疑惑と新しい予定

 ラグニスと一緒にスピード感を満喫して家に帰った後。

 俺とラグニスはエントランスホールで正座させられていた。


 それと言うのも、エントランスホールで待っていたミエールに、エレナの説明をして家に居る許可をもらった後。

 気絶したエレナと背中の怪我を見られたからだ。


 そうして、俺は過去を思い返して現実逃避をしていたが 、


「ラグニス! レウル! 聞いているんですか!! そもそも、ラグニスがしっかりしてください! 貴方は女性を何だと思ってるんですか!!!」


「ご、ごめんよミエール。

 すっかり忘れてしまって――」


 ミエールの叫び声で意識を現実へ戻した。


「忘れてしまって、じゃありません! ラグニスがそんなんだからレウルがこんな怪我を――ぐずっ」


「えっ!」


 そして、視線をミエールへ向けると、俺の方を見ながら目に涙を溜めていた。


「れうるに、ぐずっ、なにかあったらどうじようがど」


「か、母様。

 こ、こんな怪我平気ですので、泣き止んで」


 俺はつい最近似たようなことがあったな〜と思いながらも、ミエールが泣き止むまで必死に話し掛け続けた。


「すぅ〜」


 最初からずっと眠り続けているエレナを羨ましく思いながら。









「ぐずっ、レウル。もう大丈夫ですよ」


「はい、分かりました」


 小一時間程俺はミエールに話し掛け続けていたが、ミエールが泣き止んだため、体から力を抜いた。

 俺がそうして脱力しているとミエールはラグニスの方へと顔を向け、


「とにかく! ラグニスはしっかりしてください! 分かりましたね!」


「……はい」


 そう言いきった。

 ラグニスが返事をすると、視線を俺の方へと向けた。


「それから、レウルは心配を掛けたんだから、罰として今夜は一緒に寝ましょう」


「えっ」


 一瞬何を言われたのか分からなかったが、言葉を理解すると急いで立ち上がった。


「か、母様。

 何故一緒に寝るのが罰なんですか?!」


「私がレウルと一緒に寝たいからよ?」


「……」


 俺は慌てて罰の理由を確認したが、そう言い切られて押し黙った。


「いぇ、俺の罰はもっと重いも「私もレウルと一緒に寝たい〜」のに……」


「そう、じゃあレウルこれで決定ね」


 俺は何とかそれだけは勘弁して貰いたいと、必死に反論しようとしたが。

 いつの間に起きたのか、エレナまで賛成したことで俺の意見は潰されてしまった。

 結果、俺は。


「――はい、」


 と、返すしかなかった。







 俺達はエントランスホールから移動し、応接間のような部屋へと来ていた。

 俺は椅子に座りながら今夜のことを考え放心していたが。


「レウル〜このお菓子すごく美味しいよ〜」


「ぷっ、ふふふ、そうだな」


 メイド達に出されたお菓子でリスみたいに頬をふくさらませながら、話し掛けてくるエレナの姿に少し落ち着くことができた。


「ふふ、そんなに頬を膨らませてると、お菓子が口から零れるぞ?」


 俺はその姿に悪戯心を覚え、頬を人差し指で突いた。


「むぅ〜」


「ぷっ」


 すると、エレナから変な声が漏れ、思わず吹き出した。

 俺は必死にお菓子を零さないよう、耐えるエレナを可愛く思い暫くそうしていたが。


「レウル、それくらいにしとかないと嫌われちゃうよ?」


 ラグニスからそう諭され頬から手を離した。

 エレナは俺を恨みがましそうに見ながらお菓子を全て食べ終えた。


「もう! 何するのよレウル!」


「あはは、悪い悪い。

 あまりにも可愛く食べていたから悪戯したくなってね」


「えっ、か、可愛い――あぅっ」


 エレナは食べ終えるとそう言って叫んだため、俺は正直に理由を言ったのだが。

 何故かエレナは下を向いて黙り込んでしまった。


「? エレナ、どうしたんだ??」


 俺はそんなエレナの様子を不思議に思い話し掛けたが。

 エレナは俺の声が聞こえないのか返事をしなかった。


「……ミエール、レウルは天然の女たらしだな」


「……えぇ、将来が少し心配です」


 俺がエレナの様子に首を傾げていると、ラグニス達から訊いたことのない単語が聞こえてきた。


「父様、母様。女たらしって何ですか?」


 俺はその単語について気になったので、ラグニス達へその単語について訊いたが。


