ラグニスとの模擬戦

 アイシャに剣士になると宣言してから二年がたった。


 俺はあの宣言の後、直ぐ様ラグニスの部屋に押し掛け剣闘魔法を教えてくれと頼みに行ったのだが。


 剣闘魔法はある程度は剣の腕がないと使えないと言われたので、剣術の指導をラグニスにしてもらっている。

 その際、前世で使っていた剣道の型を練習で誤って使用し、かなり焦ったがラグニスは「この歳でもう剣の型があるなんて凄い才能だ!」と、見事な親馬鹿を発揮したため何とか助かった。


 アイシャから習っている魔法については

「魔法を使いたいのでしたら、基礎を身に付るのが一番の近道です!」

 と、言われたので魔法に関する大体の基礎的な知識を、ラグニスの指導と平行して習い、一年かけて何とか身につけた。


 そして、二歳の頃には簡単なものだったら、大体の魔法を成功させることができた。


 そうして、魔法を覚えて剣術もラグニスから一時的な合格を貰えたため、俺はあるお願いをすることを決め。

 剣術の指導をするために庭で待っているラグニスの元へとむかった。








「僕と模擬戦もぎせんをしたい?」


 朝方、日課の剣術の指導を終えた後。

 家に向かって歩いている最中に俺は話を切り出した。


「はい、俺も三歳になり剣術の腕も少しは身に付きました。

 なので、父様のように立派な剣士へなるために、目標である父様と一度模擬戦をしてみたいのです!」


 何となく、ラグニスが悩んでいる気がしたため。

 決して、ラグニスから目を離さないようにして言い切った。


 ラグニスは少し考えた後に、


「僕のような剣士か……理由はそれだけかい?」


「…………いいえ、違います」


 真剣な顔をしながら俺に本当の理由を訊いてきた。

 俺は心の中で鋭いなと、苦笑すると本当の理由を言うことにした。


「父様のようになりたいのは本当です。

 ですが、一番の理由は後悔したくないからです」


「後悔?」


 俺の言った理由が以外だったのか、ラグニスは目を丸くしていた。

 まぁ、それは驚くだろう、まだ生まれて三年しか経っていない子供の言うことが後悔だ。


 だが、これは俺の本心だ。

 生前の出来事のように自分の力が及ばないで後悔するのはもう真っ平御免だ。

 だから、強さが欲しい。守りたいものを守れる強さが。


 ラグニスは俺の真剣な様子からこれが本心からの言葉だと分かったのだろう。

 暫く互いに視線を交わしていたが、急にラグニスは両手を上げ溜め息を吐いた。


「ハァ、分かった模擬戦してあげるよ」


「ありがとうございます、父様!」


 何とかオーケーを貰うことが出来た。

 ラグニスに模擬戦は今日の昼頃から始めると言われ、万全の状態でのぞむために自身の部屋で眠りについた。










 昼過ぎ、俺は模擬戦を行うために庭でラグニスと向き合っていた。

 ラグニスは木剣を、俺は魔法で木を削って作った木刀を持ちながら、真剣な表情で互いに黙しながら睨み会っていた。


 俺は木刀を剣術の指導時と同じように晴眼せいがんへと構えた。

 ――晴眼。剣を中段に構え剣先が相手の目と目の間につける、剣道の基本の構え。


 俺が構えを取ると、ラグニスは暫く構えを観察し、木剣を同じように中段に構えた。


「……」

「……」


 互いに構えた後は無言でその場から動かなかった。

 本来ならば、教えてもらう立場の俺から仕掛けなくては行けないのだが、ラグニスの隙を見つけられず攻めれなかった。


「…ッ」


 だが、いつまでもそうしているわけには行かず、真っ直ぐにラグニスへと踏み込んだ。

 ラグニスに隙がない以上、大振りの技は危険だと判断し足へと突きを放った。


 普通は、突きは危険な技なので使わないのだが。

 今回は相手が格上なのと治療魔法の存在により、かなり本気でやった筈だ。


「なっ」


 なのに、ラグニスは半身になっただけで交わした。

 俺が一瞬動揺するとラグニスは直ぐ様切り下ろしを放った。


「クソッ」


 力では勝てないと判断し。

 木刀で受けながら体を一回転させて木剣を受け流し、その力を利用してラグニスの胴体目掛けて切り上げた。


「ッ!」


 ラグニスは一瞬驚愕を顔に浮かべたが、冷静に戻した木剣で俺の木刀を受けた。


「チッ」


 俺は本気の一撃を二度も当てられ無かったことに思わず舌打ちすると、後ろに下がり一旦距離をとった。

 その際、脚を切りつけたが簡単に受け流された。


(クソッ、力の差があるとは分かっていたけれど、ここまでだとさすがにショックだな。

 おまけに相当手加減されてこれかよ!)


 まさか本気の一撃を二回も放って二回ともかすりもしないとは思わなかった。

 しかも打ち合って分かった事だが、力だけでなく技術面でもかなりの差があるようだ。このままでは確実に負けることが理解出来た。


 だから、思いついた”奇策きさく”を実行することにした。

 俺は構えを晴眼から脇構わきかまえに変えると限界まで屈んで踏み込んだ。

 ――脇構え。右足を約半歩引き剣先で後方に半円を描くようにまわし右脇へ構えることで、剣先を隠し柄頭つかがしらだけを見せることにより太刀筋たちすじを相手に分かりにくくする構え。


「なっ!?」


 俺が踏み込むと一時的に俺を見失い、ラグニスは始めて動揺し一瞬の隙が出来た。


「せあ!」


 俺はその隙をつき、ラグニスの脇腹わきばらを切り上げた。


 ラグニスは動揺していて反応出来ない、当たったと。無意識に思った時だった。


 視界にラグニスの木剣が映った――。






 ――カラン


 硬い木刀が地面に落ちる音が辺りに響いた。

 その事をぼんやりと認識したとき、手へと強い痺れが走った。


「イタッ!」


 思わず手を押さえ周囲を確認すると、ラグニスが木剣を持ったまた唖然あぜんとした表情で立っていた。


「父様?」


 ピクリとも動かないラグニスを不思議に思い体を揺すっていると、ラグニスはゆっくり視線を動かし俺を見つけると。


「レウル、凄い! 君はやっぱり天才だ!! って大丈夫かい! ああ、こんなに手が腫れて。

 す、すまない僕が力を入れすぎたのが悪いんだ。

 今、家のメイド達に見てもらうからなッ!!」


 そう早口で喋り、家に向けて全力で走り出した。

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