第18話 旅立ち
「思い出したああああああああああああああ!!!!!!」
「うわっ、どうしたの?! 急に大声出さないでよ!」
山賊だ。
以前、キキリアとかいう女に助言されて、倒した山賊の魔石の欠片を持ち帰っていたことをすっかり忘れていた。
確か、あれをギルドに持っていけば金一封ぐらいは貰えるはず、とキキリアは言っていた。
冒険者の本登録の手柄としては足りないかもしれないが、それでもちょっとは加味してくれるかもしれない。
いや、というか領主様が山賊狩りを探してるって何だよ。それほど名前の売れた山賊だったのか?
というか、もう三年も前の話になるのだが、今更報告に行っても怒られないだろうか。
いや、それより机の奥にしまった欠片が心配だ。あれって腐ったりするのだろうか。
カマキリの卵じゃあるまいし、知らない間に孵化して小さい何かが歩き回ってるなんてことはないだろうが、とっくに砕けた魔石の欠片だ。まともに使えるかどうかは疑わしい。
というか、それ以前にあの欠片をギルドに持って行くのなら親父に街まで連れてってもらうのはまずい。
そんなことをしたら、俺が山賊と戦ったことがバレてしまう。
親父と一緒に街に行くことはできない。そうなると、できれば一人で、少なくとも家族以外の誰かと街まで行く必要がある。
一人で街まで行くのを許してもらえるだろうか。
正直難しい。街道は広いし、モンスターもあまり襲っては来ないが、それはあくまで馬や馬車だとか、あるいはまとまった人数が移動する場合だ。
そういう集団には必ず実力者の護衛がいて、それがわかっているからこそモンスターも近づかない。
それに何より、俺は馬に乗れない。
足のない状態で街まで行くのはかなり辛い。かといって、どこかの馬車に乗せてもらおうにも、こんな田舎村にわざわざ馬車で来るような物好きなんて——
「——いるじゃないか」
魔法教会だ。
普段ならこんな村まで馬車を出して来るようなやつはいないが、今はイーダに会いうためだけに魔法教会が村に来ている。
彼らの馬車に乗れば、安全に街まで行けるだろうし、それなら家族も文句を言えない。
まあ、彼らには俺を乗せる義理はないのだが、そこはイーダと一緒に行けばいい。
イーダも俺と同い年だし、ギルドの仮登録もできるはずだ。一緒に行って登録してくればいい。
それなら、帰りの馬車も出してもらえるはずだ。
イーダを利用するような行動は気が引けるが、背に腹はかえられない。
「イーダ」
「なに? 突然。さっきからずっとぶつぶつ言って」
「——俺と付き合ってくれ!!」
「はっ、はああ!? な、なに突然? つ、付き合うって、その……」
「一緒に冒険者ギルドの登録に行こう!」
「その、シナバーがそこまで言うなら……って、冒険者ギルド?」
「そうなんだ。ギルドの登録に行きたいんだけど、足がなくて。それで、一緒に教会の人に連れてってもらえたらなーって」
「は、はあ?!」
***
「何も魔法まで撃つ必要はなかったと思う」
「人の心を弄んだからよね」
イーダの魔法は洒落にならないから勘弁して欲しい。
あの後、俺はイーダからはちゃめちゃに魔法を撃ち込まれたが、何とか一緒に街まできてもらうという要件は飲んでもらえた。
イーダの魔法も、この三年で本当に洒落にならなくなってきた。
実はバレないように少しだけ彁で魔法を防いでいたのは内緒だ。
家族には、教会の人にイーダと一緒に街まで送ってもらうことになった、と伝えたところ、快く送り出してもらえた。
そんなわけで数週間の後、俺たちは街から迎えに来るという教会の馬車を待っていた。
「にしても、すごいよな。二つ返事で了承してもらえるなんて」
「ふふん。もっと褒めてもいいよ」
「わかってはいるつもりだったが、まさか教会がここまで必死に目をかけてるとは思わなかった」
七光。7つの属性に適性を持つ魔法使いとしての資質。
正直、最初はゲームのレベルみたいに、1から7まで段階を踏んで強いのかとぼんやり考えていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
というのも、属性魔法には、その上位に複数の属性を合わせた複合魔法がある。
例えば、風と火で爆発を起こしたりだとか、火と光でより高威力の熱を生み出したりだとかだ。
この属性の組み合わせは、当然だが使い手の適性に依存する。
おまけに、何も複合魔法は2属性の複合にとらわれない。
3属性だろうが4属性だろうが、使い手に資質さえあれば組み合わせは膨大だ。
イーダなら、ほとんど伝承の中にしか残っていないような、7属性の複合魔法を行使できる可能性がある。
だから、教会もわざわざこんなところまで足を運ぶわけだ。
「もし7属性の複合魔法が完成したら、シナバーに初めに見せてあげるからね!」
「それは嬉しいが、流石に遠慮しとこうかな」
そんなもの見せられたら、最悪目玉がなくなったって驚かない。
事実として、イーダの魔法の腕は飛躍的に向上してるしな。
そんなことを話しながら待っていると、街道の遠くの方から馬車がこちらに来るのが見えた。
「ほお、あれが教会の馬車か。随分いい作りなんだな」
「そうなの?」
イーダにはまだわからないみたいだが、あれはどう見ても高級車の類だろう。
前世でなら、馬車ではないが大量の車を見てるし、相場もわかる。
別に審美眼に自信があるわけじゃないが、それでもあの黒塗りに金の煌びやかな装飾が施された車体に、わざわざあつらえたような黒い毛並みの馬はどう見たって——
「——あんなの、教会の馬車じゃないだろ」
地方の支部に置いてあるようなクラスじゃない。
「そう? でも、黒いのは初めて見るかも」
俺が一人イーダの隣で戦慄していると、やがて馬車は村の手前でその車輪を止めた。
俺は思わず言葉をこぼした。
「……何だよ、これ」
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