「レウルはまだ知らなくてもいいんだよ!」


「えぇ、そうです。

 レウルはまだ知らなくて大丈夫ですよ!」


「……分かりました」


 慌てた様子で知らなくてもいいと言われたので、少し気になったが返事をした。

 取り敢えずその単語については一旦保留にし、エレナへ再び視線を向けた。


「エレナ、大丈夫か? 具合が悪いんだったら寝室へ連れていくけど?」


「えっ? ぁ、だ、大丈夫何ともないよ!」


 俺はエレナの具合が悪いのかと思い顔を覗き込むと。

 エレナは顔を赤くしながら大きな声で叫んだ。


「そうか、もし具合が悪くなったら言えよ。

 メイド達に頼んで薬を持ってきて貰うから」


「う、うん。分かった」


 俺は赤い顔が目に入り、やはり具合が悪いのではないかと思ったが。

 エレナ自身が問題はないと言ったためその言葉を信用し、具合が悪くなったら言うことを約束させるだけにした。


「それにしても、レウルってまるで大人みたいだね?」


「えっ」


 俺は話が終わりお菓子を食べようとしたが、エレナの言葉に固まった。


「? そうかな? 確かにレウルは少し大人っぽいと思うけど。

 ミエールはどう思う?」


「私達は子供を育てるのは始めてですし、よく分からないわね?」


 俺はラグニス達の会話を聴き冷や汗を流しながら、この状況をどうやって打開できるかと考えた。


(不味い、そういえば俺は言葉使いとか態度が殆ど前世の時と変えていないぞ。

 ど、どうしよう)


 俺は焦りながらこれまでのラグニス達への言葉使いや態度を思い起こした。

 ――レウルが自身の大人の様な態度を直そうとしなかったのには三つの理由がある。

 まず、ラグニスとミエールが始めての子育てというのと、親馬鹿だったため態度などについて注意されなかったいうこと。

 次にアイシャに「丁寧な言葉使いで素敵です!」と、言われ調子に乗ったため。

 最後に全く家から離れたことがなかったため、そもそも言葉使いや態度を直す必要がなかった。

 以上の三つの理由により、言葉使いや態度はどんどんと大人のものに成っていった。


 俺は何とかしなければと、考えを巡らせたが。

 中々、打開策が浮かばず困り果てた。


「ねぇ、レウルって何でそんなに大人みたいなの?」


 俺がそうして考え込んでいると、エレナがラグニス達との会話を終え目の前にいた。


「そ、そうかな。

 そんなに大人っぽくないと思うけど……」


「ううん、とっても大人っぽくてカッコいいよ!」


「うっ……」


 俺は何とか誤魔化そうとしたが、エレナにキラキラとした眼差しを向けられてたじろいだ。

 だが、あることを思いつきエレナへ話し掛けた。


「あぁエレナ、ひょっとしたら俺が大人っぽいのって。

 本の言葉使いや態度を無意識に真似しているからかも知れないな」


「? そうなの、だったら私も大人っぽくなりたい!」


 俺の話を聞きエレナは納得したようだったが、今度は自分も大人っぽくなりたいと言い出した。


「ぇ、えっとエレナ、大人っぽくなると言ってもどうするんだい?」


「……え〜と、そうだ!」


 俺がどうやって大人っぽくなるのかと、質問するとエレナは少し考えた後。

 何かを思い付いたのか声をあげると俺を指差し。


「レウルに教えて貰う!」


 そう言って叫んだ。


「へぇ、俺に教わるのかって、え。

 ちょっと待ったエレナ! 俺なんかよりもっとちゃんとした人に習った方が……」


「やだっ、私レウルがいい」


 俺はエレナにちゃんとした教師に習うように言おうとしたが、意見をバッサリと切り捨てられた。


「……それともレウルは、私なんかに教えるの嫌?」


「ッ! そ、そんなことないよ! 喜んで教えさせて貰います! ――あっ」


 俺は何とかエレナを説得しようとしたが、だんだんと泣きそうになるエレナに思わず教師を引き受けてしまった。


「本当? やった〜」


「……」


 俺は今の言葉を取り消そうとしたが、喜んでいるエレナの笑顔が目に入り開きかけた口を閉じた。

 ――こうして、俺の毎日の予定に新たにエレナの教師が追加されたのだった。

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