第10話 山賊と剣光

 この世界で、狩りと言えば、1番の目玉は魔石だ。


 魔石は魔道具の核や、高度な魔法の触媒として利用できる。


 前世で言うなら、精密機器に用いる貴金属の類とかと近い扱いだろう。それが、モンスターを倒すだけで手に入る。


 だから、多くのハンターや冒険者は魔石目当てにモンスターを狩るのだ。


 ところで、魔石は何もモンスターだけでなく、人間にもある。


 この人間の魔石を、魔道具や触媒として使えるのかというと、使える。ただし、倫理的な問題から表向きには使わない。


 表向きには、使わない。


 裏を返せば、裏向きには、人間の魔石が使われる場合がある。


 中世っぽい世界観のこの世界でも、そんなことをすればもちろん違法なのだが、それでも人間の魔石で魔法の研究をする後ろ暗い魔法学者や、その恩恵を受ける貴族なんてのもいるにはいるらしい。


 さて、需要があれば供給もある。


 つまるところ、そんな人間の魔石の収集やらの犯罪行為を専門に請け負っているのが、山賊だ。


「一応聞くが、聞き分け良くしてれば、ちゃんと帰してくれるのか?」

「当たり前だろ? ガキは趣味じゃないからな。魔石を取ったら、ちゃんと土に還してやるよ!」


 字が違えよバカ、とは言えない。


 まあ、予想はできた。相手には俺を生かすメリットはないし、魔石は金になる。むしろ、こんなところをのこのこと歩いていた俺が、奴らにしてみれば馬鹿だろう。


「ん? おい、ガキ。女をどこに隠しやがった」


 見れば、先ほどから彁の姿がない。俺の言葉を無視した時には、もう姿を隠していたらしい。


「さあね。影にでも潜ったんじゃないか?」

「クソガキが。さっさと吐きゃあ痛い目見ずに済んだのになぁああ!」


 男が怒号をあげると、周りの山賊たちも姿を草の中から姿を現す。


 彼らの手のひらが淡く光っている。どうやら、先程の会話の間に魔法の詠唱を済ませていたらしい。


 子供一人を相手に丁寧なことだ。


「俺がガキを痛ぶって女の場所を吐かせてやる。お前らは女を探せ! 【ファイア・ボール】ッ」

「うおっ」


 体を捻って、飛んでくる火の玉を避ける。


 それを合図に、大柄な男一人を残して残りが散っていく。


 命令を素直に聞くあたり、こいつがリーダー格か。


「往生際の悪いガキだ。——【ファイア・ボール】」


 また火球が飛んでくる。


 だが、今度は先程より大きい。


 横っ飛びにかわすと、すでに男の手に次弾が浮かぶ。


「【ファイア・ボール】」


 だが、俺の方はまだ体勢が崩れている。避けるのは難しい。


『斬って』


 頭の中に声が響いて、言われるがままに刀を振ると、刃が通り抜けた火球は、そこから二つに割れて立ち消えた。

 

「すげえ……」


 思わず声が溢れる。


 鬼打、だったか? 魔石を打って作っただけのことはある。まさか魔法まで斬れるとは。


 それよりも——


「いるのか、相棒」

『うん』


 また、頭の中から声がする。こいつこんなこともできたのか。


「いいオモチャを持ってるらしいな、クソガキ。【ファイア・レイ】」


 山賊の男がまた魔法を放つ。


 今度は無数の火球が俺めがけて飛んでくる。


『右に3歩』


 また頭で声がして、言われるままに行動する。


『頭を下げて』


 頭を下げると、ちょうどその上を火球がかすめた。


「戦い方がわかるのか?」

『何となく、わかる。あ、その木の裏に回って』

「ああ」


 火球を掻い潜りながら、木の裏に駆け込む。

 

「クソッ! なんで当たらねえんだ! 【ファイア・レイ】!」

『合図したら走って。マスター』

「走るって、この火の中をか?」

『そう。……5……4……3』

「冗談きついって」

『2……1……今』

「もうどうにでもなれってんだ!」


 俺は意を決して、迫り来る炎の雨の中に飛び込んだ。


『右、左、左、右、屈んで右——』


 頭の中の指示に従って、皮一枚の距離で火球を制して男に近づく。


 いや、声だけじゃない。


 火球の経路や、動くべき場所、動き方や刀の握り方まで、頭の中に流れ込んでくる。


 まるで彁と感覚が繋がってるみたいだ。


 知らないはずの足運びが、手に取るようにわかる。


 大して握った経験もない刀が、妙に手に馴染む。


 火球を避けては斬り、斬っては避けながら、男と距離を詰める。


 そんな離れ業を当たり前のようにこなせる。


「クソ、来るな! こっちに来るな! 【ファイア・ウォール】!」


 男が地面に手をつき、そこから炎の壁を作り出す。


『斬って』

 

 言うが早いか、刀を振る。


 その太刀筋は先ほどまでとは物が違う。


 炎の壁の一部を裂いて男に近づくと、男は既にこちらに手を構えている。


「かかったな! 【プロミネンス・バスター】!」


 手のひらから、炎の渦が放たれる。


 範囲も火力もこれまでの魔法と桁違いだ。間違いなく、男の隠し球。


 だが、俺には届かない。


 俺は姿勢を低くして男の懐に入って炎をやり過ごし、そのまま死角から背後にまわると、刀を構える。


「——黒南風くろはえ


 無数の黒い剣光が、男を袈裟懸けに襲う。


 しばらくあって、男はうつ伏せに倒れた。


「安心しな。峰打ちだ」

『マスター。誰も聞いてない』

「言いたかっただけだ。残りを倒しに行くぞ」


 その後も、俺は知らない剣技で山賊を奇襲し、ものの数分で全員を気絶させた。


 






 


 

 


 


 

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