はじめての友達

「う〜ん、よく寝たぁ!」


 空もまだ暗く日が昇り切らぬ時間帯、俺はゆっくりと目を開けて背伸びをするとベッドから体を起こした。

 そして、もう一つのベッドで寝ているエレナを起こさないよう、ゆっくりとベッドから降りる。


「さてと……」


 そのまま衣服の入っているクローゼットから普段着ている旅装束を取り出し、寝間着から旅装束に着替えた後。

 俺はエレナを起こさないよう静かに部屋の外に出ると、修行をするために宿にある大きな庭へと移動した。


 庭でジョギングと剣術の訓練をした後、闘気の修行を始めた。

 体を覆う闘気はまだまだ不安定だったが実戦で使えたためか、以前よりも少しだけ安定していた。


「レウル〜そろそろ朝食の時間だぞ〜」


 そうして暫く闘気の修行に集中していたが、宿の中からラグニスに呼ばれ漸く暗かった空が明るくなっていることに気が付いた。


「分かりました、今いきます」


 俺はラグニスへ返事をすると、宿に向けて歩き出した。








「ぅ、う、う〜ん」


 俺が宿の個室へ着きドア開けたると、ちょうどエレナ眠そうに目を擦っているところだった。


「エレナ、おはよう」


 俺はそんなエレナの様子に苦笑しながら朝の挨拶をした。

 エレナは話し掛けられて漸く俺に気が付いたのか、きょとんと目を丸くした。


「ぇ、えぁ」


「エレナ、もう朝御飯の時間だから食堂に行こう!」


「あ、うん」


 昨日と同じようにエレナが泣きそうになったことに気が付くと、俺はエレナの手を強引に引っ張り食堂へと移動した。


「……」


「エレナ、どうした? 料理が美味しくないのか」


 食堂へ着くと、俺達は食事を摂っていた。

 だが、俺はエレナが最初に会った時と違って静かに食事を食べている姿を不思議に思い、顔を近付けながら話し掛けた。


「ぁ、あのね、」


 すると、エレナが顔を暗くしながら話し掛けてきたので、昨日のことがトラウマになったのかと。

 俺は神妙な顔でエレナの話に耳を傾けていたが、


「――あの時、私を助けたせいで危ない目に遭ったのに、どうしてそんな風に接してくれるの?」


「ぷっ、ふふふ――な〜んだそんなこと気にしてたのか。

 心配して損した」


 エレナの言った内容に思わず笑い転げそうになるのを慌てて堪えると、エレナへそう言って背伸びをした。


「……えっ、そ、そんなことって後もう少しで死ぬところだったんだよ!」


 エレナはそんな俺の様子に口を開いて固まったが、直ぐに立ち直るとそう言いながら捲し立てた。


「そんなことだよ。

 そもそも、それで後悔するくらいだったら始めから助けないよ」


 だが、俺はそんなエレナの主張を切り捨てると、はっきりと自分の意見を言った。

 それでもエレナが何か言おうとしたが、


「いいか! エレナ、今回お前を助けたのは俺がお前を助けたいと思ったからだ。

 つまり、自己満足だ。

 だからその為に死んでも後悔は全くない!」


「……」


 と、俺がエレナを指差しながらそう言い切ると押し黙った。

 俺はそんなエレナの様子を見ながら言うのなら今しかないと口を開いた。


「――なぁ、エレナお前ものすごく面白いやつだな、もしよかったら俺と友達にならかいか?」


 俺は以前男達に邪魔された台詞を一語一句違わずに言うとエレナへと腕を差し出した。


  「ぇ、ぁ、う、うん! 宜しくお願いします!」


 すると、エレナは戸惑いながらも俺の腕を力強く握った。


「ヒュ〜」


 その時、近くから誰かが口笛を鳴らした。

 その音に気が付き周りに視線を向けると、周りの席に座った人達が朝食を途中で中断し、俺とエレナをニヤニヤと笑いながら見ていた。


「……あっ」


 この時此処が宿の食堂だと気付いたが後の祭りだった。

 俺とエレナは周りの客達に散々揶揄からかわれ続け、朝食を食べ終わると顔を赤くしながら急いで部屋へと逃げ帰った。







「くくく、レウル災難だったね」


 俺とエレナは部屋へと逃げ帰ると直ぐ様帰る準備をすると宿を出た。

 すると、ラグニスは離れた位置で一部始終を見ていたようで、軽く笑いながら話し掛けてきた。


「……ハァ」


 だが、俺に返事をする余裕はなく、顔を下に向けたまま溜め息を吐いた。


「あぁ、そうだ。レウル、これ」


 ラグニスはそんな俺に視線を向けると、苦笑しながら紙袋を手渡した。


「……ぇ、これは」


 俺は渡された紙袋に疑問符を浮かべたが、紙袋の中身が目に入ると驚愕した。

 何故なら、紙袋の中にはカフェへ置いてきた筈のミエール達へのお土産が入っていたからだ。


「と、父様どうして置いてきた筈のお土産があるんですか!」


「実はあのカフェが爆発したことにレウルを探している時に気付いてね。

 カフェの定員から話を聴いて、レウルのお土産だって分かったから、少し賄賂おはなしをして渡して貰ったんだ」


 俺は驚きのあまりラグニスに詰め寄ったが、ラグニスの話した内容に脱力した。


 頭を振って考えを切り替えると、エレナに訊くつもりだったことを思い出しエレナの方に顔を向け質問した。


「そう言えばエレナはどうするんだ? 記憶がないんだったら家も分からないんだろ?」


「ぇ、う、うん……の、野宿でもするよ」


 俺の質問にエレナは言葉を詰まらせると、少し考え野宿と言った。

 俺はその姿にエレナを家に泊めることを決めると、許可を得るためにラグニスへ話し掛けた。


「父様、確か家に使っていない部屋が幾つかありましたよね。

 ――エレナを家に泊めることは出来ませんか?」


 ラグニスは俺の言葉を聞き少し考えた後。


「う〜んそうだね、エレナちゃんにはレウルを助けて貰った恩もあるし、何よりレウルの友達だしね。

 いいよ、家に帰ったらメイドに言って部屋の掃除をしてもらわなくちゃね」


「ありがとうございます、父様」


 ラグニスにエレナが家に泊まるのを許可して貰い、俺はラグニスへお礼の言葉を言った。

 すると、ちょうどファスタリトの外に出たようだった。


「さてと、それじゃあ話も終わったことだし、さっさと家に帰ろうか」


「はい、父様」


「ほぇっ?」


 ラグニスはそう言うと、俺とエレナを抱き抱えて空に飛び上がった。

 足で地面を蹴るように空を駆けると、そのまま家へとものすごい早さで移動を始めた。


「う〜〜〜ん、気持ちいい!」


「はぅぅ……」


 俺はその早さが心地よく声をあげて喜んだが、エレナには刺激が強すぎたようで気絶してしまった。


「そうか、レウルそれじゃあもっと早くするぞ!」


「はい、父様!」


 気絶しているエレナを他所に、俺とラグニスはこのスピード感を満喫した。

 ――そして、その三十分後俺達は無事帰宅した。

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