父親との対面
俺はメイドからお父さ…いや、ラグニスが帰ってきたと伝えられ、ミエールに抱き抱えられながらエントランスホールに到着した。
エントランスホールは建物三階ほどをぶち抜いた吹き抜け構造になっていて、天井には巨大なシャンデリアがあった。
そして、視線を上から下に戻すと、ずらっと数多くのメイドが並んでいた。
メイド達を見た後、ミエールに視線を戻した時だった。
ガチャリと、ドアが開く音がして慌てその方向に視線を向けると、深々と頭を垂れるメイド達と見た目二十代くらいの赤い旅装束のようなものを着て腰にサーベルを吊るした、赤髪青目の男性が立っていた。
男性は辺りを見回し俺達を見つけると、俺達の所へと近付いてきた。
(ッ!?)
だが、近付かれると男性の服は赤い旅装束ではなく、大量の血で赤く染まったものだと気が付いた。
ナイフ男を思い出し、思わず男性を警戒したが、すぐに必要ないと悟った。
何故なら……
「ラグニスおかえりなさい……」
「あぁ、ただいま……」
「ラグニス、無事で良かったわ。
怪我はしていない?」
「大丈夫、ミエールと怪我しないで無事に帰ってくるって、約束したんだから。
俺がミエールとの約束を破る分けないだろう」
「ラグニスッ!」
「ミエールッ!」
こんな
俺が目の前の
「ラグニス、貴方の息子のレウルよっ♪」
「あぅっ?」
(ヘっ?)
ミエールに無理矢理、
そして、ラグニスは俺へ視線を向けると、
「ミエールに似てかわいい子だね」
「私はラグニスに似て凛々しいと思いますけど」
「そうだね、きっと僕と君との愛の結晶だから二人のいい所を一つにしたかのようだね」
「まぁっ、ラグニスったら」
俺を使って更に
助けを求めてアイシャの方へ視線を向けると、アイシャを含めてメイド達は全員二人を見つめていた。
「あぅぅぅッッッ!!!」
(た、確かに微笑ましいが、見てないで助けてくれェェェッッッ!!!)
俺の
エントランスホールでの
その部屋に着くと、アイシャがドアを開けた後、脇に控えるように移動した。
(ッ!)
俺はアイシャのドアを開けるという、単純な仕草が余りにも洗練されていて驚いた。
これが本物のメイドなのかと、アイシャの技量の高さに舌を巻いていると、いつの間にか部屋の中にいた。
ふかふかのソファーの上にミエールが俺を抱き抱えたまま座り、その隣に着替え終えたラグニス。
アイシャはソファーの脇の方に控えている。
そうして、ミエールに抱き抱えられながらじっとしていると、ラグニス達が話し始めた。
「ミエール、僕が居ない半年間レウルはどうしてたんだい?」
「特に変わったことはありませんでしたよ」
「そうか、それはよかった」
「ラグニスの方はどうでしたか?」
「それがね……実は良くないことが起こりそうなんだ」
また、
真剣な話のようだと分かると、話を聴こうと意識を集中した。
「ミエール、今回のモンスター達の大移動する時期が例年よりかなり早かったのは覚えているね?」
「えぇ、覚えています」
「まだ可能性の段階だけど、今回の騒動に魔族が関わっているのではないかと、僕は疑っている」
俺はラグニス達の話を聴きながら、メイド達から聞いた話を思い出していた。
――モンスター達の大移動。
原因は分からないが、森や河川などに住み着いているモンスターが、五年周期で大規模な移動をすることをそう呼ぶらしい。
そして、この大移動で群れから
ここまではメイド達の噂話で聞いたことがあったが、魔族? という新しい単語が出てきたことで俺は内心首を傾げた。
「まぁッ! それは本当ですか!!」
魔族? という単語について考えていると、ミエールが驚きの声をあげた。
「あぁ、今回のモンスター達の様子はおかしかったんだ。
まるで何かに追い立てられるようにね」
ラグニスはそう言うと、ミエールから俺を受け取り抱き抱えた。
「まぁ、例え魔族達が相手だとしても、ミエールやレウルには指一本触れさせないけどね」
ラグニスがそう宣言した所で、魔族? についての話は終わった。
その後はミエールとラグニスにずっと構ってもらっていたが、魔族? という単語に言い様のない不安を感じながらも眠った。
――ラグニスに対して憧れと嫉妬を抱きながら。
次の日、俺は空を飛んでいた。
……どうしてこうなった。
いや、理由は分かっているけども。
以前魔法をアイシャに見せてもらって以来、たまにアイシャに魔法を使ってもらってはよく観察していた。
今日も、アイシャの魔法を観察していると、ラグニスが部屋に入ってきてその光景を見られた。
それだけだったら何の問題もなかったのだが、
『アイシャ何をやっているの?』
『ラグニス様、これはレウル様に魔法を見せているんです』
『魔法を?』
『えぇ、以前落ち込んでいた際、魔法を見せたら気に入られたようでして。
時々、こうして魔法をお見せしているんです』
と、いう会話がありその際ラグニスに「レウル、お父さんの魔法も見せてあげるよ」と言われ気付いた時には空の上だった。
「あぅ……」
(ハァ……)
「レウル、」
俺が思わず溜め息を吐いていると、ラグニスが話し掛けてきた。
「これから僕が見せる魔法は普通の魔法とは少し違うんだ。
攻撃系の魔法は基本的に相手に火の玉や氷などを遠くからぶつける遠距離攻撃なんだけどね」
ラグニスはそう言いながら、空中で止まり辺りを見回すと何かを探しはじめた。
「この魔法はどちらかと言えば近距離攻撃が主体だからね。
お、あれがいいかな?」
ラグニスは巨大な鉄鉱石が地面から突き出ているのを見つけるとその側に降りた。
俺は少し離れた場所へ降ろされた後、どんな魔法を使うのかワクワクしながら見ていると、ラグニスはサーベルを
何故サーベルを構えたのかと、不思議に思いながら首をかしげていると。
「『
目の前が赤い光に包まれた。
思わず目を閉じ、再び目を開けるとそこには――
「あぅッ!?」
(ハァッ!?)
真っ二つになった、巨大な鉄鉱石があった。
「レウル」
余りの光景にフリーズしていると、ラグニスの声が近くから聞こえ慌てて視線を向けた 。
そして、先ほどの魔法? は何なのかと疑問に思いよく見てみると、ラグニスの持っているサーベルが赤い炎に包まれていた。
恐らくこの炎が魔法なのだろうと思い、炎に包まれているサーベルを凝視していると、ラグニスが話し掛けてきたため緊張しながらラグニスの言葉を待っていたのだが。
「レウルどうだった? お父さんの魔法、凄かっただろう!」
ラグニスから言われた言葉に思わずコケそうになった。
俺の感想を聞くためにこんなにすごい魔法を見せてくれたのかと、返事を待っているラグニスに苦笑しながら。
「あぅッ!」
と、満面の笑顔をラグニスへ見せた。
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