還リハ怖ィ 壱

 御兄様御兄様御兄様。

 御兄様御兄様御兄様。

 御兄様御兄様……

 

 オ、ニ、イ、サ、マ……!


 酷い奇異奇異聲で目を覚ました。


 右手には血に染まった麻袋。確かに先刻さっき拾った物とそっくり同じの麻袋。


 しかし……

 こんなに血が滲んでいただろうか……?


 見上げた朱色の空には、首無し鴉が飛んでいる。


 輪を描き、狂狂クルクルと、旋回する。


 ぎゃあああぎゃあああ……


 赤児のような、耳障りな聲。


 

 御兄様御兄様……


 麻袋から聲がした。


 例の醜女の聲だった。


 「御兄様……なんということを……アレを……祠にお供えになったのですか? アレの言う事を鵜呑みにされたのですか? なんということを……なんということを……もうこれで逃げられません。永劫此処から出られません……わたくしの忠告を無視なさって……挙げ句、わたくしをあのような目に合わせて……それなのに……」


 何を言っている!?


 確かに私には妹がいるが、こんな奇異奇異聲などでは断じてないし、器量も良い。ついこの間縁談が纏まり、一安心したところだ! 大体、さっきの男は何処に行った!? 恩を返すなどと嘯きよって……


「時間がありません……鎮守の森に陽が沈みます……もうじき彼らの時がやってきます……それまでに、何とかオヤシロにお行きなさい。わたくしの事など捨て置いて、さっさとお行きなさい……」

 

 どうも胡散臭い……つい先刻も、この切実さに騙されたばかり……


 気の触れたような語り口も、此方を信用させるべく、ひと芝居打っているのやも知れぬ……


 そのことに思い至った私は、麻袋を引っ掴み石段をズンズン上る。


 醜女は麻袋の中でキイキイと喚き散らしている。


 モゾモゾと麻袋が膨らみ縮み、のたうつ様が気持ち悪い。



 そんなことを思っていると、背後で人ならざるモノの叫び聲が響き渡った。


 それに合わせてボトボトと……


 首無し鴉が地に堕ちた。

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