第4話 予言の姫巫女
《瑞穂の国 オルテンシア》
「ヴィオラ様。また未来を見ようとしておられるのですか?」
ヴィオラと呼ばれた少女は、しとしとと降り続ける雨の中で、濡れることも気にせずに祈っていた。
声を掛けられたヴィオラが振り返ると、着物姿の水色の髪の青年が赤い番傘をそっと差し出して、ヴィオラに降り注ぐ雨を遮った。
「傘……ありがとうございます。時雨様」
腰まで伸びた柔らかそうな真っ白い髪を、さらりとかきあげると、濡れた髪からつぅと水滴が頬をつたって落ちた。
吸い込まれてしまいそうな美しい紫の瞳をつたう雨粒が、まるで涙のようだ、なんて考えながら、時雨は懐に入れていた手ぬぐいをヴィオラへと差し出した。
「雨の日に傘もささずにいるなんて、風邪をひいてしまいますよ」
「すみません……。自分でもわかってはいるのです。こんな事をしていても時間の無駄だということは……」
それでも、とヴィオラは自分に言い聞かせるように、両手を組み合わせて天へと祈る。
「こうして雨に……水に、触れて祈っていると、まるで
そう言うと、ヴィオラは自嘲気味に微笑んだ。
ヴィオレット・アトレ・エストレッラには、予言の力がある。
予言の力というのは、未来のビジョンを見る力らしい。その力は、映画の予告編のように、未来を左右する鍵となるシーンが断片的な映像として見えるのだという。
本人曰く、姫巫女という立場だからだろうか。予言の力を発動する
それでも、見たい場面を選べるような便利なものではなく、自由に発動する事も出来ないのだから、もどかしいのだろう。
「祈りを捧げて未来が見えることは、本当に少なくて――……」
そう言うと、ヴィオラはそっと時雨の手に自身の掌を重ねた。
「こうして、触れた相手から未来を見ることも――……」
何か、未来が見えたのだろうか。
ヴィオラの顔色がみるみるうちに悪くなっていく。
「ヴィオラ様? どうかしたんですか……?」
青ざめたヴィオラを気遣いながら、不安そうに尋ねる時雨に、ヴィオラはあまり上手では無い作り笑いを貼りつけて慌てて取り繕った。
「いえ、大丈夫ですよ。少し、疲れただけですから……私はこのまま部屋へ戻りますね」
時雨は怪訝そうにしながらも、これ以上詰め寄ったところで話すことは無いのだろうと納得すると、わかりましたと言って屋敷の中へと戻って行った。
(…………このオルテンシアに、裏切り者がいる――)
時雨に触れて見えた
『どうして、貴方が……』
そう呟くと、屋敷の天井が見え、次第に視界が霞んでいった。
(……見つけなくては。私が、殺される前に――)
――ぴちょん。
まるで踊るように。紫陽花の葉の上で、雨粒が跳ねた。
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