男達は魔族達に姿を変えられた魔物ということですか?」


 俺はラグニスの話からあの男達が元は普通の人間だったと聴き、思わずあの男達も助けられたのではないかと考え、落ち込みながらラグニスに話し掛けたが。


「……違うよ、あれはそれよりも最悪なものだ!」


「えっ……」


 ラグニスは俺の予測を切り捨てると、苛立ちを隠せない様子で机を叩いた。

 ラグニスは一旦落ち着くと静かに魔族達のしたことを語り始めた。


「……あの男達は君とエレナを襲おうとするよりもかなり前に息絶いきたえていたんだ。

 恐らく、魔族が遊び半分で死体をいじくりまわしたんだろう。

 見た目と力だけは魔物だったが、体中が滅茶苦茶に弄られていたせいで他は人間以下だったよ」


「なっ!」


 俺はラグニスの語った内容に背筋が凍った。

 何故なら、ラグニスの言った通りならあの男達の命を、魔族はまるで玩具で遊ぶようにもてあそんだということだからだ。


「なっ、なんでそんな奴らが野放しになっているどころか! 文献に載ってすらいないんですか!」


「――載っていないんじゃない、僕達剣士が隠しているんだ」


 俺は苛立ちからラグニスに怒鳴り付けたが、ラグニスは冷静に俺へ事実を語った。


「父様! それは一体どういうこ――おぁっ!」


「レウル、少し冷静になりなさい」


 俺はラグニスの話を聴き再び頭に血が昇り、再び怒鳴り付けようとしたが。

 ミエールに顔を胸と胸でサンドイッチされて喋ることが出来なかった。


「ん〜、ん〜」


「まだダ〜メ、ラグニスの話が終わるまでこうしているからね」


 俺はミエールから何とか離れようと手足をばたつかせたが、ミエールからそう言われて仕方なく抵抗するのを止めた。


「レウル、僕達剣士が魔族のことを隠しているのには勿論理由があるんだ」


「んっ??」


 ラグニスは俺が大人しく成ったのを見計らって静かに俺に話し掛けた。

 俺はラグニスの言葉の意味が分からず、不機嫌そうな声をあげたが。


「その理由と言うのは――魔族が人間の負の感情で更に強く凶暴になるからだ」


「んっ!?」


 ラグニスの言った理由に驚きの声をあげた。

 何故なら、人間の負の感情と言うことは、もし仮に魔族の存在が明るみになった場合。

 只でさえ厄介な魔族が多くの人間の恐怖などの負の感情によって更に強力になると気が付いたからだ。


「はい、それじゃあもう動いてもいいわよ。

 レウルちゃん♪」


「……すいませんでした」


 俺は衝撃的な事実に放心していたが、ミエールに約束通り放してもらうと。

 直ぐ様ラグニスに頭を下げた。


「えっ」


 ラグニスは俺が謝ると驚いた様子で声を上げた。


「父様が隠しているのには理由がある筈なのに訊こうともせず。

 ――俺は自分自身への憤りから怒鳴り付けてしまいました。

 ……本当に、申し訳ございませんでした」


 俺は頭を下げたまま、ラグニスへ更に謝ると怒られる覚悟で目を閉じた。

 だが、


「まって、レウル。君が謝ることはないんだ!

 そもそも、僕がレウルから離れないようにしていればよかったんだ!」


「父様!?」


 ラグニスはそんな俺の頭を慌てた様子で上げさせると、逆に俺に頭を下げた。

 俺は頭を下げたラグニスに驚くと、今度は俺がラグニスに頭を上げさせた。


「父様! 俺はなんともないので平気です!!」


「あぁ、そうだね。何はともあれ無事で良かった」


 ラグニスは必死に大丈夫だと、伝え続ける俺の姿に苦笑すると俺を抱き締めた。

 そうして、俺はラグニスに暫く抱き締められていたが、


「「レウル、もうそろそろお風呂に入りましょうか!(入ろうよ!)」」


 突然、ミエールとエレナの二人から同時に話し掛けられた。


「……!?」


 その時、窓から目に入る外の景色が薄暗くなってきていることに気が付き、あの約束・・を思い出した。


「ッ! ――なっ!?」


 俺は反射的に逃げだそうと闘気を纏とったが、何時の間にか体を見えない鎖の様なもので拘束されていた。

 俺が動かない自分の体に冷や汗を流していると、


「「レ〜ウル♪ 駄目だよ逃げちゃ♪ まぁ、体を風の魔法で拘束しているから逃げられないわよね?(逃げられないでしょ?)」」


 エレナとミエールが示し会わせたかのようにそう俺に告げた。


「ちょっ、ちょっとまって。

 母様とお風呂に一緒に入るのは少し恥ずかしいし、エレナは女の子なんだから俺みたいな男とお風呂に入るのはまずいと思うんだけど……」


 俺は何とか二人と風呂に入るのだけは回避したいと、二人へ俺と風呂に入るのはまずいと言ったのだが、


「大丈夫よ! 何時もはラグニスとお風呂に入ってるかもしれけど、私もきちんとレウルの体を洗ってあげるから!」


 ミエールは俺が体を洗ってもううから恥ずかしがっていると勘違いするし。


「うん?? ――なんでレウルとお風呂に入ったらいけないの?」


 エレナはそもそも話が通じなかった。


「……はぁっ、分かった。一緒にお風呂入るよ」


 二人に追い詰められた俺は溜め息を吐くと、結局そのことを了承してしまった。

 ――そうして、俺は二人に連れられ家の風呂場へと移動したのだった。

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