俺! 剣士目指します

 ラグニスの魔法を見てから三ヶ月がたち、俺は一歳になった。


 三ヶ月前にはハイハイしか出来なかったが。

 近頃は足腰もしっかりしてきて、危なげないが両足で立って歩けるようになった。


 この世界の言葉は片言だが、喉がきちんと出来てくると自然に喋れるようになっていた。


 三ヶ月前に聞いた魔法と魔族のことが忘れられなかった俺は、魔族と魔法について知るため。

 語学力を身に付けることにし、本をミエールに読んでもらい、この世界の文字を覚えていった。


 そうして文字を読めるようになると、魔族と魔法について調べていった。

  魔族については何も分からなかったが、魔法のことは少し理解できた。


 まず、魔法とは世界中に満ち溢れる魔力というエネルギーを使って起こす現象だ。

 魔力は目には見えないが、この世界に存在する全ての生命体がもつ、生命エネルギーの一種らしく。

 呪文を詠唱することによって、体内にある魔力を消費し、火の玉や水球に変えるのが一般的な魔法らしい。


 と、ここまで調べたところで俺は行き詰まってしまった。

 何故ならここまで魔法について知ったのは生前の絵本のようなものからだったからだ。

 大人が読むような本は錠前がきちんとかけてあるところにあり、調べるのを早々に諦めた。

 絵本の内容を頭の中で繋げ整理することでここまで理解したのだが。

 一人ではここまでが限界と判断した俺は誰かから習おうと思い絵本をおくと、ゆっくり歩きだした――。










「あいちゃ〜」


 俺は片言な言葉でアイシャを呼んだ。

 アイシャは名前を呼んだのが俺だと気が付くと、小走りでこちらに近づいてきた。


「なんでしょうか? レウル様」


 俺の前で屈み視線を合わせると、アイシャが不思議そうに首を傾げながら訊いてきた。

 そんな、アイシャの姿に苦笑しながら、俺は用件を切り出した。


「まほーについちぇ、おちぇえてくだしゃい!」


 だが、自身の口から出てきた声に落ち込んだ。


(おちぇえてくだしゃい、って俺がこんな声を出していると思うと涙が……)


 俺は内心で涙を流しながら、アイシャからの返事を待った。


「……理由を訊いてもよいでしょうか」


 てっきり、その場で断られると思っていた俺は、意外に思いつつも理由を言った。


「あいちゃとやくにすみちゃいにすこいまほーをつかっちぇみたいからてすッ!」

 訳※アイシャとラグニスみたいにすごい魔法を使ってみたいからです。


 俺がアイシャの顔を見ながらそう言い切ると、アイシャは微笑みながら……


「いいですよ…」


 と、笑顔で言うと俺の頭を撫でた。


「ほんとでしゅか!」


 俺は嬉しさのあまり、その場で飛び跳ねて喜んだ。


「えぇ、本当ですよ。

 ただし、教えるのは知識・・だけですよ? それでもいいですか」


 アイシャがそう念を押してきたが、俺の目的は魔法について知ることだから問題ない。


「わかりまちた!」


 俺は大きな声で返事をすると頷いた。


 かくして。

 アイシャによる魔法レッスンが幕を開けたのであった――。










 アイシャに魔法を教えてもらう約束をした次の日。

 俺は子供用の小さなイスに座りながらアイシャの話を聴いていた。


「いいですか? レウル様。

 まず魔法には七つの属性が存在します」


「そくちぇー?」


「はい、属性には火、水、雷、風、土、闇、光があります。

 そして火、水、雷、風、土には相性があり、水は火に強く火は風に強いというように、この五つの属性は……」


 アイシャの難しい言い回しで説明してきたが、なんとか理解できた。


 纏めると、闇と光以外の五つの属性はお互いに相関関係であり、闇と光は二極化されている、ということらしい。


「やみちょひかりがいちぇはんすこいってこと?」

 訳※闇と光が一番すごいってこと。


 俺が聴いたことを自分なりに理解し、アイシャに話すと一瞬目を丸くした後。


「さすがレウル様! 幼い身で早熟にして賢明、これは教えがいがあります!」


 と、言うと先ほどよりも更に言い回しが難しくなり、詳しく説明しだした。


「いいですか、レウル様。

 魔法を使う者は主に二種類に分類されます。

 まず、掌から魔法の火の玉などを飛ばしたりする遠距離型の魔法を使うもの達のことを魔法使いと言います。まぁ、例外として召喚獣などを……」


 普通だったらいらない豆知識のようなものをアイシャが喋り出したので、重要な部分だけ頭の中で纏めることにした。


 まず、魔法を使う者は掌から魔法を繰り出す遠距離型の”魔法使い” と剣や体に魔力を纏わせ闘う近距離型の”剣士”に分類されるらしい。


 次に、魔法は主に


 ・攻撃魔法:相手を攻撃する

 ・防御魔法:魔法を防御する

 ・治療魔法:相手を治療する

 ・剣闘魔法:剣を使って相手を倒す

 ・精霊魔法:精霊? を使って攻撃する

 ・召喚魔法:何かを呼び出す


 の六つに分けられることができるらしい。


 剣闘魔法について気になったため、アイシャに質問することにした。


「けんちょーまほーはやくにすがつかっちぇちゃまほーこちょでしゅか?」

 訳※剣闘魔法はラグニスが使っていた魔法のことですか?


 俺の質問にアイシャは少しの間考えた後、頷くと剣闘魔法についての詳しい説明をしだした。


「はい、恐らくはそうだと思います。

 剣闘魔法は全身の魔力を自由自在に操り、剣と体を強化する魔法です」


「この魔法は『闘気とうき』という魔力の鎧で相手の魔法を防御し、『爪竜刃そうりゅうじん』という属性を宿した刃で相手を斬り裂く攻防一体の魔法です。

  そしてこの魔法を使い闘う人々のことを剣士と呼びます」


「剣士はとても勇敢で誰も敵わないモンスターからでも私達を守ってくれるんですよ」


 剣士のことが気になった俺はアイシャに剣士の詳しい知識が欲しいと頼むことにした。


「あいちゃ、けんちについちぇもっちょおしへてくだしゃい」

 訳※アイシャ、剣士についてもっと教えてください。


「わかりましたっ! このアイシャ不肖の身ですが頑張ります!」


 俺がそう言うとアイシャは後ろの棚にあった本を取り出し、本の内容を丁寧に説明してくれた。


 結構色々な話を聴いたが纏めると、剣士とは昔に黒の神という神が世界を支配しようとした際に立ち上がった人々が開祖となった生前の絵本等に出てくる勇者の様なものらしい。

 剣士には四つの階級があり、強さは剣聖→剣王→剣帝→剣神となっているようだ。


 そうして、剣士の話を聴きながら、俺は半年前ラグニスと初めて会った時に考えていたことを思い出していた。









 ―― 俺は此方の世界に生まれてから心の何処かであの時女の子の母親の元へ駆けつけるのを躊躇ちゅうちょしたことをずっと後悔していた。


 今でも思う。あの時もっと早く助けに行っていれば、女の子の母親は死ななくて良かったんじゃないか? と。


 だからこそ、ラグニスが俺を守ると宣言した時の強い意思を宿した目を見たとき。

 ラグニスに対して強い憧れと嫉妬を抱き、自分もラグニスのようになりたいと思った。


「レウル様?」


 俺はアイシャの方を見ながら力強く宣言した。


「あいちゃ、おれぇけんちになりましゅ!」


 ……言葉が片言なのが締まらなかったが。

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