巨大な怪鳥

「キュァァッッ――」


 空が茜色に染まった頃、エレナの教える内容について考えていた俺の耳に大きな鳴き声が聞こえてきた。


「ッ! 父様! 何事でしょうか!?」


 俺は突然のことに慌ててラグニスへと話し掛けたが、何故かラグニスは苦笑していた。


「レウル、安心していいよ。

 これはアイシャが帰ってきただけだから」


「えっ、アイシャですか?」


 俺はラグニスに言われ、此処一月程アイシャを見掛けていないことに気が付いた。


「確かに此処一月程見掛けていませんが。

 父様が用事を頼んでいたのですか?」


「う〜ん、そうだね……」


 俺がラグニスへ疑問に思ったことを訊くと、ラグニスは少し考えた後。

 何かを決意して俺の方へ視線を向け、


「もうったんだから、レウルも訊いといた方がいいね。

 それじゃあレウル、行こうか」


「えっ? と、父様!」


 そう言い切ると俺を抱き抱え、エントランスホールへと歩き出した。






 数分後、俺はラグニスに抱き抱えられたまま、エントランスホールから外に出た。


「待ってよ〜レウル〜。

 ふにゃっ、きもちいい〜」


「うふふ、可愛らしいわね♪」


 俺とラグニスがエントランスホールから外に出ると、エレナとミエールも後ろから歩いてきた。


「父様、アイシャは外にいるのでしょうか?」


 俺は出来る限りミエールに頭を撫でられ、力の抜けきったエレナの顔を見ないようにしながらラグニスに質問した。


「そうだよ、もうそろそろ降りてくると思うよ」


「降りてくる? それは――」


 俺がラグニスの言葉を不思議に思い、どういうことかを訊こうとした時だった。

 

「キュァァァァッッッッ!!」


 上空から部屋で聞いた鳴き声が響き急いで上を見上げると、巨大な鳥が雲を蹴散らしながら急降下してきていた。


「なっ!」


 巨大な鳥は羽根を広げ勢いを殺すと、地面へと優雅に降り立った。

 俺は驚きのあまり固まっていたが、


「――ラグニス様、ただいま帰還しました」


 聞こえてきた馴染みのある声に我に返ると、その方向へ慌てて視線を向けた。


「あっ」


 ――そこには、巨大な鳥の背中に乗ったアイシャがいた。


「レウル様!」


「うわっ」


 アイシャは俺の存在に気が付くと巨大な鳥の背中から飛び降り、俺の目の前に着地した。


「このアイシャ! ずっとレウル様にお会いしとうございました!!」


「そ、そうかところでアイシャこの巨大な鳥は? 何処かで見たような気がするんだが」


 俺はアイシャの勢いに驚きながらも何とか質問した。

 すると、アイシャは、


「あぁ、この鳥は雷鳥サンダーバードという私の召還獣でして、雷が主食という変わった鳥です」


「あぁ、なんだ雷鳥サンダーバードか――え。

 ハァァァッッッ!!!」


 さらりと、とんでもないことを言ってくれた。

 俺はアイシャの言ったことを理解すると、開いた口が塞がらなかった。

 何故なら、雷鳥サンダーバードとは本来は雲の中に住み、姿を見ることすら奇跡とさえ言われるほどの珍しいモンスターで。

 尚且つ、その雷鳥サンダーバードを召還獣にしているということはアイシャはかなりの召還魔法の使い手ということだからだ。

 ――召還獣。本来ならば高いプライドと知性を持った高位モンスターに召還者として認められ、契約を結ぶことで召還できるようになった高位モンスターの総称。


「それではレウル様! 私はラグニス様に報告があるので」


 アイシャは雷鳥サンダーバードの説明をすると、ラグニスの方へ向かった。

  俺が巨大な鳥の正体に思わず警戒していると、


『なるほど、アイシャの言うとおり神童と呼ぶに相応しい少年のようですね』


「ッ!」


 頭の中に声が響いた。

 俺はその声に反応して闘気を体に纏い、腰のサーベルへ手をかけた。


『あぁ、警戒しなくてもいいですよ。

 私の認めたアイシャが神童と呼ぶほどの少年が少し気になっただけですから』


「頭の中で声がしたんだ、警戒しない方がおかしいだろ」


 俺は頭の中の声にそう返事をすると、声の主を探すため辺りを見回した。

 だが、肝心の声の主が見つからず冷や汗を流していると、


「キュァァッッ!」

『ふふふ、何処を見ているのですか、私は貴方の目の前にいますよ』


「なっ――まさか!?」


 頭の中に声が響くのと同時に雷鳥サンダーバードが鳴き声をあげた。

 俺が慌てて視線前に戻すとそこには……


『うふふ、随分可愛らしい反応をしますね。

 未来の剣士君は』


 まるで笑っているの誤魔化すように羽根でくちばしを覆い隠している雷鳥サンダーバードがいた。


「さ、雷鳥サンダーバード!?」


『私の名前は雷鳥サンダーバードではなく、レティスですよ。

 未来の剣士君』


 俺が驚きのあまり叫ぶと、名前に関する訂正が入った――って、そうじゃなくて。


「何で雷鳥サンダーバード――レティスは喋れるんだ?」


 俺は慌ててレティスに何で喋れるのかを訊くと、レティスは少し考えた後。


『いいえ、私は喋っているのではないですよ。

 魔力を使って相手にメッセージを伝えているだけです』


 と、答えた。


「魔力を一体どうやっ「レウル、これから大事な話をするから家にはいるよ!」て――ちょっ、父様!」


 俺は説明がよく分からず再度を質問をしようとしたが、ラグニスに再び抱き抱えられた。

 ラグニスが家へと歩き出すとアイシャがレティスに近づき、レティスを元の場所へ送り返すための魔法を詠唱しだした。


『それでは、また会いましょう。

 剣士君』


 レティスは俺の頭の中にそう話し掛けた後、光に包まれて元の場所へと帰っていった。

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